俺に指導碁をよく頼んでくるじーさんがいる。
隠居生活に入るまでは、どこかのでかい会社の会長だったらしいが、今ではただのじーさんだ。

そのじーさんに言われた。

「ワシの孫娘が、進藤くんの大ファンでのう。一度でいいからデートしてやってくれんか」

俺は何度も断わった。
断わったのにじーさんはボケ始めてるのか、何度も同じことを言う。
そしてついには既成事実をでっちあげやがった。

「おおっ、デートしてくれるか!さすが進藤くんじゃ。ワシも孫娘の喜ぶ顔が見れて幸せじゃ〜〜」

おいおい、何言ってんだよ!俺はイエスなんて一回も言ってねーっての!

だけど、じーさんのニコニコ顔を見ていると、言葉につまった。
まずい。俺はどうも年寄りに弱い。
っていうか、このじーさん、もしかして俺の性格、見抜いてやがんのか?

アキラがいるから断わらなきゃならないのに。
女の子とデートすることなんてできない。俺もヤだし、第一、アキラだって嫌がる。
なのに――…。

…結局。断わることができなかった。

それで。その孫娘とデートすることハメになった。













女とデートすることになった。

アキラにはその経緯を話した。
これこれこういうことで。断わりきれなかったんだ――と。
その夜はちょっとだけ遅くなるかもしれないからと、チビのごはんを頼む――とも言った。

アキラは電話口で少しムッとしてたけど、一応、わかってくれたみたいだった。

そして。孫娘とデート。
女の子とのデートなんて久しぶりだったけど、少しも楽しくなくて。
アキラのこととチビのことが気になって、俺はずっと心ここに在らずだった。

食事を終えて、少しだけバーで酒を飲んで。
デートらしいデートを終わらせて、これでじーさんも満足するだと勝手に納得して、帰宅する。
マンションの玄関のドアの前に立ったとき、腕時計の針は午後十一時三十分を指していた。

鍵を開けて中に入る。
リビングの明かりがついていて、ソファにアキラがぼんやりと座っていた。

「アキラ」

声をかけると、アキラがゆっくりと振り向いた。
どこか不安そうな顔に、小さく笑みを浮かべて――。

「…おかえり」

そう言った。

「アキラ…」

俺は居ても立ってもいられなくなって、アキラに近寄ると、その細い身体を抱き締めた。

「…ごめん」
「……」
「ごめん…」

謝るしかできない。俺はまたアキラを不安にさせちまった。

アキラはいつも不安でいっぱいなんだ。
俺との関係がいつ終わってしまうか。俺がいつ女に走るか。
そんなこと絶対にないって言ってるのに、信じてくれない。俺にはアキラだけだって何回も言ってるのに、どこかで不安と戦っている。

アキラの不安を少しでも解消させたくて、一年前からこうして一緒に暮らすようになったけど。
それはまたアキラに、別の不安を植え付けることになった。

いつ人にバレないか。

俺たちの関係が世間にバレることを、アキラは恐れている。
だからひた隠しにする。必死で隠そうとする。

アキラの気持ちは痛いほどわかるし、アキラが望むなら俺もできるだけ協力しようと思った。

だけど。アキラの不安は消えない。
時々、とてもつもなく不安そうな顔をする。

アキラは俺のことを好きでいてくれる。それはわかる。
でも世間には知られたくない。絶対に。
…俺たちの関係に後ろめたさを感じているから。

好きだけど。後ろめたいから。
その二つの感情に、アキラが苦しんでいることも俺は知っていた。

「……アキラ…」

抱き寄せて。強く抱いた。
アキラがほっとしたように身体から力を抜く。

「…デートはどうだった?」
「ぜっんぜん、楽しくなかった」
「ホントに?正直に言っていいんだぞ?」
「正直に言ってるよ。早く帰りたいって、そればっか思ってた」
「……ヒカル」

