キミは
誰かを殺したいと思ったことがあるだろうか
「搭矢…、あのさ、」
「何だ」
「鋭い目で見つめないでくれます?」
進藤は困ったように笑いながら言った。
「…すまない、つい」
進藤は呆れたように「ついってなんだ」と呟いた。
さっきから進藤は棋院のロビーのイスで炭酸か何かを飲んでいた。
ボクは向かいに座ってそれをずっと見ていたのだ。
進藤はそれを咎めた。
そうだ、見つめていたんだよ、進藤
そこまでわかって、どうしてボクの気持ちがわからない?
ふっ、と進藤がボクに視線を向ける。
「まだ見てるじゃん。もうやめてくんない?何か…ヤダ」
「……」
謝るのも億劫で無言で立ち去る。
「ヤダ」
拒絶の言葉が痛い。
そりゃあ、じっと見つめられたらやりにくいだろうけど…
ふつふつと湧き上がる感情は進藤を憎む。そばにいたいと思う気持ちがこれでいいのかと問いかける。
ただ、何もわからず進藤の近くの存在を望み、
そして、進藤を憎み続けていた。
進藤と、「付き合う」という世間一般ではおかしいとされる関係になったのはいつだったろう。
確か、2年前の、5月の終わり。
何がきっかけだったのかはよくわからない。
ただ、お互いが求めすぎて。
そこで初めて転んだ、といってもいいと思う。
転んだ。
ボクはそう思う。
好きだったからとか、運命だとか、そういうのではないような気がする。
ただ、転んだのだ。
もし、転ぶ原因の石かなにかがなければ、何も起こらなかったんではないかと思う。
それをよかったと思い、そしてお互いライバルとして精進を続けていたんじゃないか、と。
どうして転んだのかと問われれば、よくわからない。
足元を注意していなかった、くらいしか答えはないような気がする。
そう、不注意だったんだと思う。
でもその不注意は、本当はわざとだったのかもしれない。
気をつける気がなかったのだ。
なぜなら、転べば彼は振り返って手を差し伸べてくれると確信していたから。
転んだのはボクの方だった。
ボクは彼をとても求めていたから。
ずっと、ずっと…
だから、彼がボクと同じ気持ちかもしれないと思った時、体の力が抜けていた。
彼を求めた。
「搭矢っ」
進藤はボクの後を追いかけてきた。
「何だ?ボクが見ているのは嫌だと言っておきながら」
「なんだよぉ、何拗ねてんの?なんかあった?」
なんかあっただと?
そんなことは自分の胸に聞け!
「知らない。ボクは帰る」
「え?!おまえ、対局は??」
「中押し勝ちだ」
進藤は驚いたような納得したような顔をして「じゃあ」と言葉を続けた。
「お断りする」
「は?!まだ何も言ってねーじゃん!」
「今日はキミに付き合いたくない」
ボクが立ち去ろうと進藤に背を向けると、肩をぐいっと捕まれて前を向かされた。
「何でっ?」
進藤はじっとボクを見た。いや、睨みつけていると言ってもいいかもしれない。
「一人になりたいからだ」
「…オレとも一緒にいたくないの?」
キミと一番一緒にいたくないんだよ
そう言おうとしたけれど止めた。
「どうしてもと言うならキミがうちに来い。ボクは何もする気にはなれないから御もてなしもしないけれどね」
「…じゃあ、終わったら行っていい?」
「お好きにどうぞ」
ボクはそう言うと、さっさとその場を後にした。
ボクは彼を求めたけれど、彼はそうではなかったのではないかと思うことが多々あった。
彼はボクと一緒にいるのは楽しいと言ってくれたけれど、他の友人との時間もちゃんと取っていたし、
告白したのも、初めてキスしたのも、すべてボクからで。
何より、彼女がいると噂がたった。しかも2人の人物が同時に噂になったのだ。
ボクはそれを聞いて真っ白になって、それから真っ青になって慌てて、最後に真っ赤になって進藤を罵った。
進藤は慌ててその噂を否定し、その原因となった「彼女達」のことを説明してくれた。
一人目の噂の主は進藤が棋院に連れてきたこと女の子だと言うことだった。
その人は進藤の幼馴染の女の子。ボクも会ったことのあるかわいらしい子だった。
たまたま彼女と棋院の近くでばったり会ったらしく、お互い幼馴染で家も近かったのに、進藤が対局で忙しくなるし引越しはするしでゆっくり話もしていなかったと言う。だから棋院で一局打とうということになったらしい。
それを見たほかの棋士たちが勘違いを起こし噂を立てたということだ。
「あかりは幼馴染だからそりゃ仲がよく見えるに決まってるじゃん?それだけなんだぜ?」
仲がよく見えるに決まってる。
そうか、幼馴染だと仲がいいのは当然なのか。
じゃあ、ボクは?
