寒くて、冷たくて。
真っ暗なところにボクはいた。

どうしてこんなのところにボクはいるんだろう。
暖かい温もりに抱かれていたはずなのに。
…ごめんね。
その言葉だけが蘇る。女の子の。悲しそうな顔。

……お腹がすいた。
雨が降っているのかな。箱をたたき付けるものすごい雨の音。
箱?ボクはその中にいるのかな。

くぅん。

小さく鳴いてみた。誰かが気づかないかなと思って。
ボクに気づいてくれないかと思って。

だけど聞こえるのは、やっぱり雨の音だけで。


そのとき。

ガサゴソッ。音がした。

箱の上がほんの少しだけ開く。
真っ暗な箱の中に、差し込んできた光。

最初に見えたのは、大きな茶色い目だった。


「おまえ、どしたの?捨てられたのか?」

人間の声。優しそうであったかそうな声だ。

くぅん。鳴いてみた。
寒いしお腹は減ったし。本当は「わん」って言いたいけど、とても言えない。

茶色い目をした人間は、優しく笑ってくれた。
すごくあったかい笑顔だった。

「あーあ、ずぶ濡れじゃねぇか。ほら、こっち来いよ」

そう言うと。その人間は、ボクをその腕に抱きかかえてくれた。







☆☆☆☆☆☆

「たっだいま〜」

茶色の目をした人間は、ボクを抱えたままドアを開けた。
大きな建物。そのなかの一つの部屋。人間の住んでいる家だと、匂いでわかった。

「おかえり。びしょ濡れじゃないか」

中からもう一人、人間が出てきた。家族?なのかな?
ボクが今までいたウチには、女の子とお父さんとお母さんがいた。
一緒に暮らしてるのは“家族”。ボクはそう思っている。ボクも家族の一人だったのにな。
どうして捨てられちゃったんだろ…。

「傘はどうし――……犬?」

もう一人の人間がびっくりしたように言う。 うわぁ。すごい真っ黒い目をしてる。

「どうしたんだ。その犬」
「うん。そこの道に捨てられてた」
「捨て犬?」
「だと思う。ずぶ濡れでさ〜、あんまり可哀想だったから」
「…ここはペット不可のマンションだぞ?」
「わーってるよ。けど、ほっとけねぇじゃん?ちょっとぐらいいいだろ?」
「……」

真っ黒い目の人間が、じーっとボクを見る。あんまり嬉しそうじゃない。
ボクはちょっとだけ怖くなって、茶色い目の人間にしがみついてしまった。

「な?とにかくメシ食わせてやろーよ。あ、それより先にタオルかなんか貸してー」
「…しょうがないな」

しばらくして、タオルがばさりと顔に被さってきた。
やたらと念入りに拭かれて、足も拭かれて、ようやく床に下ろされる。

「よし。ちょっと待ってろよ。なんか食うモン、持ってきてやっから」

そう言った茶色い目の人間は、髪からまだポタポタと雨粒を落としていた。

「ヒカル、先に自分の頭を拭け。それと着替えもしてこい」
「だーって、こいつ、すげぇ、腹減ってそうだし〜」
「頭を拭いて、着替えるぐらいの時間はあるだろ。この犬、死ぬほど弱ってるようには見えないぞ」
「ん〜、わーったよ。おい、ちょっと待ってろな。アキラがああ言ってるから着替えてくるわ」

茶色い目の人間が、バタバタとどこかへ行ってしまう。
残されたボクはちょっと不安になり、きょろきょろと辺りを見回した。
すると目が合ってしまった。
…真っ黒い目の人間と。

「――ったく…」

ボクを見て、大きな溜息をついている。
ああ、そっか。この人間はボクが来て迷惑なんだな…。そう思ってしまった。

「お待たせ〜」

そこへ、茶色い目の人間が戻ってきた。
ボクはほっとした。優しくてあったかい笑顔。

茶色い目の人間は好きだ。
だけど、真っ黒い目をした人間は…ちょっと怖い。


茶色い目をした人間は“ヒカル”
真っ黒い目をした人間は“アキラ”

二人の名前をボクがしっかりと覚えたのは、あったかい毛布に包まれて一晩、ぐっすりと眠ってから。
翌日の朝、ヒカルに教えてもらったときだった。







☆☆☆☆☆☆☆

「お〜い、チビ、こっち来いよ〜」

ここへ来て三日たった。

ヒカルはボクのことを“チビ”と呼ぶ。
小さいというのがその理由らしいけど、その名前がいいものなのかどうか、ボクにはよくわからない。
アキラは「センスのないネーミングだ」とぼやいていたけど、そうなのかなぁ。

「チビ〜、早く来いってば〜」

ヒカルが呼んでる。ボクは急いでヒカルのところへと走った。

「お〜、来た来た。あのな、おまえの貰い手を見つけるまで、取りあえずここに置いとけることになったから。いいか?トイレはここだぞ?他のところでションベンしたりしたら、アキラが怒るからな〜」

