ぽかぽか日和

 

 

寒かった冬ももう終わるのかな?
オレが搭矢の家の縁側で座って空を見上げてると搭矢に声をかけられた。
「何してるんだ?」
「んー…?」
オレが返事をして振り返ると搭矢が碁盤を持って立っていた。
「まだ打つのかぁ?」
搭矢は当然、と言う感じで碁盤を縁側に置いた。
「本当、碁バカ…」
「キミが付き合ってくれると言ったんだぞ」
そう、昨日ちょっと、…イジメすぎて搭矢の怒りを買ってしまった。
だから「今日はお前のいうこと何でも聞くから許して〜」と言ったら、これ。
朝からずーっと打ってる。
いい加減にしようよ〜
そりゃあ搭矢と打ってるのは楽しいよ?
だけど、休みなしで打つのはちょっとキツイ。搭矢だって疲れてるはずだし。
だから今まで「ちょっと休憩」と縁側に逃げてたのに…碁盤持ってくるまでするか?
「早くにぎれ」
「………」
オレは不満だと言う顔をめいいっぱい表現して搭矢を見た。
「…自分の言ったことの責任は取れ」
そりゃあ、いうこと聞くっていったけど…
オレがじっと搭矢を見ていると搭矢は「しかたないな」と呟いた。
「お茶を持ってくるよ」
搭矢は立ち上がって台所に向かった。
ふう
オレは搭矢が見えなくなると縁側から空を見上げた。
青くて雲ひとつない。
綺麗だなぁ…。
暖かくて気持ちよくてオレは大きなあくびをした。
「眠いのか?」
搭矢がお茶を持ってきた。
「んー…ちょっとね」
「…言うこと聞くって言ったのに、キミはずるいね」
搭矢は碁盤を少しよけてオレの隣に座った。
「だってさー。なんか他に、碁以外でないの〜?」
搭矢は少し考えるように口元に手を持っていった。
「特には…ないかな」
「ないのかよ〜。やっぱ碁バカ〜」
そう言うと搭矢はちらっとオレを睨んだ。
でもすぐに前、ようするに庭の方に向いてしまった。ふうと息をついて、搭矢が動いた。
搭矢は持ってきたお茶をオレに差し出した。
「いらないか?」
「いる」
オレはお茶を受け取った。
オレと搭矢は並んでお茶を飲んだ。
空はさっきと変わらず雲ひとつない、ぽかぽかと春の日差し。
「…なんか年寄りくさい」
オレが呟くと搭矢が笑った。
ウケた?
「だってさぁ…、お茶といい、この天気といい。熟年夫婦って感じ?」
搭矢はくすくすと笑いながらお茶をおぼんに戻す。オレも「もういい」と言う意味でお茶を搭矢に返す。
搭矢はさも当たり前のようにそれを受け取っておぼんに戻す。
会話なしでわかるし…。
これじゃあオレ達って夫婦じゃん。
その自分の考えに嬉しくて笑った。搭矢は首を傾げたけど、あえて言わなかった。
言ったら怒るか、照れて怒るか、照れて殴られるか。とにかくいい結果にはならないだろうから。
「にしてもいい天気だよなぁ」
オレが空を見上げていうと搭矢も空を見上げた。
「うん。この前まで寒かったのにね」
「もう春って感じだよな」
ぽかぽかと暖かい日差しがオレの眠気を誘ってくる。
ふあぁ……
あ、またあくびが。
だって気持ちいいんだよなぁ。この暖かさ。
オレはごろっと大の字に寝転がった。
「こら、行儀悪いぞ」
搭矢から叱りの言葉が飛んでくる。でも気にしない。
「ん〜。あったか〜い」
床は太陽の熱で暖かくなっていた。
「これなら床暖房とかいらねーな〜」
オレは床をさすさすと摩った。
「あのな…。掃除はしてるが綺麗じゃないよ、そこ」
「大丈夫だって〜」