ボクだって、進藤と恋人だと言うのなら仲がいいんじゃないのか…
どうして、彼女が…恋人だなんて噂がたつんだ…
知っている。ボクは男で進藤も男だから。だから噂なんて立たない。
彼女は女だから、それだけなのに…
わかっている。噂なんかがもし本当に立とうものならボクはすごく困る。
だからむしろ幼馴染が彼女だと皆に思わせておけば、ボクらの関係が勘付かれることもないだろう。
言い換えれば…都合がいいのだ。そんな噂が立つのは。
だけど…二人目の噂の主は進藤のファンらしい。
その子が進藤を訪ねに棋院にきたらしい。ある棋士にキミは誰かと聞かれて、
そのファンはこともあろうに「彼女だ」と答えたらしいのだ。
もちろん、進藤はその子とは付き合ってもいない。少しなら言葉を交わしたとこがあるらしいが。
ただ彼女が自分でありえない事実を作っただけ、ということだ。そのことが起こったのがたまたま近い日だったから、噂が同時にたったらしい。
ただ、それだけらしいのだ。
進藤が言うには。
進藤がボクの家に来たのは夕方、日が沈もうかとしたところだった。
「遅かったな」
「はは、待った?」
進藤が嬉しそうに笑いながら入ってくる。
勝手に入るな
「来なければ楽なのにと思っていたところだ」
「ちぇ、なんだよ」
進藤は寂しそうにしたが、すぐに笑顔に戻して今日の対局のことを話し出した。
とてもいい一局だったらしい。検討も楽しくてつい長引いたと進藤は言った。
ボクはそれを相槌を打ちつつ、進藤をじっと見つめた。
ボクは進藤が好きだ。
でも進藤はボクが好きなんだろうか…
ただ、なんとなく、好奇心か何かが働いて、ボクが好きだと錯覚しているんじゃないだろうか。
キミはボクが本当に好きなんだろうか
そう問うたら、キミはなんて答えるんだろう…
ねぇ、進藤キミはなんて答える?
「まぁた!搭矢、それ無意識??」
「…何が?」
「オレのこと、睨んでる!オレなんかした??」
進藤はむうっとした顔でボクを睨んだ。
「……睨んでいたか?」
進藤ははぁっと盛大なため息をつくと指をさして言った。
「睨むってもんじゃねーぜ?もう!なんつーの?そう、視線で殺されそうだもん〜」
進藤はおどけて言ってみせた。
殺す…?
キミが好きだから 微笑みかけたい
キミが好きだから 一緒にいたい
キミが好きだから 許せる
キミが好きだから 許せない
キミが好きだから 一緒にいたくない
キミが好きだから…
キミを愛しているから キミを殺したい
「搭矢?聞いてる??」
進藤がボクの顔を覗き込む。
なんて、無邪気な顔だろう…
「搭矢?」
ボクは進藤の髪を乱暴に掴むと自分の方に引き寄せた。
そのままキスをする。
進藤、好きだ。
好きだ。好きだ、スキダ…唇を離して、進藤の顔を見る。
進藤は恥ずかしそうに俯く。
かわいい…
愛しい。……進藤
好きだ。
もう一度顔を近づけてキスをする。
どうして、
どうして、ボクだけを見てくれないの…唇を離して進藤を押し倒した。
進藤が驚いて目を見開く。
そのままボクは進藤の首に手を伸ばした。
進藤の首に手をそっと添えてみる。
進藤はきょとんとしたままボクを見上げた。
本当に、無邪気なんだね。キミは…
少しだけ、力を入れる。
少しずつ、少しずつ、手に力を込める。
進藤は苦しそうに暴れた。
苦しそうなのではなくて実際に苦しいはずだ。
首を絞めているんだから。
「苦しい?進藤」
進藤の目にはみるみる涙が溜まっていった。
苦しそうに口をぱくぱくと動かす。言葉が出ないようだ。
「苦しいんだね…」
進藤は何かを必死に言おうとしていた。
少しだけ、ほんの少し力を抜くと、
「ん、で」
進藤はそれだけ口にした。
“なんで…”
「なんでだと思う?」
進藤の目から涙が零れた。
一粒零れた後は、壊れたように次々と零れだす。
「わからない?」
進藤は「んんっ」と言葉を漏らしたが、それは肯定なのか否定なのかわからなかった。
ボクは一瞬だけめいいっぱいの力で進藤の首を絞めると、手をすぐに離した。
すぐに進藤の苦しそうな咳が聞こえてきた。
ボクはその辺にあったタオルで進藤の両手を縛り上げた。
まだ苦しいのか、進藤は何の抵抗もせずにぼおっとボクを見上げて荒い息を整えていた。
「…と、…搭矢…」
「なに?」
ボクは笑顔で返した。
「ど…したんだ…、なんか……変、だよ…?おまえ…」
「そう?ボクが変?」
くすっと笑ってみせると進藤は顔を強張らせてボクから離れようともがいた。
「駄目だよ…、逃げたら…」
ボクが進藤の行動を抑えつけて止めさせる。
「ヤダ…」
また、“ヤダ”か…
そう、嫌なんだ。そうか…
「進藤、ボクが……」
好き?