わんと一声鳴いて、しっぽを振る。
するとヒカルは、ボクを抱き上げてくれた。

「よ〜し、おまえってば、かしこいな〜。こんなチビなのにさ。まだ赤ちゃんぐらいだよなぁ?」
「ヒカル、それは小型犬だと思うぞ」

アキラが近づいてきて言った。
アキラがくるとボクはちょっと緊張する。怖い…という気持ちが、まだ消えない。

「え?そうなの?」
「多分、チワワという種類じゃないかな。大人になってもそれほど大きくはならない。体重もせいぜい二キロぐらいまでだろう」
「へえ〜、だったらこいつ、もう大人?」
「さあね。いつ生まれたのか、わからないから何とも」
「ふ〜ん」

ヒカルがじっとボクの顔を見る。ボクはヒカルに言ってみた。
ボクが生まれたのは六カ月前だよ。すごく暑いときだったよ。犬の六カ月って、人間で言うと九歳ぐらいなんだって。ボクはもう赤ちゃんじゃないよ。ちゃんと自分で何でもできるし、ヒカルの言うこともわかるんだ。

ボクはヒカルの胸を這い上がって、首筋をぺろぺろと舐めてみた。
途端にヒカルが暴れ出す。

「うわっ、くすぐって〜〜」

慌てるヒカルが面白くて、さらに舐めてみる。
ヒカルの髪の毛に顔を埋めると、お日さまのような匂いがした。

ヒカルが暴れて転げる回るので、ボクも楽しくて転げ回った。
すごく楽しい。こうしてじゃれ合うのは久しぶりだ。

ヒカル。
ヒカルはボクが好き?ボクはヒカルが大好きだ。あったかくて優しくて。お日さまの匂いがするヒカル。
ずっとヒカルのそばにいれたら、嬉しいけど……。

するとそこにアキラの冷たい声が響いた。

「…随分となつかれたもんだな。あんまり仲良くなると別れるときつらくなるぞ?」

ヒカルがピタッと動きを止める。ボクもつられて動きを止めた。

「チワワが人気があるから、きっとすぐに貰い手が見つかる」
「…わーってるよ」
「だったら――」
「わかってるけどさ。ほんのちょびっとでも一緒に暮らすんだから、いっぱい遊んでやりたいじゃんか」
「ヒカル…」
「だから“チビ”って呼んでるし」
「…?」
「だってちゃんと名前つけちゃうと、なんかなぁ、やっぱつらいし」
「“チビ”は名前じゃないのか?」
「違うよ。愛称」
「どう違うんだ」
「どうって言われても…」

ヒカルがボクの目をじっと見る。なんだか悲しそうな顔。
そんなヒカルを慰めてやりたくて、ボクはしっぽを振って、ヒカルの手を舐めた。

「こいつってば、人懐っこいなぁ…。なあ、俺、いっぱい遊んでやるけど、あんまり俺になつくなよ?」

なつくなって言われても…。ボクはヒカルが大好きだし。
くぅん。一声鳴いて、ヒカルの頬をぺろりと舐めた。

ヒカルが困ったように言う。

「…ごめんな。うちでは飼えないんだ。ちゃんとした名前は、新しい御主人につけてもらえよな…」







☆☆☆☆☆☆☆

それから数日間、ボクはヒカルとたくさん遊んだ。
外に散歩に行ったり。家のなかでじゃれ合ったり。

ヒカルはよく白い石と黒い石で遊んだりしている。アキラと一緒に。
なんだろうと思って、一度だけその石を触ってみたら、アキラとヒカルにものすごく怒られた。

「こら!対局の邪魔をするな!」
「あ〜〜、こら、チビ。碁盤の上に乗ったらダメだって!」

え?なんでなんで?遊んでるんじゃないの?

「これは遊びじゃないの。俺たちの大事な…んーっとお仕事」

仕事?これが?

「そうだよ。だから碁盤の上に乗っちゃダメだし、俺たちがこうして対局してるときは邪魔しちゃダメだ。わかった?」

ふーん。…うん、わかった。しっぽフリフリ。

「よし。おまえってホント頭いい〜。俺の言葉がわかってるみたいだよな〜」
「人間の言葉がわかる犬?そんな犬がいたらお目にかかりたいね」
「だって、こいつってホントかしこいぜ。トイレも一発で覚えたし」
「いいから次、早く打て」
「ああ、はいはい。えーっと……あ、そうだ。明日、俺、手合いなんだ。アキラおまえは?」
「僕は指導碁」
「んー、だったらどうしよっか」
「なにが」
「チビだよ。チビ」
「また犬の話しか…」
「だって今までは、俺がちょうど連休だったからよかったけど…」
「留守番ぐらいできるだろ」
「そりゃ可哀想だよ。まだここに来たばっかなのに。俺、連れてこうかな〜」
「棋院にか?」
「やっぱマズイ?」
「棋院はちょっとな…。市河さんに預けたらどうだ?」
「あ、そうか、あそこの碁会所ならいいかもな〜」
「とろこで貰い手のほうはどうなってるんだ?」
「ああ、それなんだけどさ〜。和谷とか伊角さんに訊いてみたんだけど、棋士ってさ、仕事で家あけることが多いだろ?だから無理っぽいって」
「藤崎さんは?チワワは女の子が好きそうだけど」
「あ〜、あいつんとこはもう犬飼ってんだよね。二匹も飼えないってさ」
「…だったら、ネットで飼い主募集してみるか?」
「あ〜、それダメ。俺の知らないヤツには渡せない」
「なんだ、それは」
「だって、こいつがまた捨てられるような目に遭ったら可哀想だろ。今度はちゃんとした飼い主と幸せになってもらいたいしさ」

