今日もボク達は普通に対局をしていた。
ただ違うのは2人とも対局より集中してることがあるってことだ。
相手に言わせたくないことを、言わせないように。
ボク達はじっと相手の様子を伺っている。
ボクはこんな風に碁を打つなんてしたくないけど。
碁に集中してしまうと進藤に先を越されそうで、集中できない。
むしろ進藤を見張るのに集中して、碁に手が回らない。
ボク達は真剣な顔をして打っていたけど、これをあとで見たら恐ろしいであろう碁を打っていると思う。
しかも早碁になっている。別にどちらから仕掛けたとかそういう感じではなく長考する気がないのだ。
「投了しろよ」
進藤がそんなことを言ってきた。
この場合、碁のことではなく、もう一つのボク達が争っているほうを諦めろと言っているんだろう。
「キミこそ諦めたら?」
ぱち、ぱち、ぱち、ぱち
碁石を碁盤に置く音がずっと続く。
「ケチ」
進藤がいきなり話しかけてきた。
「しつこい」
ボクが返すと進藤がボクを睨んできた。
盤面はもう終わりに近づいていた。
ぱち
最後に進藤が打って終わり。
「「ありがとうございました」」
ボク達が同時にそう言うと、同時に次の言葉が重なった
「チョコはやらないぞ」
「チョコくれ!」
ボク達はお互いに睨みあった。
「ケチ!」
進藤がまた同じことを言う。
「しつこいな。幼馴染の子に貰えばいいじゃないか」
進藤がすっと息を呑むのがわかった。
「オレは搭矢が好きなのっ!搭矢から貰わなきゃ意味ねーだろっ!」
それはボクもわかるけど
「でもやらないぞ!」
「何でっ!」
「何でもだっ!」
ボク達はまた睨みあった。
睨みあいながらボクはどうしようかと思った。
進藤と恋人という関係になって、ボクが一番嫌になる日が今日。
バレンタインデー
どうしてこんなイベントがあるのだろう?バレンタインなんてなくてもいいのに。
ボクは心の中でため息をついた。
大体、ボク達はどうして睨みあっているんだろう?バカバカしい。
バレンタインなんだから、せめてケンカくらいしなければいいのに。
でもこれはボクだって譲れない。進藤も同じらしい。
だから毎年ケンカになる。
そして1週間ほどお互い口を聞かないのだ。
毎年、嫌な行事を行っている。
どちらかが諦めれば、きっとケンカなどしなくてすむんだろうけど。
ボクは進藤を睨むのを止めて石を片付け始めた。
「…いいじゃんか。チョコくらい」
進藤が拗ねたように言った。
ボクは返事をしないで石を片付け続けた。
「搭矢の…ケチーっ!」
進藤は大きな声でそう言うと自分の部屋に引っ込んでしまった。
「…片づけくらいしろ」
ボクはそう呟くと進藤の分の碁石も片付けた。
ふう
ボクはリビングのソファに座ると目を閉じた。

 

ボクが進藤にチョコをあげたくないのは…
チョコを買えないからなんだ。
買えないというより買いに行くのが嫌なんだ。
一度だけ、付き合い始めて初めのバレンタインにチョコを買いに行った。
何を買っていけばいいかわからなかったので、大型スーパーのバレンタインのコーナーに行ったんだけど
それがマズかった。
そこらのコンビニで板チョコを買っていればよかった。
バレンタインコーナーでもチョコが沢山あってボクはそこでまた何を買ったらいいのか迷った。
コーナーの中を行ったり来たりしていたのだ。
そこで女の子達の会話がボクの耳に飛び込んできた。
「ねぇ、あの子男の子じゃない?」
「やだ、そんなことあるわけないじゃない。確かに凛々しい感じだけど」
「ただのボーイッシュな女の子でしょ?」
「それに男の子がバレンタインのチョコを選ぶ?」
「そうかぁ。そうだよね」
ボクは人事のように聞いていたけれど、はたと気が付いた。
今の会話はボクのこと?!
すっかり忘れていたとこだった。バレンタインは女の子の行事だってことを。
ボクは慌てて目の前のチョコを掴むとレジで精算して急いで帰った。
そのチョコは進藤に大変喜ばれたけれど…
ボクは女の子と間違われてとんでもなく落ち込んでいた。
たとえ男と付き合っていようがボクは正真正銘男で、女の子と間違われたらやっぱり嫌だ。
進藤はよくボクのことをかわいいとか言うけれど、ボクはそんなに女の子に見えるんだろうか
それからチョコをバレンタイン時期に買うことが出来ない。
トラウマと言えばトラウマなのかもしれない。
とにかくチョコのコーナーの近くに寄ることさえも何だか嫌で。
コンビニでチョコを買うのさえ出来なくなってしまったのだ。
自分で情けないとは思うけれど、どうしようもない。
ボクだって直そうと試みた。でもダメだったんだ。
なのに進藤はしつこい。ボクの気持ちも少しは考えてくれないだろうか?