アキラが俺の名前を呼ぶ。とても心地いい響き。
そのままソファに押し倒そうとして、アキラに手で止められた。

「ダメだ。そこで寝てるから…」

アキラの視線を追うと、毛布にくるまって眠っているチビがいた。
すーすー気持ち良さそうに寝てやがる。

「チビ?寝てるんだったらいいだろ?」
「起きてきたらどうするだ」
「別にいいじゃん」
「僕は嫌だ。あんなキラキラした純粋な目でじっと見られても、キミは平気なのか?」
「んー、別に、悪いことしてるわけじゃないんだし」
「僕は…嫌だ」

頑固っていうか潔癖っていうか。でもそういうアキラが可愛くて。
俺は笑って言った。

「わーったよ。んじゃ、俺の部屋行こうぜ。すっごい久しぶり…って、そういやチビが来てから、やってなかったっけ?」
「キミが、チビと遊んでばかりいるからだ」
「あれ?もしかして妬いてた?」
「…冗談だろ。誰が犬なんかに」

言ったものの、アキラは憮然とした表情になった。

あー…、やっぱ妬いてたのかなぁ。
そういやこの一週間、チビのことで頭がいっぱいだったかも。
犬なんか飼ったことなかったから、飼い方とかドックフードのこととか。いろいろ調べたりしてさ。それに新しい飼い主を探すのにも必死だったし…。

よし。今日はいっぱいアキラを気持ちよくさせてやろう。
そう思って、アキラを俺の部屋に連れていって、ベットに押し倒した。

アキラの身体から服をとり、俺も全裸になった。
身体を重ねると、それだけでしっかりと俺自身が反応する。

「うわ、久しぶりだから、すごい勃起してる。あっという間に出そう〜」
「…そういう直接的な言い方はやめろって言ってるのに」
「でも事実だし。おまえは?」

手でアキラ自身に触れる。
ビクッと身体を震わせたアキラは、下唇を噛んで視線を背けた。

「ほら。おまえだってもうこんなになってるじゃん?」
「…もういいから、やめろって」
「んとに、いつまでたっても慣れないんだから〜」
「ヒカル」
「はいはい」

笑いながら、アキラの身体に唇を這わせた。

アキラは、今日はえらく感じやすい。久しぶりだからかな。
一週間ぶり…ってのは、俺たちにとってかなり間があいてる。いつも二日置きとか三日置きとかだからさ。

たくさんキスをして。胸の突起に唇をあてて。俺を受け入れる奥に、手を這わせていく――。

そのときだった。

いきなり「わんっ」と声がして、チビが飛び込んできた。
ぎょっとしたってもんじゃない。
思わず動きを止めてしまった俺だったけど、もっと驚いたのはアキラのほうだった。
身体が硬直してる。

「…え…えーっと……」

俺はチビを見た。
つぶらな瞳で、俺たちを見ている。

……なるほど。これは確かになんていうか…ちょっとやりにくい。
こんな純粋な目で見られたんじゃ、なんてーか、エッチって気分じゃなくなるかも。

男同士だからとか関係ない。男と女のセックスでもそうだ。室内犬を飼ってるウチって、こういうときどうしてんだろ…。
あ、しまった。ちゃんと部屋のドアを閉めときゃよかったのか。

けど後悔しても、後のまつり。
チビは俺たちが遊んでるとでも思ったのか、しっぽをふりふり俺を見る。
ボクも遊んで?
そう言ってるかのように。

「あのさ…ちょっと、あっち行っててくれないか?」

言ってみたけど、チビは首を傾げて、どうして?という目をする。

「だからさ…えーっと…」

困り果てた俺が、ぽりぽりと頭を掻いたとき。

アキラが深い溜息をついた。
見ると、アキラは完全にその気をなくしている。アキラ自身も完璧になえてしまっていた。

あっちゃー…。

「――…もういい。どけ、ヒカル」

アキラは不機嫌にそう言うと、俺の下からするりと抜け出した。

俺の部屋を出ていって、自分の部屋に入ってしまう。
バタンと閉まるドアの音が、アキラの不機嫌さを表しているみたいだった。

「あーあ…」

…脱力。いい雰囲気だったのに。アキラもすごく感じてくれていたのに。

けど、チビのせいじゃない…よな。こいつは何も悪くない。

それでも、これからまたこういうことがあったら困る。
俺はチビに優しく言い聞かせた。
好きだから触れたいと思う。俺はアキラが好きだから。だから邪魔しないでくれよな?と。