ヒカルがボクの頭を撫でる。ボクはヒカルの手に頭をすり寄せた。

…幸せ。ボクは今、ヒカルといて幸せだけど。
それじゃダメなのかな…。




翌日、ボクはヒカルと一緒に出掛けた。
ヒカルは仕事らしい。その間、ボクはお姉さんのところに預けられた。
“市河さん”というお姉さんだ。

「じゃ、よろしく〜。夕方、また来るから」
「わかったわ。まかせといて」

市河さんはボクを見て、かわいい〜と何度も言う。そんなに言われると照れてしまう。
“碁会所”というところ。そこにはお客さんがたくさんくる。おじさんばっかりだけど、そのおじさんたちもボクを見て「かわいいね〜」と言った。

ボクは犬のなかでもかわいい部類に入るらしい。ちょっとだけ嬉しかった。

夕方になって碁会所にアキラがやってきた。
ちょっと緊張する。アキラにはまだ慣れない。アキラに抱きかかえられたことも、まだない。
アキラはボクのことを迷惑だと思ってる。時々、冷たい目で見る。
それが怖い。

「あら〜、アキラくん、みてみて、チワワよ〜。茶色くて、目が真っ黒で、耳が大きくて。可愛いでしょ〜〜」

市河さんがボクを抱えて、アキラに見せた。
アキラはちょっとだけ眉を潜めて、「ホントだね」と冷たく言う。

「進藤くんが拾ったんですって。進藤くんのとこペット不可だから、飼い主探してるらしいわ」
「そう…」
「アキラくんのところもダメなんだっけ?ペット」
「うん。不可」

…?…あれ…?
ボクは思わず首を傾げた。
なんかへん?
だけど、アキラはさらに首を傾げることを言う。

「進藤は…まだ来てないんだよね」
「あら。打つ約束してた?」
「そういうわけじゃないけど」
「夕方には来るって言ってたから、もうすぐ来ると思うけど」
「いいよ。ちょっと顔を出しただけだから」
「あら、もう帰るの?」
「ごめん。また今度、打ちにくる」

アキラはちらりとボクを見て、帰っていった。

……シンドウ?
それってヒカルのこと?
なんでなんで?何がなんだかわからない。
アキラとヒカルは一緒に暮らしてるのに。いつもは“ヒカル”って呼んでるのに。
なんで???

そこへガーッと自動ドアが開いて、ヒカルが顔を出した。

「お〜、チビ〜。いい子にしてたか〜?」
「あら。進藤くん。ついさっきアキラくんが来てたのに」
「ああ…うん。下で会った」
「今日は打たないの?」
「チビがいるしね。塔矢も今日は用事があるみたい」
「あら、そうなんだ」

……トウヤ?それってアキラのこと?
家では“アキラ”って呼ぶのに、どうしてここでは“トウヤ”って呼ぶの?
わかんない。どういうこと?

ヒカルに抱きかかえられて碁会所を出る。
どういうこと?どういうこと?
視線でその疑問をぶつけると、ヒカルは小さく苦笑した。

「あのな。俺たちが一緒に暮らしてることは内緒なんだ。だからおまえも秘密にしといてくれよな」

秘密。内緒。
意味はわかる。わかるけど…。
なんで????







☆☆☆☆☆☆

ヒカルに拾われてから一週間がたった。

ボクは、だんだんとこの家の暮らしに慣れ始めていた。
ヒカルの言いつけはちゃんと守るし、一人で留守番もできるようになった。
アキラはまだちょっと怖いけど…。
それでもヒカルがその分、とても優しくしてくれる。ヒカルの笑顔。それがボクを幸せにしてくれた。


その日は朝から一人で留守番だった。
ヒカルもアキラも仕事に出かけたらしい。ヒカルとアキラはプロの棋士。そんなふうに言ってた。
二人とも出かける時間は違うし、帰ってくる時間も違う。休みもまちまちだ。

カタン。

音がして、うとうとと眠っていたボクは飛び起きた。
あの音はヒカルじゃない。アキラだ。

ヒカルなら玄関まで迎えに行くけど、アキラにはそれができない。
迎えに出た途端、冷たい目で見られるのは怖いし。

……。気配をうかがう。
アキラは自分の部屋へいったん行ってから、バスルームへと向かった。
バスルームの水音がやんで、リビングにやってくる。
じっとアキラの行動を視線で追っていたボクと、ばっちり目が合った。

「……そんなに警戒しなくても。別にいじめたりしないよ」

アキラは溜息をつくと、ソファに座った。

えっと…。別に警戒してるわけじゃないけどな…。ただ、やっぱり…。

実は、最近、ボクはアキラとの関係に悩み始めている。
ヒカルはアキラと、とても仲が良さそうだから。
ボクとアキラが距離を置いているのを見て、「おまえらもう少し仲良くできねーの?」なんて言うから。

ヒカルと仲良しのアキラなら、ボクも仲良くしたい。
仲良くしたいとは思うけど……。

「…ヒカルは今日は遅くなるよ」

唐突に、アキラがそんなことを言った。
ボクに言ってるのは間違いないけど…。どこか独り言のような呟き。

「――…人と会う約束があるんだってさ。断わりきれなかったなんて弁解してたけど…」

……アキラ?
アキラがとても悲しそうに見える。どうしたんだろう?