かちゃ
静かだったリビングにドアの開く音が響いた。
進藤が部屋から出てきたのだ。
ボクが進藤を目で追っていると進藤が振り返った。
目が合った。
どうしようもなく心臓が跳ね上がる。ケンカをしている最中なので睨みつけるしか出来ないのに。
進藤は無言でボクを見て、何も言わずに出て行ってしまった。
ボクは悲しかった。
今までケンカをしても進藤は出て行ったりしたりしたことはなかった。
ケンカをしても一番近くにいた。
こんなに近くに居るのに、仲直りも出来ないのか?
「進藤…」
どこに行くんだ?すぐに帰ってくるのか?
どうして何も言ってくれないんだ?
進藤
こんな馬鹿げたケンカはもう止めよう?
「バレンタインがなくなればいいのに」
そう言ったところでバレンタインがなくなることはなかった。

 

 

 

暫くすると進藤が帰ってきた。
「搭矢っ」
ドアの開く音と共に進藤の声が部屋に響いた。
進藤はどたばたと騒がしく部屋に入ってくるとボクの前に立った。
「ごめん。もうケンカは止めにしよ?せっかくバレンタインだし」
進藤がそう言って申し訳なさそうな顔をして手をあわせた。
ボクは突然のことに驚いて進藤を見つめて何も言えなかった。
「でなっ、仲直りの印にこれっ」
進藤がなにやら箱をボクに差し出した。
「…ケーキの…元?」
進藤はにこっと笑うと台所に駆けていった。
「いろいろ買ってきたんだ。ココアにシュガーパウダーだろぉ、アーモンドとかほら!」
進藤は手に持っていた袋からなにやらいろいろなものを取り出していた。
ボクは進藤のそばに行って取り出したものを眺めた。
「どうするんだ…これ」
「ん?一緒にケーキ作ろうぜ?ココアのケーキ。バレンタイン用に」
ボクは進藤を見た。進藤は嬉しそうに笑って腕まくりをした。
「さ!搭矢もエプロンつけてさ」
進藤はボクにそう促したけれどボクは動けなかった。
そんなボクを見て、進藤は悲しそうな顔をして言った。
「まだ怒ってる?」
「違う。キミこそ…怒ってないのか?」
進藤はぱあっと嬉しそうな顔をして言った。
「オレわがままだったかなと思ったんだ。いつも搭矢から貰うことばっか考えてて。バレンタインにオレからあげてもおかしくないはずなのにさ。だから一緒に作ればいいかなって。オレはお前に。お前はオレに」
「だからケーキ…」
「いいアイディアだろ?だから一緒に作ろう」
進藤はボクににっこりと笑いかけた。ボクも嬉しくて進藤に笑いかけるとエプロンを身に着けた。

