おひさま
本当は保育園なんか行きたくない。
知らない子ばっかりで、お母さんはいないし。
でもボクが嫌がったらお母さんが困っちゃうから、ボクは保育園に行くけど。
でもお家で碁を打って、緒方さんと遊んでる方が楽しいもん。保育園、行きたくないなぁ
「アキラくん、今日から保育園だって?」
緒方さんが朝、玄関に立っているところで話しかけてきた。
「うん」
「そうか、いっぱい遊んでおいで」
緒方さんはそう言って、にっこりと笑った。
緒方さんはボクと遊べなくなってもなんとも思わないんだ。
「…ボク、緒方さんと遊ぶ方が楽しいもん」
ついそう言っちゃった。
だって、本当に行きたくないんだ。
緒方さんならわかってくれるかなって思ったんだ。
でも緒方さんは嬉しそうに笑ってボクの頭を撫でただけで、行かなくてもいいとは言ってくれなかった。
「大丈夫、きっと楽しいよ」
楽しくなんかない。
だって、碁がないんだって、保育園には碁もないんだってお母さんが言ってたもん。
お母さんもお父さんもいないし。緒方さんだっていないし。
その内、お母さんが出てきて、ボクは手を引かれて家を出た。
緒方さんが手を振ってくれたけど、ちっとも嬉しくなかった。
ボクは泣きたくなるのを堪えて歩いた。
保育園はたくさんの子達がいた。
すっごくうるさくって、先生の言うことがわからないくらい。
ボクは教室の真ん中であいさつをした。
「新しく入ったお友達」だからだって。
皆がボクのこと見てて、何だか恥ずかしかった。先生は初めにお歌をうたおうって、皆で輪になって手を繋ぎだした。
ボクはどうしたらいいかわからなくてただ立っていたら、1人の男の子がボクに駆け寄ってきた。
「アキラくん、お歌キライ?」
その子は前髪の毛が黄色で大きな目でボクを覗き込んだ。
「ううん、きらいじゃないよ」
そう言うと、その子はにっこりと笑ってボクの手を掴んで輪に入った。
ボクは何が何だかわからなくてその子を覗き込む。
その子はにっこりと笑って大きな声で歌を歌ってた。歌が終わったら、今度は外で遊ぶことになった。
ボクは端っこにあった大きな木のところに立ってた。
空を見上げたら飛行機が飛んでた。太陽の光できらっと光った。
そうしたら、あの子がまた駆けて来た。
「アキラくんっ」
「なに?」
「何してるの?」
「…空を見てるんだ」
「遊ばないの?」
「…うん」
「どうして?」
その子は不思議そうにボクを見た。
ボクが黙っていると、その子はにこっと笑ってボクの手を握った。
「じゃあ、オレも遊ばない」
その子がボクの手を握ったままそこに座ったので、ボクは一緒にしゃがみ込むしかなかった。
「座らないの?」
「…だって、汚れるよ?」
不思議そうに聞いてくるから、答えたら、もっと不思議そうな顔をされた。
「大丈夫だよ、着替え、あるもん」
だから、座って。
そう言うから、ボクは座ることにした。
「アキラくん、さっきのお歌、覚えてる?」
「覚えてるよ?」
「オレ、歌うの好きなんだ」
そう言って、その子はとってもうれしそうに笑った。
「アキラくんの好きなものってなーに?」
「碁」
「ご…?それって食べ物?」
ボクは首を横に振った。
「お父さんのお仕事」
そういうと、その子は目をまん丸にして僕を見た。
「お仕事が好きなの?」
「碁が好きなんだよ」
「すごいねぇ」
そう言ってその子はまたにっこりと笑った。
「アキラくん、今度、その、ごって言うの、教えてくれる?」
「うん、いいよ」
碁に興味を持ってくれたその子に、ボクは少し嬉しくなった。
その子はボクの返事を聞くと嬉しそうに笑って立ち上がった。
ボクはまだ手を繋がれていたので、その子と一緒に今度は立ち上がることになった。
「アキラくん、わらった」
「え?」
「今、わらったよ」
その子は嬉しそうににこにこ笑っている。
わらったのはキミの方じゃないか。
その子は笑いながらボクの手を引いて、歌を歌いだした。
それからそこでくるくると踊りだした。
ボクはその子にひっぱられてあっちにいったりこっちにいったり。
その子はにこにこ笑って、とっても幸せそうに踊ってた。
だから、ボクもなんとなく楽しくなった。
ひっぱられるだけだったボクが少しその子をひっぱって踊ると、その子はいっそう嬉しそうに笑った。
金色の前髪がきらきら光ってた。とっても綺麗だった。
ボクはその子に合わせて歌を歌った。
その子があんまり嬉しそうだから、ボクも嬉しかった。
ボクが笑ったら、その子も笑ってくれた。
なんだか、おひさまみたいだった。
おひさまが笑ってるみたい。
きらきら光る、その子の前髪がとっても綺麗で、
きらきら光る、その子の笑顔がすごく嬉しくて、
その子が「つかれた」と言うまで踊ってた。
その子は木にもたれかかって、「アキラくんつかれないの?」って聞いてくる。
ぼくがその子をじっと見つめていたら、その子は首を傾げてにっこりと笑った。
やっぱり、おひさまみたい。
「キミの名前はなんて言うの?」
「え?オレ?オレの名前はね、しんどーヒカル」
おひさまみたいな笑顔でそう言った。
え?
光る…?ひかる?
「ひかる?」
「うん。ヒカル」
おひさまみたいな、ヒカル。
「おひさまみたいだね」
そう言ったら、ヒカルはにっこりと笑った。
「ありがと」
「アキラくん、保育園はどうだった?お友達は出来た?」
帰ってきたら、緒方さんが聞いてきた。
「…おひさまみたいな子にあった」
「おひさま?」
どんな子?って聞かれたけど、教えてあげなかった。
明日、ヒカルくんに碁石を見せてあげようかな。
また、おひさまみたいに笑ってくれるといいな。
…やまなし、おちなし、意味なし…?
書いてる分にはとても楽しかったですが。
ヒカルがおひさまみたいだと思うのはアキラじゃなくても思うでしょう。
今回は出なかったけど、あかりちゃんとか三谷とか佐為とか和谷とか出したいな