かしこいチビはすぐに理解したみたいだった。
俺が頭を撫でてやると、くぅんと一声鳴いて、ベットに丸まった。
俺の後をついてくることはなかった。









「アキラ」

アキラの部屋に入って、ベッドに近づく。アキラは布団に潜り込んでいた。

「チビには言い聞かせたから。こっちには入ってこねーよ」
「……」
「アキラ?」

布団を剥いで、アキラの様子をうかがう。アキラは裸のままだった。ちょっと嬉しい。

「な?続きしよ?」
「…だから犬なんて嫌なんだ。ふりまわされてばかりだ」
「チビはかしこいから、わかってくれてるって」
「…何て言ったんだ?」
「ん〜、好きだから抱きたいんだって。チビが俺を舐めてくれるように、俺もアキラを舐めてやりたいんだ――って」
「そんなこと言ったのか?」
「あれ?ちょっと違うかな」
「…呆れるな。それで理解したのか?」
「うん、多分。あいつってホント頭いいもん。絶対に俺の言葉がわかるんだよ」
「……それもちょっと怖いけど…」
「大丈夫。チビならいいじゃん。俺たちの関係がバレたって」
「……」
「おまえもさ、一人ぐらい話せる相手が欲しいだろ?誰にも何も言わないで隠してばっかで。俺と喧嘩したときだって、愚痴る相手がいたら、少しは楽になるんじゃねーの?」
「一人じゃなくて一匹だろ。それにチビは…いつかはいなくなる……うちで飼うことはできない」
「…わかってるよ」
「…」

俺が悲しそうな顔をしたからか、アキラもちょっとだけ悲しそうな顔になる。
その顔に小さく笑って、俺は、黒髪が散らばる首筋に顔を埋めた。

「…続き…したい」
「ヒカル…」

アキラを強く抱いた。
全身を愛撫してやると、アキラの身体はすぐに反応し始めた。アキラ自身もまた膨れ上がる。

「…ヒカ――あっ…」

アキラの奥に指を入れて。なかをほぐすように動かして。
俺自身をそこに浅く埋めると、アキラは痛みに小さく眉をしかめた。

「痛い?一週間ぶりだと、こんなにきつくなるんだな…」
「っ…い…」
「やっぱ三日置きぐらいにしないとな。おまえの身体ってすぐに閉じるっていうか、狭くなるっていうか」
「な…にを…」
「説明して欲しい?」

動きを止めて、笑いながらアキラを見る。
アキラは苦しそうに俺を見上げた。

「だからさ。おまえの身体、最初んとき、すげー狭くて苦労したわけ。いくらローション使ってもなかなか入んないし。いざ挿れてみたら、俺のが絞られるっていうか、ぎゅうぎゅう締めつけられるって感じで」

そのときのことを思い出したのか、アキラの首筋にさっと赤みが差す。
俺は笑ってさらに言った。

「慣れてくると、弾力が出てきてさ。俺のに吸いついてくるようになるんだよな。先っぽだけ入れても、ぐいぐい引き込んでくれるっていうか。あったかくてドクドクしてて――」
「…っ、ヒカルっ」

