拗ねた子供の扱い方

 

こんこんというノックの音でボクは顔をあげた
「失礼します。旦那様、石井様からお電話が…」
ボクの向かいに座っていた対局者が「ああ」と返事をする。
「すみません、塔矢先生。すぐに戻ります」
「ええ、構いませんよ」
ぱたんと静かに閉められたドアを見てボクは、はぁとため息をついた。
今日は本来なら進藤と遊園地に行くことになっていた。休みもちゃんと取っていたのだけれど、ボクを気に入ってよく指導碁を頼んでくれるこの人が「どうしてもこの日しか空いていないんです。どうにかなりませんか?」とあんまり懸命に頼むので断りきれなかった。
この人は忙しい身らしく、聞いた話ではどこかの社長らしいが、その為暇がないらしい。
それでも暇を作ってはボクに指導碁を頼んでくれるらしい。そんな人の頼みを断れることもできない。
でも、それを進藤に言うと拗ねられてしまった。
「楽しみにしてたのにっ」
そう言って剥れて口を聞いてくれなかった。
進藤が怒るのも無理もなかった。ボクらの休みが重なったのは約1ヶ月ぶりだった。
いろいろと忙しく、ボクらの予定が重なる日がなかった。
やっと空けた休みだったのに。
進藤はすごく喜んでていろいろ計画も立てていた。行き先を決めるのにも時間をかけていた。遊園地についたらジェットコースターに乗ろうと、ボクに笑いながら言っていた。
ボクはジェットコースターは乗りたくないけど、
進藤と遊園地に行くことは楽しみにしていたのに。
ボクだって楽しみにしていたのに…。
携帯電話を取り出した。どうしても声が聞きたくなって、押しなれたボタンを押した。
ぷる…
『塔矢っ?』
1コールもしない内に聞きたかった声が耳に届いた。
「進藤?」
『おまえどうしたんだよ?指導碁は?もう終わったのか?』
「ううん、まだ。ちょっと席を立たれているから電話してみたんだけど」
『なんだ、そっか』
そう言った進藤の声の向こうでなにやらざわざわと音が聞こえる。
「進藤、キミ外にいるの?」
『え?ああ、そうだけど』
「どこに?…和谷くんと一緒?」
ボクが出かけるまで進藤は指導碁を断ってくれるんじゃないかと期待していたみたいだった。
ボクだってできたら断りたかったけど、そんなことできるわけがない。
ボクが玄関を出る時、進藤は怒った口調で言った。
「もういいよ。今日は和谷と遊ぶからっ」
本当に和谷くんと遊んでいるのか?
ボクは仕事なのに。しかたがないことなのに。
『一緒じゃないけど…。妬いた?』
「馬鹿言うな。それで、どこにいるんだ?」
本当は妬いてた。
ボクだって本当は進藤と一緒に過ごしたい時間を、誰かに取られたくない。
『…塔矢怒るからヒミツ』
「怒られるような所にいるのか」
『さあ?』
「言わないとボクと遊園地行けないよ?」
『え?終わったのかっ?』
「…まだだけど」
『なんだよ。期待させんなっ』
「ごめん。だって進藤が教えてくれないから」
その時、がちゃっと音がしてドアが開いた。
「ごめん、またかける」
そう言って一方的に切った。
また怒るだろうな、と思ったけれど、どうしようもなかった。
「すみません」
「いえ、いいんですよ。彼女さんですか?」
「いえ、違います」
『彼女』ではない。相手は男なのだから。
「すみませんね、デートの約束でもありましたか?私が無理にお願いしたせいで」
「いえ、だから彼女では」
ボクはちょっと慌ててしまった。人の話を聞かないこの人と、ずばり本当のことを言い当てられてしまったことに。
「本当に先生には申し訳ないんですが…、私のほうで仕事が入ってしまいまして」
「え?」
「すぐに行かなくてはならないんで、指導碁はこれで終わりにしてもらえませんか?」
「ええ、それは構いませんが…」
「本当にすみません。私の身勝手で。彼女さんにも謝っておいてください」
「いえ、だから、彼女じゃ」
「それでこれを」
差し出されたのは紙切れが2枚。見てみるとボク達が行こうとしていた遊園地の無料招待券だった。
「貰い物で申し訳ないんですが、先生が無理して来てくださったお礼に」
「あ、こういうものは…」
「貰って下さい。どうせ使うこともないですし」
「…ありがとうございます」
「いえ、私こそありがとうございました。車で送らせますので彼女さんの所に行ってください」
彼女じゃないと言っているのに聞かない人だ、と思ったけれど、
ボクはつい
「ありがとうございます。でも電車で帰りたいので」
と微笑んで返してしまった。

ぷるる…
『…何?』
1コールで出てくれるのは嬉しいが、そうとう怒っているらしいことは声色で伺えた。
「ごめん」
『何が』
「…………ごめん。でもボクだって…」
本当はキミと一緒にいたいんだよ
『…ごめん、オレもちょっと拗ねてた』
「キミ、どこにいるの?」
『…ヒミツ……』
「ボクと遊園地行きたくないの?」
『何言ってんだよ、行きたくても行けないだろ』
「ああ、キミがいなきゃ行けないね」
『いないのはおまえだろっ。何言ってんだ』
「ボク今終わって駅に着くところだよ」
『えっ?終わった?だってさっきは…』
「キャンセルになった。仕事が入ったらしいんだ」
『すっげぇ最悪…』
進藤は不機嫌な声を出す。
『何そいつ。意味わかんねぇ』
「でもいいものを貰ったよ?」
『はっ?そんな奴から貰うなっ』
「でもキミが喜びそうだよ?」
『おまえ駅着くって言った?』
「え?うん。あ、もうそこ」
『そこで待ってろ』
「え?」
ぷつっ、つー、つー、つー…
待ってろって…
「塔矢っ」
聞こえてくるはずのない声が耳に届いて驚いて顔を上げる。
走ってくるのはさっきまで携帯で喋っていた相手。
「進藤っ、どうして…」
「へへっ」
進藤は照れくさそうに笑う。
「待ってたんだ。一緒に帰ろうと思って」
待っていた?ボクが終わるのは2時間もあとの予定だ。それを待っていたって…。
「ラッキーだな。待ってて正解」
嬉しそうに笑う進藤の鼻は真っ赤になっていた。
「キミ、いつからいたの?」
「…初めから」
「初めって…」
「おまえの乗った奴の次のに乗った」
呆れた。
ボクはそっと進藤の頬を手で包み込んだ。
決して暖かくない僕の手でも進藤の頬は氷のように冷たく感じられた。
「こんなに冷たくなって」
「しょうがないだろ。寒いんだから」
「…ありがとう、待っててくれて」
嬉しかった。こんな馬鹿なことをするなんてと思うけど。やっぱり嬉しかった。
「うん。そだ、この時間なら遊園地行けるなっ」
「ああ」
さっき貰った遊園地の招待券を見た。
今日はタイミングが悪い日だと思ったけど、そう悪くもなさそうだ。
進藤の機嫌も直ったみたいだしね
ボクはご機嫌顔の進藤を見て幸せな気持ちになった。

 

 

・・・・・・。
題名についてのつっこみは受け付けません。
誰か題名のつけ方教えてくださひ…(泣)
あ、最後に1つ
これはヒカアキです!アキヒカじゃないです。ヒカアキなんです〜(必死)

 

 

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