ねぇ、進藤
「とぅ、や…」
ボクは立ち上がって台所に移動した。
かちゃ、かちゃ、…
振り返って進藤を見てみると、進藤はひどく不安そうな顔をしてボクを見ていた。
不安だけじゃない。…恐怖の色をも見せていた。
「ボクが怖いの?進藤…」
そう問いかけると、進藤ははっとして首をぶんぶんと横に振った。
「そう、怖くないんだ…」
すごいね…
ボクは台所で手に入れたモノを持って進藤の元に向かう。
ボクが一歩近づくたびに、進藤の顔が段々と強張っていき、恐怖の色が増した。
それが妙に楽しかった。
「ねぇ、進藤…」
ボクは進藤の傍らに座り込んで顔をじっと見つめた。
進藤もボクをじっと見つめ返した。
でもそれは、ただ、恐怖のためであるようにしか見えなかった。
それで、よかった。
ボクは満足だ。
「キミを殺したら、キミはボクだけのものになるのかな…?」
進藤が息を呑んだ。
ゆっくりと、持ち出してきた包丁を進藤の首に持っていく。
首に少し触れたところでボクは手を止めた。
「どう?怖い?」
進藤は身動き一つしないでボクを見上げた。
それは恐怖の色もあったけれど、戸惑いも感じられた。
「進藤、どうしたの?」
「…ぉまえ…が、…好き」
頭を、熱せられた鉄の塊で殴られた気分だった。
なんだって?
「好きだ、よ…。も、オレは…おまぇの…モンじゃん…?」
包丁を首元から離した。
「進藤…ボクは、キミのこと…嫌いだよ」
キミなんか、大嫌いだ。
「嘘だ…。ね、何怒ってるんだよ?」
怒ったくらいでキミを殺そうとするもんか。
キミは本当に何もわかっていないんだね。
「いたっ?!」
進藤の腕を包丁で少しだけ切ってみた。
切れ目からすうっと血が滲む。それはどんどん集まってつうっと一筋の赤い線となった。
「っと…や…」
「キミなんか、…」
死ねばいいんだ。
ボクだけのものになってしまえばいい。
ボクだけ、見ていてよ
「ヤダっ、搭矢っ」
進藤が縋るように叫んだ。
ボクは包丁を進藤の足に押し当てた。
ひっと進藤が息を呑むのがわかった。
押し当てたまま少し力を入れて引くと進藤が小さな悲鳴を上げた。
綺麗な赤い血が流れた。
「綺麗だね、キミの血…」
「や…、やめ、搭矢」
ボクは少しずつ進藤を傷つけていった。
腕、足、胸、腹…全て…
そのたびに進藤は声をあげ、赤い血が流れた。
「と…ぅやぁ…」
進藤はいつのまにか泣いていた。
ボクは進藤の涙を拭うと、「何?」と優しく聞いた。
「痛い……」
進藤を眺めてみると、服は半分くらいが赤く染まっていた。
「綺麗だよ?」
「痛い、痛い…」
進藤は首を弱く振りながらボクを見つめた。
「大丈夫、その内痛くなくなるよ…」
だって、死ぬんだもの
「ヤダ…」
「っ…」
「あっ!とっ」
本気で進藤の首を絞めた。
さっきとは比べ物にならないくらいの力で。
「キミが好きなのにっ!」
ぐっと力を込めると、進藤は「あ」と声を漏らして目を閉じた。
「…はぁ、…はぁ…はぁ…、し、んどう…?」
進藤は返事をしなかった。
「進藤…」
死んだの…?
ボクは進藤の手首を縛っていたタオルを解くと、進藤の手を持ち上げた。
そのまま口に運んで、進藤の手首から流れていた血をそっと舐めとった。
「血の味…」
そのまま野良犬のように血をぺろぺろと舐め続けた。
「キミはもう…ボクのものだよね…?」
そうだよね?
もう、どこにも行かないよね…?
「な…で、泣くの?」
舐めていた腕が意思を持ってボクを抱き寄せた。
「しん…どう…?」
生きて…?