アキラはヒカルほど感情を顔に出さない。
怒ったりはするけど、笑ったりもするけど、そういうんじゃなくて…。
何考えてるのか、わからないってことをが多くて。
…でも、今日のアキラはすごく寂しそうだ。
なんで?ヒカルがいないから?

そばにすり寄っていきたい。
ボクじゃどうしようもないのはわかってるけど、そばに行ってちょっとでも慰めてあげたい。
……だけどそれができない。

どうしようか。どうしたらいいんだろう。
疲れたように目を閉じているアキラを、じっと見つめる。
くぅん…。
小さく小さく鳴いてみた。アキラは目を閉じたままだ。

「……ごはんにしようか」

ボクの鳴き声をどう理解したのか、アキラは立ち上がって、ボクのご飯を出してくれた。
だけど、アキラは何も食べようとしない。
テレビもつけないで、ずっとぼんやりしたままだ。

満腹になって毛布にくるまる。ボク専用にヒカルが用意してくれた毛布。
アキラの様子をちらちら見ながら、ボクはうとうととし始めた。

ヒカルは帰ってこない。
時計の音だけがカチコチと音をたてている。
ヒカル…。
早く帰ってこないかなぁ。ボクも寂しいし、アキラも…とても寂しそうだよ。

ヒカル。早く帰ってきて…。







いつの間にか眠っていたらしい。ふっと目が覚めたとき、辺りは真っ暗だった。
電気は消されていてアキラの姿もない。

ヒカルは?帰ってきたのかな。
毛布から抜け出し、ヒカルの部屋のほうへと向かう。

ヒカルとアキラは一緒に暮らしてるけど、寝るところは別々だ。
ヒカルの部屋のほうに向かってみた。小さくドアが開いていて、中から話し声がする。

ヒカル。帰ってるんだ。
嬉しくて、ドアをすり抜けた。
暗がりのなかで、ベットの上にうごめくものがある。
ヒカルとアキラだった。

ボクの目には二人がじゃれ合っているように見えた。
仲良さそうに。遊んでいるように見えた。

だから。

「わんっ」

思いっきり二人に飛びついてしまった。
ボクも交ぜて交ぜて!
そんなふうにしっぽを振って。

ところが。

空気がピキンと固まったように見えた。
あれれ?
よくよく見ると。アキラとヒカルは裸だった。裸でくっついていた。

…あれ?遊んでるんじゃないの?

きょとんとしてヒカルを見上げる。
ヒカルは暗がりのなかでも、はっきりとわかるほど困った顔をしていた。

「…え…えーっと……」

なになに?どうしたの?

「あのさ…ちょっと、あっち行っててくれないか?」

なんでなんで?

「だからさ…えーっと…」

困りきったヒカルの下で、アキラが思いっきり溜息をつく。

ヒカルはアキラに覆い被さっていた。上にのっかってるって感じ。
ヒカルよりもアキラのほうが小さいのに。アキラ、重くないの?
何してたの?一緒に眠ってたの?

「――…もういい。どけ、ヒカル」

ふいに、アキラがそう言った。とても冷たい声で。
そしてヒカルの下からするりと抜け出す。

「お、おいっ」

ヒカルの言葉もきかずに、アキラは近くに落ちていた服を拾い上げて、部屋を出ていった。
アキラの部屋がバタンと閉まる音。

「あーあ…」

呟いたヒカルを見上げる。
ごめん…。ボク、何かアキラを怒らせるようなことしたのかな…。

くぅん、くぅん。
ヒカルにすり寄って、ごめんねと言った。
ヒカルは優しくボクの頭を撫でてくれた。そして呟く。

「…あのさ」

え、なに?

「あのさ、おまえは俺に、抱きついてきたり舐めてくれたりするだろ?それって俺が好きだからだよな?」

そうだよ、好きだからだよ。それがどうしたの?

「うーんと、だから。俺はアキラのことが好きなんだ。だから俺もあいつを抱き締めたいって思う」

…アキラが好き?

「うん。大好きなんだ。今、あいつをすごく抱き締めてやりたい。抱いてやりたいんだ。だからさ、邪魔しないこと。わかった?」

…うーんと……。

「俺、あいつの部屋に行ってくるから。絶対、入ってくんなよ」

…うん、わかった。

「よし。いい子だな。明日は俺、休みだからいっぱい遊ぼうな」

ヒカルはボクの頭を撫でて、裸のまま部屋を出ていった。
アキラの部屋からはしばらく話し声が聞こえていたけど、そのうちそれも聞こえなくなった。

静かな夜に、何かよくわからない微かな声が聞こえてくる。
それが何なのかわからないまま、ボクはそのままヒカルのベットで丸まった。

…ヒカルの匂い。
それに交じって甘い匂いがする。
甘いっていうか、すごくいい匂い。なんだろう?この匂い…。

その匂いに包まれて、ボクは目を閉じた。

……ヒカルはアキラが好き。

その言葉が、すとんとボクの頭に落ちてきた。
そっかぁ。ヒカルはアキラが好きだったのかぁ……。







☆☆☆☆☆☆

翌朝、目が覚めてリビングに行ってみたら、ヒカルとアキラはいなかった。
靴はあるから、出かけたわけじゃないらしい。

ってことは。まだアキラの部屋にいるのかなぁ。
確かめたいけど、入っちゃいけないって言われてるし。
第一、ドアがしっかり閉まってて、ボクには開けられそうにない。

ボクは、アキラの部屋の前にちょこんと座った。
ヒカルと早く遊びたかった。今日は休みだって言ってたから、きっと公園でいっぱい遊べる。
駆けっことかボール投げとか。いっぱい遊んでもらうんだ。