俺の解説に、アキラは恥じ入るように顔を背けた。首から頬が赤く色づいている。

「…そんなこと……」
「なんで?恥ずかしい?」
「当たり前だっ」
「己を知るってのも大切だぜ〜?」
「何をバカなことを――…っ…あ…!」

ふいに足を大きく広げたら、アキラの身体が仰け反った。

「まだ全部、入ってないよ。アキラ、もっと身体から力抜いて?」
「…っ、そんなこと言った…って…」
「ん〜、じゃ、こうしたら?」

アキラ自身を手で包み込み、ゆっくりと動かす。
途端にアキラの中が柔らかくなった。

「あ、いい感じ」
「…あ…っ」

ゆっくりと奥まで埋める。
最奥まで到達したけど、あまりのしめつけに俺も苦しかった。これじゃ動けない。

「アキラ、ちょっといい?」

俺は、抱えているアキラの足をさらに高く持ち上げた。
そうして足先をそっと口に含む。

「…なっ、ヒカル!…やめろっ…」

アキラは暴れたけど、俺はお構いなしに続けた。

丁寧に足の指を愛撫する。指と指の間も。
足の爪まで綺麗なアキラ。こいつの身体って奇跡みたいだ。なんでこんな男がいるんだろ。

アキラの息が、甘く切なくあがっていく。

小指を口に含んで、甘噛みしてやると、アキラの腰が大きく揺れた。

「ここ、いい?」
「…っ!」
「んー、もうちょいかなぁ。いい感じになってきたけど、まだきついかな…」
「…はあ…ぁ…っ…」

アキラの中がとろけるように熱くなってくる。
弾力も増してきて、ぐいぐいと俺を引き込む感じ。

足先を執拗に舐め続けると、やがて、アキラは膝をがくがくと痙攣させ始めた。
中もどんどん熱くなる。包み込むように。俺をのみ込むように。

「うん、やっといつものアキラの身体になってきた」

にっこりとアキラに笑いかけてみたが、アキラは息を荒げて、目を閉じているだけだった。

「もう痛くないだろ?動いていい?」

言ってみたが、やっぱり返事はなし。
代わりにアキラの中が、ぐいっと俺を引き込むように動いた。

「ん〜、おまえの身体って素直だな〜。んじゃま、遠慮なく」

笑って、ゆっくりと身体を動かす。

アキラはそれからもう、ほとんど言葉らしい言葉を発しなかった。
甘く喘ぐだけ。熱い吐息を漏らすだけ。

そうして――。
俺たちは一緒になって、大きな高波にさらわれた。



ほとんど気を失うように眠りに落ちていったアキラを見ながら、ちらりと思う。
俺の部屋にいるチビのことを。

チビを飼うことができればいいのに。そう思う。
アキラには――俺のことを話せる存在が必要なんだ。
人でも。動物でもいい。

俺以外に――アキラが信頼できる存在が。
俺とアキラの関係を知ってる存在が。

アキラは一人で抱え込むから苦しむ。
周囲の人間すべてに嘘をついて秘密を抱えて。
そのうち、その重さに耐え切れなくなって潰れちまうんじゃないか…。
そんなことを思ってしまう。

俺たちの関係を知られたくない。

そう思うアキラの気持ちはわかる。俺も協力したいって思う。
思うけど……。

――もしかして、またアキラを不安にさせるかもしれない…。

最近、俺は和谷からある相談を持ちかけられていた。
和谷の好きな人のことについて。
和谷は俺を信じて相談してくれた。俺だけに話してくれた。
そして言った。「おまえも塔矢とそうなんじゃないのか?同じだからかな。なんとなくわかるんだ…」と。

俺は、そのとき言葉を濁してごまかしたけど――。
今度、そういう話しになったら話さなくちゃなと思う。
和谷は俺の友達だから。とてもいいダチだから。嘘はつきたくない。
和谷は俺を信じて、秘密を打ち明けてくれたんだ。俺だけ嘘をつき通すというのは、やっぱり嫌だ。

だけどそうなったら…。またアキラを不安にさせるんだろうな…。

アキラの不安を取り除いてやれる存在。
それがいる。どうしてもいる。
でないとアキラは潰れてしまう。

俺じゃダメだ。
ホントは俺が何とかしてやりたいけど、俺には話せないこともあるだろう。

…チビ。チビはかしこいから、適役だと思うんだけどな。
俺たちの言うこともわかってるみたいだし。
不安な気持ちをチビに話すだけでも、少しは楽になると思うんだけど。

無理かなぁ…。
チビはアキラになつかないし。
アキラもチビを触ろうともしないし。

それに。
うちではペット飼えないし…。


安らかに安眠するアキラを、そっと見る。

アキラ。

不安にさせたくない。俺が守りたい。
だけど、これからも俺はおまえを不安にさせちまうんだろうな…。

…ごめんな。

アキラの額にそっと唇を落とす。
アキラは目を閉じて、静かな寝息をたてているだけだった。













※※※※※※

裏…なのか?

 

 

 

 



裏まで貰ってしまいましたv
泥眼さん、本当にありがとうございました〜vvv

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