「何で、泣くんだよ?」
進藤はゆっくり起き上がった。顔を歪ませたのは体の痛みのためだろう。
「オレのが泣きたいよ…」
進藤は真っ赤に染まった手でボクの頬をそっと撫でた。
「搭矢…、聞いてる?」
「進藤…」
「何で、泣くの?や、違うか、なんでこんなことするんだよ?」
「泣いて、ないし…、キミに、関係ないだ…ろ」
「おまえは泣いてるし、オレに関係ありありなんだけど?」
ボクの頬を彷徨っていた進藤の手は弱々しく震えていた。
「何で…」
「こっちが聞きてーよ」
「わか、らない…」
進藤が真っ赤に染まったまま微笑んだ。
進藤っ…
違う、違う、
キミが欲しかった
ボクだけのものに、ボクだけを見て欲しくて
殺すつもりなんか…
ただ…キミがっ……キミが好きなんだ
とう……とうや……
搭矢…
…進藤…?
「搭矢っ!」
「っ?!」
あ、…れ?
「搭矢?おま、大丈夫かよ…。もう、しっかりしてくれよ…」
「何…?え?進藤……」
「大丈夫かよ?どっか痛いのか?」
痛い…?
“とぅやぁ……痛い…”
…っ
あ…れは…?
何で…進藤は無傷なんだ…?
「キミは…痛く、ないのか…?いつのまに、…」
「はぁ?何言ってんだ?目ぇ開けたまま夢でも見てた?」
夢?
あれが…?
ぞくっ
「っ…」
自分の両腕を抱えた。
寒い…
違う…
………怖い………
気がつくとボクは鳥肌をたてていた。
あれが夢?
あれが…
でも、ボクは…
「搭矢…?本当に、大丈夫なのか?病院行く?」
進藤は本当に心配そうにボクに近づいてきた。
ボクは近づいてきた進藤を押し戻した。
「な…に?…搭矢?」
「夢じゃないんだ…」
「何が?」
「夢じゃ、ない。…だって」
進藤を切った感触が手に残ってる。
進藤の血の味だって…あの独特の味がまだ口の中に残ってる。
それを心底楽しかったと思った自分がいる。
あれは…ボクの望み…?
「何か、夢、見たのか?」
「違う…夢じゃ…」
あまりにキミを憎みすぎて…
「どんな夢?怖い夢だったのか?」
怖い、
自分が、怖い
キミが好きすぎて、怖いんだ…
「搭矢…大丈夫、夢なんだからさ。な、そんな顔すんなって」
そんな顔…
ボクは、どんな顔をしてる?
キミを殺そうとしていないか…?
「真っ青だ。なぁ、大丈夫だから…夢だよ?全部」
進藤はそっとボクを抱きしめた。
大丈夫じゃないんだ…
このままじゃ…
このままじゃ、あの時と同じように…
キミを殺してしまうよ
「キミをこ、殺す夢だった…」
「え?」
進藤はそっと体を離してボクを覗き込んだ。
「ボクが…キミを」
「殺す夢?」
「キミは、真っ赤で…ボクは…」
笑ってたんだよ
「おまえがオレを?」
進藤は心底可笑しいと言う感じでボクを覗き込んだ。
「何で、殺すの?」
“なんで…”
「………何故だと思う…?」
「…、おまえ、怒ってるのか…?」
「何に?」
「また、ほら」
「何が、また?」
「また、あの目。睨んでるよ…?自覚、やっぱ、ねぇのか…?」
「そう、ボク、睨んでるんだ?」
「止めろよ、その目。その目の後、おまえ、固まっちまったんだぜ?」
「やめて、欲しい?」
「搭矢………、どうした…?もしかして、オレを殺したいの?」
「キミを?…また殺すのか…」
「また、って。それは夢だろ…。何で?オレ…なんか、したのか…?」
「何かした?…まだ、わからないの…?」
「……わかんねぇ」
「そう、…別に、期待はしてないよ…」
「搭矢、何した?オレ、何したの?悪いことしたんなら謝るよ…」
「いらないよ、…キミが、ボクのものになるなら…」
「搭矢…」
「ねぇ、さっき、ボクはどうやってキミを殺したと思う?」
「どうやって、って…」
「包丁でね、ゆっくり切っていったんだよ。キミは痛いって叫んでた」
「…それ、って笑うこと……?」
「笑う?何が?」
「おま…笑ってる。微笑んでるよ…」
「そう?いいじゃないか、そんなこと」
「い、くない。おまえ、…怖い…」
「………怖い?」
「………」
「さっきは怖くないって言ったのにね」
「さっきって!それはオレじゃねーってばっ!」
「キミだよ」
「違うだろっ!それはおまえの夢!ここは現実なんだ!搭矢、おまえわかってんのかっ?!」
「わかってるよ」
「わかってねぇ!」
「わかってる。どっちみち、ボクはキミを殺すんだよ」
「っ…わかってねぇ…じゃんか」
「…怖い」
「は?」
「もう、切るのは怖い」
「…。だから、なんなんだよ?」
「怖い……」「あっ!搭矢っ?!」
怖い、怖い…
何が、怖いんだっけ…?