しばらくして、ドアがカチャっと開いた。
中から裸のヒカルが出てくる。

「うお!びっくりした〜。チビ?おまえなんでそんなとこにいんの?」

しっぽフリフリ。だって入っちゃいけないって言われたから。ここで待ってたんだ。

「もしかして、入るなって言ったから?」

そうだよ。ボクはヒカルに言われたことは守るんだ!わん!

「うわ〜!!おまえってば、やっぱ、かしこい!天才!おい、アキラ、見てみろよ!チビのやつ、ちゃんといいつけ守って、ここで待ってたんだぜ!」

ヒカルはとても嬉しそうに、両手でボクを高々とあげて、アキラに見せた。
ベットに身体を起こしていたアキラは、ボクを見てなんとも言えない顔をする。
まだ裸のまんま。それはいいんだけど。

…うーん。反応がないと、こっちも反応のしようがないっていうか。
言いつけを守ったことをヒカルは喜んでくれたけど、アキラはやっぱり喜んでくれないのかな…。

……でも。なんかヘン?
アキラの顔がちょっとだけ赤い。
なんで?


それからアキラはシャワーを浴びて、仕事に出かけていった。
ボクはヒカルといっぱい遊んだ。
楽しい。楽しくて楽しくて、このままずっとヒカルといたい――そう思う。

夜になって、ヒカルとアキラが「貰い手は」とか「新しい飼い主」とかの話しを始めると、悲しくなる。
やっぱりボクはここを出ていかなくちゃならないんだって…。
ヒカルといつか別れなきゃいけないんだって……。







ヒカルに拾われてから十五日目。

ヒカルとは仲良しだけど、アキラとはまだギクシャクした関係のまま。
そうした関係に、突然、変化が起きた。

その日は雨。ボクが拾われてきた日と同じ冷たい雨だった。
リビングの毛布でくるまっていると、アキラとヒカルが一緒に帰って来た。

そして――帰ってくるなり、怒鳴り合いを始めたのだ。


「――ってんじゃねぇか!」
「だからって、僕には何の相談もなしにか?!僕が人に知られなくないって思ってるのは知ってるだろ!」
「知ってるさ!だけど、あいつは友達だから!」
「友達だから?!友達なら何でも話すのか、キミは!」
「そうじゃねぇよ!だけど和谷は特別なんだ!あいつはすごく大事なことを話してくれて――俺も秘密にしとくのができなかったんだよ。友達に嘘はつけない。和谷は大切な友達だから――」
「だったら僕の気持ちはどうでもいいのか!和谷くんに話したら、どこから広がっていくかわからない。一人に話せば、そこからどんどん広がっていくんだぞ!」
「和谷はそんなヤツじゃねぇよ!誰にも言わないって約束した!」
「そんな約束、信用できるか!」
「おまえにはわかんねーよ!あいつがどんだけいいヤツか!信用できるヤツか!」
「ああ、わからないね!わかりたくもない!」
「なんだよ!だいたい、そこまでして隠さなきゃならないことなのか!友達に嘘をついてまで!」
「僕は人に知られなくない!何度言ったらわかるんだ!」
「わかってるよ!そうだよ、わかってるさ!おまえが俺との関係に後ろめたさを感じてることも!ホントは俺とこうなったのを後悔してんだろっ!!」

ヒカルが言った瞬間だった。
アキラの右手がヒカルの頬を叩いた。…ものすごい音がした。

ボクはおろおろしてしまい、二人を呆然と見つめるしかできなかった。
ヒカルとアキラが喧嘩するなんて。
時々、アキラが一方的に怒鳴ることはあったけど。ヒカルが怒鳴ることはなかった。
いつも笑って軽く受け流していた。なのに。

…ヒカルが怒鳴るとこなんて、初めて見た…。


重たい沈黙。
ヒカルとアキラは睨み合っていたが、先に視線を反らせたのはアキラだった。何も言わずにくるりと背をむけると、アキラは自分の部屋へと消えた。
ドアが静かに閉まる。それがかえってアキラの怒りを表しているようで、怖い。

ヒカルはその場に立ちすくんだまま、下唇を噛んでいた。そして。

「…くそっ!」

吐き捨てるなり、ソファにどかっと座って、頭を抱え込んでしまった。

…ヒカル?
ボクはヒカルに近づいていった。ソファに飛び乗って、ヒカルの腿に手をかける。
どうしたの?大丈夫?