しかし、ケーキ作りなんて簡単だと思っていたけれど、結構大変だった。
ボクも進藤もケーキなんて作ったことなんてなくて、料理の本もないし、ボクらはあーだこーだ言いながらやっとケーキを完成させた。
「ケーキを作るのがこんなに大変だったなんて…」
「本当だな。…来年はクッキーにしとこうか。ケーキより簡単だって聞いたことあるから」
来年?
ボクが進藤を見ていると進藤が苦笑いをした。
「来年も搭矢はチョコくれないだろ?」
…悪いけどたぶんそうなるだろう
ボクが返事をしないでいると進藤がボクの頬を撫でておでこにキスをしてきた。
「いいよ。来年も一緒に何か作ろう?もうケンカはなし!」
ボクが笑うと進藤も嬉しそうに笑った。
「食べよ!」
進藤がケーキをリビングに運ぶ。ボクがお皿とフォークを用意して。
「「いただきます」」
ボクらで作ったケーキは見た目はすごく悪かったけれど初めてにしてはなかなかの出来だった。
「ウマイっv」
進藤はおいしそうにケーキをぱくぱくとすごい勢いで食べる。
「そんなに急ぐと喉に詰まらせるよ」
「大丈夫だって!」
進藤はそう言ってぺろりとほとんど食べてしまった。
「お腹壊すぞ」
「大丈夫。でも夕飯食べれないや」
ごろんと寝転がった進藤を見てボクは苦笑した。
「食べてすぐ寝たら牛になるよ」
「だって幸せなんだも〜ん」
進藤は本当に幸せそうに笑ってごろんと寝返りをうった。
「搭矢からやっとバレンタイン貰ったんだもんな〜」
本当に幸せそうに言うからボクはちょっと後悔した。
コンビニチョコでも進藤は喜んでくれたんじゃないだろうか?
少し我慢して買っていれば進藤とケンカになんかならなかったんだろうか?
「進藤」
進藤はボクを見てちょっと首を傾げた。
「チョコなくて、ごめん」
すると進藤は大きい目をもっと見開いてボクを見た。
「いいけど。…何でくれないの?」
進藤は心底わからないと言う顔をした。
ボクは言おうかどうか迷った。でも進藤がじっとボクを見て、その視線が「言って」と言うから。
ボクは話した。

「あはははははははははっ!」
「っ!!」
進藤はお腹を抱えて笑った。
ボクが女の子と間違われてショックだったと言ったら。
「キミはっ!人の恥を笑ったりしてっ!」
ボクは自分の顔が赤くなっていることがわかって情けないやら悲しいやら。
「もうっ、搭矢サイコーっ!ははっ」
進藤はテーブルを叩いたり、お腹を抱えたり、足をばたばたと動かしたり、とにかく笑いまくっていた。
ボクが進藤を殴ろうとしたら、進藤がいきなり抱きついてきた。
「搭矢」
ボクは突然のことだったので殴るのをすっかり忘れてしまっていた。
それに進藤の声色がバカにしたような感じじゃなかったから、ボクは黙ってしまった。
「ありがと。オレの為に悩んでくれたんだろ?ごめんな。オレわがままで」
「…そうだ。わがままのキミが悪い」
「うん。ごめん。搭矢、ありがと、大好き」
そう言って進藤はボクをぎゅうっと抱きしめた。
「それにしても女の子と間違われたかぁ…。搭矢ならありそー」
ボクの肩に顔を埋めた進藤がくすっと笑ったのがわかった。
進藤はボクを覗き込んだ。
「あ、今度スカートはいてみ?きっと似合」
ばきっ!
「いっ!ってーっ;」
ボクは進藤から離れると進藤を睨みつけた。
「二度とチョコなんてやるもんか」
「とう」
「来年は一人で作れ!ボクは二度と進藤にバレンタインはやらないからなっ!!」
ボクはそう言うと自室に入った。

 

ボクらはバレンタインだけは相性が悪くなるのかもしれない。

今年も一週間は口を聞かない日々が続きそうだ。

 

 

 

バレンタインなのにケンカさせちゃったヨ;裏が甘いからいっか?
ケンカする2人って好き(何故?)
アキラは絶対に女の子に見えると思う。
セリフを考えないでイラストだけ見たら絶対に女の子だと思う。おかっぱだから余計に
…いつかスカートはかせてみた(ばきっ)