痛い、痛い…
ボクは…どこも痛くないよ…?
助けて…
助けて欲しい…
誰か…誰、か
進藤…
助けて、進藤…
進藤…
しん…ど…
キミを殺したいんじゃないんだ
他の、誰にも触らせたくないだけなんだ
そんなの無理だとわかっているのに
ただ、キミが好きな、だけ
それだけ
殺したって、キミはボクのものにはならないのに
殺したら、ボクは泣くだろうってわかっているのに
生きていてくれて、安堵の涙を流したのに
それでも
キミが憎いのは何故なんだ
キミへの気持ちの行き場がわからない…「搭矢、搭矢…、搭矢ぁ、お願い…」
「進藤…?」
「あ!と、搭矢!よ、かっ…」
「……ボク、また、キミを殺そうと……」
「わかった、わかったから、搭矢。でもやっぱオレわかんねぇから。だから話してよ?ねぇ」
「な、にを…?」
「なんか、あんだろ?オレを、その、殺したい理由…」
「理由…」
「なんか、オレ、おまえを追い詰めてたんだろ?違う?」
進藤は今にも泣きそうな顔でボクを覗き込んだ。
そっと抱きしめられる。
どうして、殺されそうになっても、ボクを怖がらないの?
本当は怖いのに、ここに居てくれるのか…?
それは、どうしてなんだ…?
進藤、どうして、抱きしめてくれるんだ……?
「言って、搭矢。オレ、バカだからわかんなくて…。おまえを苦しめてたってわかんなくて…」
「ど、して…?」
「なに?」
「どうして、知ってる?」
進藤はボクをそっと覗き込む。
「おまえが苦しんでること?」
頷くと進藤はさらに泣きそうな顔をした。
「殺した夢を見たって言われちゃ、さすがにわかるよ…」
「でも、キミ…わかってなかったじゃ…」
「さっき、気絶してる時、おまえなんて言ってたか覚えてる?」
首を横に振った。
言うとか言わないとか以前に、気絶していたかしていなかったかもよくわからない。
未だに、進藤を切り刻んだことが夢なのか夢じゃないのか、区別がつかない。
「怖い、痛い、…それから、助けて進藤…って」
進藤は泣きそうな顔のまま微笑んだ。
無理してわらってるのがよくわかった。
「助けるから、どうやったら助けられるか、教えて?」
「……いい、いらない」
キミには無理なんだ。
「どうしてっ?!」
「だって、キミには無理な話だから…」
「何で無理ってわかんだよ。出来るかもしんねーだろ!」
もう!
いいんだっ
もう、耐えられない!
助けて!苦しいっ
「もういい!いいから!もう彼女のところにでも何でも行ったらいいっ!」
「な?に?」
「ボクと付き合いたくなかったらそう言えばいいだろうっ!別に気を使わなくてもっ!」
「な、に言って…」
「もう来るなっ!来たら今度こそ殺してしまうっ!もうっ、もうっ」
「ちょ!まっ」
「聞きたくないっ!もういいからっ!出ていけっ!!」
「搭矢っ!!」
「っ…」
進藤は今まで見たことがないくらい、怖い表情をしていた。
怖い。
もしかしたら…ボクもこんな表情、だったのかもしれない…
「意味、わかんねぇ」
地の底から響くような声だった。進藤のものとは思えないくらい…
「彼女?まだ、んなこと、気にしてたのか?オレ、理由、言ったじゃん…」
「…違う…」
「何が違うんだよ」
「キミと、あの幼馴染の…」
「あかり?」
「…見た。4日前」
「…4日前…って、あ、ああ。え?おまえ居たの?」
「………」
「な、二人っきりで会ってたから?だから疑ったのか?」
「………」
「だからさぁ、幼馴染だからそんなの意識しねぇんだって」
「………」
「そりゃぁさ、仲よさそうには見えるかもしんねぇけどさ…。そんなのおまえと市河さんみたいなモンだって」
「キスしてただろう」
「はっ?!」
「してただろう…?」
「し…してねぇって!何言ってんだよ!」
「してた。ボクは…見てた」
「してねぇ!……あ、あ!」
「っ……」
もう、いいんだ。
キミが彼女を選んでも。
キミだって男なんだし。
「それ!それってさ!あ!ちょっと待てよ!その、してねぇんだけど、おまえが見たキスの後さ…」
「………」
「あかり、泣いてなかった?」
「………?」
そうだっただろうか…?ボクはショックでその後のことは…よく…
ええっと、進藤が彼女の顔に近づいて…、それから、彼女は…
そうだ。確か、恥ずかしそうに頬を赤らめて、目を潤ませてた。
それを進藤が困ったように笑いながらなだめて、いるように見えた。
その後は知らないけれど…
「泣いてるというか、涙ぐんでいたと思う…けど」
「やーっぱり!」
「……何がやっぱりなんだ…」
「わわっ、睨むなって!キスはしてねぇってば!あかりがさ、目にごみが入ったって」
…ごみ…?