ボクの問いかけに、ヒカルがゆるゆると顔を上げる。
その顔は今にも泣き出しそうだった。

「……ごめん…びっくりしただろ…」

それはびっくりしたけど…。大丈夫なの?
アキラと喧嘩するなんて。ヒカルはアキラのことが大好きなんでしょ?
なのになんで喧嘩するの?

「………」

ヒカルは黙ったまま、ボクをぎゅっと抱き締めた。痛いほど抱き締めてきた。
ヒカルは悲しんでいる。怒ってるんじゃなくて、悲しいんだ…。

そうとわかって、ボクはヒカルの赤くなっている頬をぺろぺろと舐めてあげた。
ボクにはこんなことしかできない。
ヒカルの相談に乗れたらいいけど。ボクは犬だし。喋れないし。
ヒカルの言葉はわかるけど、だけど…。

ぺろぺろと舐め続ける。
ヒカルはなおも、ぎゅっとボクを抱き締め、気持ちを落ち着かせようとしているようだった。

やがて力を抜いて、ボクを抱き上げる。茶色い目がじっとボクを見ていた。

「チビ。あんがと…慰めてくれて。だけどさ、俺はいいんだ…。悪いのは俺だから…」

悪いのはヒカル?そんなこと…。

「そうなんだよ。俺、あいつに言っちゃいけないこと言っちまった…。傷ついてるのは俺じゃなくて、あいつのほうだよ…。くそ、なんであんなこと言っちまったんだろ…」

ヒカル…。
苦しそうに悲しそうに。泣き出しそうなヒカル。
ボクは、その顔をたくさん舐めてあげた。
元気を出して。そう言いたくて。

ヒカルは溜息を落とすと、ボクに言った。

「チビ…。あのさ、悪いんだけど、アキラんとこ行ってきてくれないか?」

…え?

「あいつ…きっと泣いてる…。あいつは意地っ張りだから、ホントに泣きはしないけど心の中で泣いてるんだ。俺がひどいこと言ったから…。今、チビの慰めが必要なのは、俺じゃなくてアキラのほうなんだよ。だからさ…」

…ボクが…アキラを慰めてあげる?
そんなこと…できるわけない。だってボクはここに来てから、ずっとアキラが怖くて。
アキラもボクのことがあんまり好きじゃなくて。時々、睨んでくるし。
今、ボクが行っても追い返されるだけだと思うけど……。

「大丈夫だよ…」

ボクの不安を見抜いたかのように、ヒカルが言った。

「頼むよ。あいつんとこ行ってきて。俺の代わりに――…」

ヒカルはすごく苦しそうだった。悲しそうだった。
そんなヒカルの顔を見てたら、断われない。

ボクは決心して、ヒカルのそばから離れた。

アキラの部屋に向かう途中、ヒカルを振り返る。
ヒカルは?一人で大丈夫なの?
その問いに、ヒカルは小さく笑ってくれた。

「大丈夫だよ。アキラを――…頼む…」

ヒカルに言われて、ボクの心がさらに固まる。
アキラ。
ヒカルが大好きなアキラ。

ボクがアキラに何かしてあげられるんなら――…。







アキラの部屋の前までくる。ドアがきちんと閉まっていて、身体で押してもビクともしない。
ボクは外からカリカリとドアをかいた。やっちゃいけないことだってわかってるけど、今はこれしかない。
カリカリかきながら、くぅんくぅんと小さく鳴き続けた。

やがて。カチャと音がして、ドアが小さく開く。
アキラに何か言われないうちにと、ボクはその隙間から中に滑り込んだ。
アキラが驚いたように振り返る。

「…チビ?何しにきたんだ」

ボクは部屋の中央に座って、アキラを見上げた。
アキラは溜息をついて、ドアを閉め、こっちにやってくる。

「何しにきたんだ。――…ヒカルに何か言われてきたのか?」

当たってるけど、ここで頷いてもいいのかな。
慰めにきた――なんてわかったらアキラは嫌がりそうだし。

慰める…。

ボクはアキラを見上げて、さて、どうしようかと思い悩んだ。
慰めるって言ったら、ボクには舐めてあげることしかできない。
だけどアキラは一度もボクを抱きかかえてくれたことはないし、ボクもアキラに触れたことはない。
いきなり舐めるってこともできないし…。

ボクがぐるぐる考ええていると、アキラはそんなボクにはお構いなしに、ベットに座った。
そのままパタンと横になってしまう。

横たわっているアキラの顔は、とても悲しそうだった。
……ヒカルと同じ顔だ。

そう思った。喧嘩してたのに。二人とも悲しそうな顔をして。
一体、どういうことなんだろ…。

意を決してベットに飛び上がる。
ボクはアキラの顔の前で、小さく座った。

アキラが怪訝な顔でボクをじっと見る。真っ黒い目。それがゆらゆらと揺れていた。

「……何て言われたんだ?様子を見てこいって?それとも慰めてこいとでも言われた?」

え…えーっと…。

「無理しなくていいよ。キミは僕が嫌いなんだろ?」

嫌い、ってわけじゃないけど…。

「僕もキミのこと苦手だから。犬なんてどう接したらいいかわからないし…。キミとヒカルは、見てて腹が立つほど仲良しだし」

…見てて腹が立つほど?

「そうだよ。ヒカルは、キミを拾ってきてから、キミのことばかりで…」

…それって?

「――…嫉妬ってわかる?ヒカルがキミにばかり構っているから、僕はキミのことが嫌いだった。早く出ていって欲しいと思った。……ごめん」

そう言って、アキラがボクの頭を撫でてくる。

言われたことのショックと、そして触れられたことの驚きと。
ボクは目を丸くしてアキラを見た。

「キミは何も悪くないのにね。それに犬に嫉妬するなんて、僕もどうかしてる…。でもそれぐらい――…」

…アキラ?

「それぐらい、僕はヒカルのことが好きなんだ」

アキラはボクの頭を撫でながら、悲しそうに笑った。
ヒカルよりももっと悲しそうな顔。見ているのがつらいほどの笑顔。

「…おかしいよね…。こんなにヒカルのことが好きなのに、僕はヒカルとの関係を後ろめたく思ってしまう。ヒカルが言ったことは半分当たってるよ。後悔はしてないけど…やっぱり世間に知られるのは怖い。僕が臆病なだけなんだろうけど……」

アキラの手はすごく優しかった。
気持ち良すぎて、このまま目を閉じたら寝てしまいそうなぐらいだ。

ボクの頭を撫でながらアキラがじっとボクを見ている。そのとき初めてボクは気づいた。
アキラがすごくキレイなんだってことに。すごくすごくキレイだ。
こんなキレイな人間、初めて見たかも…。

ボクもじっと見ていたら、アキラがくすっと小さく笑った。

「キミはホントに人間の言葉がわかるの?そんなふうにじっと聞き耳たてたりして」

うん…わかるよ。アキラの言うことも全部。

「面白いね。犬ってみんなこんな感じなのかな…」

アキラの手がするりと離れていく。
撫でられていた心地よさが消えて、ボクは悲しくなった。
だから――。
アキラの手を追いかけて、ぺろりと舐めてしまった。

「…え…」

アキラが驚いたようにボクを見る。だけどボクはやめなかった。

なんだかアキラがすごく好きになった。
怖い怖いと思ってたけど、ホントはすごく優しんだってことがわかったし。
アキラもヒカルがすごく好きなんだってわかったし。
ボクにいろいろ話してくれたのも嬉しかったし…。

手の甲をぺろぺろ舐めて。
それだけじゃ足りなくなったボクは、さらに近づいていって、アキラの頬を舐めた。
アキラの頬はすべすべしてて気持ちよかった。
ヒカルの肌もキレイだけど、アキラの肌のほうがもっとキレイだ。気持ちいい。

「ちょっ、チビ、くすぐったい」

アキラはびっくりしてるけど、ただそれだけ。
ボクを押し退けたりしない。投げ飛ばしたりしない。

それに気をよくして、頬から首筋に移動したときだった。

…あ。
すごく甘い匂いがした。あの匂いだ。
ヒカルのベッドで嗅いだ匂い。あれってアキラの匂いだったのかー…。

すごく甘くて心地よくて。
黒髪にもぞもぞと顔を埋めたら、アキラはくすくすと笑い出した。

「くすぐったいよ」

笑ってるアキラは、すごくかわいかった。
ボクが言うのも何だけど、ホントかわいい。

ヒカルがアキラを好きな訳がわかったような気がする。
怖そうに見えるけど、本当は優しいんだ。それにキレイだしかわいいし。匂いも甘いし…。
ボクも――…アキラが大好きになりそうだ。

「…今日はここで寝る?」

アキラに言われて、ボクはわん!と即座に答えた。

アキラと一緒に布団に潜り込む。すごくいい気持ち。
アキラの甘い匂いに包まれて。アキラに優しい笑みを向けられて。

ボクは幸せな気分で眠り込んだ。







☆☆☆☆☆☆

翌朝。気持ち良く眠っているところをヒカルに叩き起こされた。

「こら!なーんで、おまえがアキラと一緒に寝てんだよ!」

あー…あれ。ヒカル、おはようー。

「ったくも〜、こっちはゆうべ一睡もしてないっていうのに〜!」
「キミが、チビを僕のところに寄越したんだろ?」

ボクの頭上で、アキラの涼しい声がした。
見ると、アキラはベットに入ったまま、小さく笑ってヒカルを見上げている。

「って、慰めてこいって言っただけだよ!誰も一緒に寝ろなんて言ってねぇ!」
「慰めてもらったよ。この子、ホントに僕たちの言葉がわかるみたいだ」
「なんだよ、やけに仲良しさんになりやがって」

ヒカルがムスッと膨れて、アキラはそれを見てさらに笑った。

「くっそ〜〜、なんだよ、もう怒ってねーの?」
「そうだね…。チビにいろいろ話して、少しは落ち着いたかな…」
「……和谷のことは…?」
「それはもういい。キミが和谷くんを信じるなら、僕も信じるしかないし…」
「そっか…。うん、ごめん。いろいろ」