「うっわぁ…止めろよぉ、そのめちゃめちゃ疑った目を〜」
「本当なんだって!そんでさ、オレが見てやったらさ、あいつの目んとこ引っ掻いちまって…」
何だか…嘘っぽいというか…
マンガみたいだな…
「でさ〜、あいつ怒って怒って!それを宥めるため、オレあいつにパフェ奢ってやったんだぜ?」
心配して見てやったのにちょっと失礼だよな、まぁ、引っ掻いちまったオレも悪いのかもしんねぇけど
進藤は小声でぶつぶつと呟いた。
「そんだけなの!わかった?」
理解は…したけど…
「んも〜、疑い深いなぁ。まぁあんな噂の後だし…わかんねぇことねぇんだけど…」
進藤は自分のポケットから携帯を取り出すと素早く何かを操作して、携帯を耳に押し当てた。
「ちょっと待ってろ。今あかりに確認とってやるよ」
進藤はウインクをしてみせた。
「あ、あかり?」
進藤はボクに近づいて、電話を指差した。
聞いとけって意味なんだろう
人の電話の会話を聞くのは少し気が引けるけど…
『どうしたの?電話なんて珍しいよね』
「あのさ〜、この前の引っ掻き事件あるだろ?」
『うん?それが?』
「あれさ〜、和谷に見られててさ〜。あかりとキスしてたろ〜って冷やかしてくんだよぉ」
『ええっ!和谷さん、いたのっ?!』
「そうなんだよ〜、オレが説明しても全然駄目でさ〜。もう参っちゃうよ〜」
『もう、ヒカルが引っ掻くから悪いのよ!』
「おい!オレのせーじゃねーだろぉ!」
『それで?私にどうしろって言うの?和谷さんに説明すればいいの?』
「ああ!大丈夫、今ここでもう聞いてた」
『えっ?!和谷さん、そこにいるの?』
「うん、あ、もういい?そ?や〜、なんか納得してくれたみてー」
『そう、ならよかった』
「だよな。おまえ彼氏できたんだろ?」
『えっ、何で知ってるのっ?!』
「へっへ〜、この前電話慌てて取ってたじゃ〜ん?あれじゃ彼氏怪しむんじゃね〜の〜?」
『ヒカルのせいでしょ!あの時声が涙ぐんじゃって心配されたんだから!』
「大丈夫だったのかよ?」
『大丈夫よ、ヒカルに虐められたって言っておいたから』
「おい!」
『ふふ、大丈夫よ。私の彼怒りっぽくないから、ヒカルと違って!』
「一言余計だ!」
『ヒカルも彼女出来たら紹介してね。私も紹介する。彼が会いたがってたから』
「えー…、オレのこと目の仇にしてたりしてんじゃねーのぉ…?」
『そんなわけないでしょ!囲碁のプロよって言ったら興味持っちゃっただけ』
「へぇ?囲碁できるんだ?」
『私より強いのよ』
「あかりは弱すぎるんだよ」
『ひどーいっ!』
「ははっ、まぁ、前より上達はしてるけどな」
『本当?よかった。また今度打ってね』
「ああ、その彼もつれて来いよ。ちょっと見てみたくなった」
『ふふ、わかった。言っておく。じゃあね』
「じゃな」
「ってことなんだけど?搭矢さん?」
進藤が満面の笑みで言った。
「随分楽しそうな会話で」
「も〜っ、問題はそこじゃねーだろがっ!」
…もう、わかりすぎるくらい、わかってきた。
「全部、ボクの勘違いだって言いたいんだろう…」
「言いたいってか、そうだろ、実際に」
「………」
「オレを殺したいくらい、あかりに嫉妬した?」
「………してない」
「うっそ!オレのことすっげー睨んでたくせに」
「………」
「オレが好きなのは、搭矢だよ」
「………」
「搭矢?ね、好きだよ?」
「わかった…」
ボクが、ただ早とちりしただけ。
嫉妬をして、その感情をどうしたらいいかわからなくて、
原因を作った進藤に八つ当たりしてただけなんだ。
それだけなのに…
ボクはなんてすごい殺意を抱いてしまったんだろう
「オレを殺していってまだ思う?」
「………」
「え?!まだ何かあんの?!」
何も、ないけれど…
ただ…
「キミが、ボクを好きだって」
「うん?」
「信じられない…」
「はぁ?何でだよ〜も〜、おまえの言うことっていっつもわかんねーっ」
だって、
ボクにはキミしかないけれど