ヒカルの言葉に、アキラは視線を落としただけだった。
だけど。ボクには聞こえたような気がした。
僕のほうこそごめん――…そう言ってるアキラの言葉が。

ヒカルにも多分、聞こえたんだろう。
ヒカルは嬉しそうに笑って、アキラの頭を挟み込むように、ベットに両手をついた。

「んじゃ、仲直りのキスしよ?」
「えっ、ちょっと…チビがいるだろ!」
「何言ってんだよ。もう今更だって」

言いながらヒカルが、アキラの唇に唇を重ねる。

アキラの胸の上にいたボクには、それがすぐ近くに見えた。
…ふーん、そうか、これがキスっていうのかー。

「…んっ……だめだって…これ以上はっ…」

アキラが言うのに構わず、ヒカルがキスを続ける。
舐める…っていうのとはちょっと違う。でもちらちらと舌が見えるし。
口の中を舐めてんのかなぁ。
うーん、アキラちょっと苦しそう?…違うかな。気持ちよさそう?かな。

思わずじーっと見ていたら、ようやくヒカルの唇から逃れたアキラと、目が合ってしまった。

アキラの首筋がさっと赤くなる。
あれれ?前もベットでそんな顔してたけど…。
…あ、そっか。アキラってば、照れてるんだー。

「さ〜てと。朝メシ食おっか。チビ、こいよ」

上機嫌なヒカルに言われて、わんとベットを飛び下りる。

ちらりと振り返ると、アキラはまだ頬をうっすらと赤く染めていて――。
なんだかすごくかわいいなぁ…なんて思ってしまった。







それからさらに一週間。
ボクの新しい飼い主はまだ見つからないらしい。
都会で犬を飼うということは大変なんだと、なんとなく気づかされた。

…大変。そうだ。だからボクは捨てられたのかもしれない。
だからって捨てるのはあんまりだとは思うけど…。


その夜も、ボクはアキラの膝の上に丸まっていた。

ヒカルとアキラが喧嘩したあの夜以来、ボクはアキラとも仲良しになった。
アキラは甘くてとてもいい匂いがするから、アキラのそばにいると気持ちいい。
アキラがボクの頭を撫でてくれる。それだけでとろんと瞼が落ちてきた。

「なんだよ、ったく〜。チビのやつ、やけにアキラにばっかくっつきやがって〜〜」

ヒカルが最近、文句ばかり言う。
ヒカルと遊ぶのは大好きだ。お日さまの匂いも大好き。
だけど、アキラの匂いのほうが気持ちいいんだから、しょうがない。
ボクは犬だし。一応、本能で生きてるからさ。

「ん〜、なんか面白くねえーなぁ」

ヒカルが“嫉妬”してる。面白い。
アキラがくすりと笑ってる気配がして、ボクもこっそりと笑った。

「ヒカル。提案なんだけど」

アキラがボクの頭を撫でながら、ふいに切り出す。

「別のマンションに引っ越さないか?」
「え?」
「ペットが飼えるマンションに」
「――…マジ?」
「うん」

ヒカルが驚いた顔をして、それからものすごく嬉しそうに笑った。

「やった〜〜!!」

笑顔のヒカルが、ボクをアキラの膝から抱き上げて、高く持ち上げる。
上に放り投げられて、ボクはちょっと焦った。落ちそうで怖い。

「やったぜ!チビ!おまえ、俺たちとずっと一緒にいれるんだぜ〜〜!!」

――…え…。ホント?ホントに?
思わず、アキラを振り返ったら。アキラは笑って頷いてくれた。
一緒に?ずっとずっとヒカルとアキラと一緒にいれるの?

喜んでいるヒカルが、ボクに目線を合わせて言う。

「よ〜し。こうなったら“チビ”じゃなくて、違う名前考えねーとなぁ」
「チビのままでも、いいような気がするけど?」
「だーめ。もっといい名前つけてやるからな。おまえならすぐに覚えられるだろ?」

うん!ヒカルがつけてくれる名前なら何でもいい!
嬉しくて嬉しくて。ヒカルの頬をぺろぺろと舐める。
ヒカルは笑って、ボクを抱き締めてくれた。


名前。ボクの名前。

新しい名前ってどんなのだろう。
新しいマンションってどんなだろう。

これからの生活にわくわくする。
何よりも――。ヒカルとアキラがいてくれる。それだけでいい。

それだけで、ボクは幸せだから。










※※※※※※
すいません。今回はドリーム入ってます(笑)
こんな犬がいたらいいな〜なんて。ありえないけど。
捨て犬チワワも…ありえないっすね。
犬を飼ったことはないんで、滅茶滅茶です。どうかお見逃しを〈汗〉

リクを下さった在沢天さま、ありがとうございました〜。

ちょびっとだけ、おまけがあります。
ヒカル視点で、裏です〈笑〉
このあたりに入り口があります。
でも大したことないんで。


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注意:裏は18歳未満はお断りしております。探さないでくださいね。
     このサイトに年齢制限はありませんが頂き物は別です。


このサイトを作る前にキリ番を踏み、書いてもらった小説です。

リク内容は
「ヒカルかアキラが捨てられた動物を拾ってきちゃう→二人はマンション(二人暮し)だから困る→いろいろ→ハッピーエンド(基本的にラブラブで)」

と、言う大まかなものだったのですが…。しかもこれでは萌えどころがないじゃ…(すみませっ;あわわ。動物絡みのヒカアキが見たかったが為に)
でも、こ〜んなによい作品がっ?!ん〜、すごいです。
おまけも頂いてしまったしv泥眼さん、ありがとうございました〜!

 

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