キミには沢山の大切なものがあるから…
「好きでもないヤツと付き合えるかって!」
「好きだと…錯覚しているんじゃないのか?キミは…」
「さっ、かく…?」
「ボクがキミを好きだなんて言ったから…わけがわからなくなってるんじゃないのか?」
「んなわけねーだろ…。オレってそこまでバカっぽいのか?」
「告白だって、キスだって、打とうって誘うのだって、いつもボクだ」
「う…それは、否定できねぇけど…」
「キミは別に友達としてボクを好きだって思っているのを勘違いしてるんじゃないのか…?」
「そ、そりゃ!初めは驚いたし、まさかって思うじゃん!でも、いろいろ考えて、やっぱおまえが好きだって納得した!ただ、オレが自覚したとたんおまえが告白してキスしてきて、どんどん先に行っちまうからオレわけわかんなくって!」
「やっぱりわからないんじゃないか」
「そうじゃなくって!おまえがどんどん先々してくるから!オレからキスするタイミングなんかなくなんじゃんか!」
「そんなタイミングなんていくらでもあるだろう!」
「ねぇよ!オレがしてもいいかな、しようかなって思ったらいっつもおまえが先にしてくんじゃん!」
「そんなの知らないよ!ボクがしたいと思った時にしてるんだから!」
「告白だって、オレが自覚したとたん急にしてくるし!そんなのどーしよーもねーじゃん!」
「だって!」
「打とうって言うのは付き合う前からおまえが言ってたじゃん!それに時々ならオレだって言ったぞ!」
「そうかもしれないけど!」
「大体オレの方がおまえの気持ち疑いたくなるぜ」
「な、何だって?!」
「だって!キスはいっつもいっつもしてくるくせにセックスはしようとしねーじゃんか!」
「せっ…?は?だって、ボクたち男だぞ…?」
「あ?え?あ!おまえ、知らない…?のか?」
「知らないって…」
「出来るんだぜ?男同士でも…」
「えっ?!」
「知らないって…おいおいそんなことあるかぁ?」
「そ、ちょっと待て!だっ、し、知ってる方がおかしくないかっ?!」
「おかしくねーよ!オレたち付き合ってるのにそういうの調べなかったのか?」
「…調べるって…はなから…そんなこと考えつかなかった…」
「オレとエッチしたくねーわけ?」
「だっ…て、そ、出来るなんて…し、しらな…」
「オレとっくのとうに覚悟決めてたんだぜ?なんつーか…やっぱ、オレが女の方すんのかと思って…」
「??」
「だからさ、男同士ん時はどっちかが女の方やんなくちゃ駄目なわけ。で、なんかオレもよくはわかんねぇけどさ……その…いつもおまえからだから、オレからはやっぱ駄目かなって…。流れ的にそういう感じらしいし…」
進藤はもじもじと話していく。
「そういうって…どういうことだ…」
頭が混乱してきた。
ちょっと待て
もうわけが…
「だから、おまえが先に告白してきたし、最後もやっぱ譲るもん、なんだとか…」
「ちょ、っと、待ってくれ…。わからなくなってきた…」
「もー…、なんだよぉ」
落ち着こう。そう、落ち着いて。
何だ…?何か、おかしいような気がする。
進藤は…その話からして…
「キミは…ボクと、その、セックスが…したいのか?」
「あー、も〜、そこも理解してねーのかよぉ…。したい!あったりまえだろ!」
男同士で…セックス…?聞いたこともない…
「オレ、そんだけ搭矢のこと好きだってことだぜ?わかんねぇ?」
「………」
わからないこともない。いや、わかることはわかる。
わかった。だからボクの勘違いなんだろう…?
でも何を勘違いしていたんだ?全部?
彼女がいると思ったことも
進藤がボクを好きじゃないと思ったことも。
「じゃあ、キミはボクが好きで…だから、セックスをしたい…ということか…?」
「そうそう!わかった?」
大体、わかった。わかってはきたけれど…まだ、頭が混乱しているみたいに…
「キミを…殺したのは夢…だったのか?」
「夢だよ…。ね、オレのこと、まだ殺したい?」
キミを殺したいか…?
違う。初めから殺したくなんかなかった。
ただどうしたらいいかわからなかったんだ。
もし、現実で起こっていたらわからなかったでは済まなかっただろうことなんだが…
体の力が抜けていった。
夢
あの感触も血の味もあの気持ちも…
よかった。
本当に、よかった。
「殺したくなんか…ない。進藤…ごめん、よかった。ごめん…」
進藤に手を伸ばした。
一瞬、恐怖が体中を駆け巡った。
もしも、進藤に触れられなかったら、突然消えたら、とおかしな想像をした。
本当はボクは進藤を殺していて、今は警察に捕まっている。
でもボクは彼らの言葉は聞いていない。ボクはここにいるから。
進藤はとっくに死んでいて、ボクもただの抜け殻になっていたら…
「――っ…」
鳥肌がたったけれど、今度は自分の腕を抱きしめることも出来なかった。
進藤を凝視して固まった。
「と、搭矢?」
進藤が焦ったようにボクの名前を呼んだ。
そういえば…ボクは、固まっていたって進藤が言っていたっけ…
「搭矢、お、願い…返事、」
「進藤」
そう返すと進藤はほっとした表情を見せて、宙に固まってしまって動かないボクの手をとって自分の頬に擦り付けた。
「脅かすなよ…」
「ごめん…、ねぇ、ここは現実だよね…」
「何言ってんだ。当たり前だろ」
「今、本当はこれが夢で現実には進藤を殺してしまった自分がいたらどうしようって…想像をしてしまった」
「ばっか。んなことあるわけねーじゃん」
「…ごめん。でも…。キミを殺そうなんて…、ボクは…なんてこと…」
進藤はボクを抱き寄せてぎゅうっと抱きしめた。痛いくらいだった。
「進藤、苦しい」
「ほら、苦しいってことはここは現実だろ」
進藤はにっこりと笑ってみせた。
ああ、
そうだ。ここが夢なんてあるわけない。
キミが笑ってる。
「よかったぁ。オレはこれで晴れて無実の身だなっ」
無実の身…
でも、本当に殺していなくても、ボクは自分は有罪だと思う。
一瞬でも、夢の中であっても、嫉妬に駆られてキミを傷つけようなんて…
ボクは罪を償わなくてはならないと思う。
「でさぁ、ついでだから、言ってもい?」
「…なんだ?」
「その、エッチしたい」
「………」
そう言われても…
「はっきりいう」
進藤は息を呑んだ。
「ボクはその手の方は全然わからない」
「う、ん。それは、わかった」
「だからやりたいと言われても、ボクにどうしろと…」
「う、…そうか…えと…」
進藤は表情をいろいろ変えながら手をぱたぱたと振り、口をぱくぱくと動かした。
でも言葉は一向に出ては来ない。
かわいい…
「な、もう!笑うなよ!」
「だって、笑うななんて…無理っ」
ボクは必死に口元を押さえた。笑ったら進藤の機嫌を損ねるのは十分にわかっているのだけど…
「かわいいから…」
「それって男に対しては褒めじゃねーと思うぞ〜!」
進藤は頬を膨らませた。
いくつになっても子供みたいだな…
「そうだ、キミ、さっきオレからとか何とか言ってなかったか?」
「あ?ああ、言った、かな?」
「それってその、女の方とか何とか…ってどういう意味だ?」
「え」
進藤は顔を赤らめてつつつっとボクの耳元に寄ってくる。
「だから…その…」
ごにょごにょ
「………っ?!」
何だって?!
「だから、オレがするんだと思ってさ…」
「そ!んなこと出来るかっ!!」
「で、出来るんだって!実際してる人なんかいるんだから!」
「し、信じられないっ!そんなっ、第一痛そうだぞっ?!」
「う、実際、痛いらしいよ…」
「そんなことしたいのか!キミはっ」
「でもさ、初めだけ痛いって。慣れれば痛くないみたい…だし」
「そんな適当な…」
「だって、……駄目なら…いいよ、別に…」
進藤は寂しそうな、傷ついたような顔をした。
「…キミは、覚悟を決めたって言ってたよね…」
「う、うん」
「それはいいってこと?」
「う、ん」
「ふうん…。でも、キミ、先にしたいって言わなかった?」
「え?言った?わかんな…いけど…」
「けど?」
「その…出来たら、おまえの中に入りたい…」
「………」
痛いらしい。ね
それでも進藤はいいと思ったんだ。
少し、いや、かなり…嬉しい。
でも、かなりむちゃな気がする。
「しようか…」
「え?!いいのっ?!」
「いいよ、ただしキミがその…男の方だよ」
「え・ええええぇっ?!」
進藤は目をこれ以上ないと言うくらい大きく開いてオーバーリアクションで答えてくれた。
「ボクは、何をしていいかわからないし。キミは少し調べたんだろう?」
「そりゃ、まぁ、え?でも、痛いんだよ…?」
「…大丈夫だ」
かなり不安だが…
「いいの?だって、」
「いいから。何だかいつもキミのしたいことを奪っていたようだし」
「そ、かもしんないけど…それとこれとは…」
「じゃあ、ボクがキミにしてもいいの?じゃあ、遠慮なく」
「わーっ!やる!やりたいからっ!」
進藤は慌ててボクを押さえつけた。
ごめんなさい、すっごく長くなったんでここで切ってみたり。開く時重かったんじゃないですか…?(苦笑)
すみませ;切るタイミングがっ(汗)「そんなタイミングなんていくらでもあるだろう!」byアキラ
えと、裏展開もご用意させて頂きました。
ここからどーぞ…
期待はしちゃ駄目なのさ。