オレは搭矢を見上げた。
搭矢は言葉では呆れて怒ってるって感じなのに、顔はとても綺麗で、自惚れじゃなくて搭矢はオレを愛しそうに見てた。
オレは嬉しくて搭矢の腕をぐいっと引っ張った。
「わっ」
搭矢はバランスを崩した。
床にぶつかる前に搭矢は自分の体を手で支えた。
ちぇ、オレが搭矢を受け止めたかったのに
オレは搭矢を受け止める準備は万端だった。でも搭矢が先に自分を支えてしまった。
ま、いいけど
搭矢は今度こそ怒った顔でオレを睨んだ。
「何するんだ、危ないだろう」
「おまえ寝てみろよ」
オレは笑って答えた。
「ほら、あったかいぜ?」
搭矢は体を傾けたまま静止して動かない。
オレは強引に搭矢を寝かせた。
オレの右腕に搭矢の頭を乗せて。
「腕枕ならいいだろ?」
「…よくない」
搭矢はさも不機嫌だっていう声を出したけど、本当はそうじゃないんだってわかる。
だって、オレはもう搭矢の拘束を解いてる。起き上がろうとしたら出来るのに、しない。
素直じゃないのにわかりやすい。
「重くないのか?」
搭矢がオレを見て言った。
搭矢の顔が近い。
うん、腕枕っていいな。
「進藤?」
「あ、ううん。重くないよ」
「そうか?何だか腕だと痛そうだと思ったんだけど」
「ん?んなに痛くないぜ?じゃ、腕じゃなくて膝にする?」
搭矢は眉を寄せてオレを見て、それからげしっと足でオレを蹴る。
「搭矢が足蹴にした〜。おまえだって行儀悪いじゃん!」
「ボクは知らない。自業自得だろ」
「あ〜、そんなこと言う?悪い口」
搭矢はふんっと言う感じでオレから視線をそらそうとした。
それを咎めてオレは搭矢にちゅっとキスをした。
ただ触れるだけ。
だってそれ以上は搭矢の怒りを買うだけだし。
「悪い口は塞いじゃうぜ?」
オレがにっこり笑うと搭矢は不満そうな顔をした。
「キミはやっぱりずるい」
「お褒めに与り光栄です」
またオレがにっこり笑うと搭矢はオレを睨むのを止めた。
「ボクの言うこと聞いてくれるんだろう?」
「もちろんですvお姫様v」
オレが調子に乗ってそう言うと搭矢がきっと睨んできた。
「とりあえず変にカッコつけるのはやめろ」
「は〜い」
搭矢は少し間を置いて言った。
「…しばらく、こうしててもいいか?」
「え?」
搭矢をまじまじと見てしまった。
こうって、この腕枕?
「少しだけでいい」
「う…ん。そんなのいくらでもいいよ。オレのでよければ」
搭矢は少し笑うと言った。
「キミのじゃないと意味がないだろう」
オレは顔が熱くなった。
う、わ〜。こんなこと言われたの初めてかも!
オレは冷静を装ってにっこり笑った。
心の中ではめちゃめちゃ嬉しくて心臓はばくばくしてたけど。
「でもその後また打つんだからな」

「…は〜い…」
オレが嫌そうに返事をしたら搭矢は苦笑した。
「じゃあ、次、キミが勝ったら碁は止めるよ」
「わかった。勝つからな」
そう宣言したら搭矢は嬉しそうに挑戦的に笑った。
「とにかく今は休憩〜。オレ打ちすぎて頭痛いくらいだぜ〜」
「嘘つけ」
「嘘だけどさー…、それくらいの気持ちなの〜」
ふ、ああぁ…
またあくびが出た。
何だかだんだん眠くなってきた気がする。
「オレちょっと…」
寝ると言おうとしたけど、その前に目を閉じてしまった。
「進藤、寝るのか?じゃあ布団に行ったほうが」
「いい。お前も一緒にねよ…?」
「ここでか?」
「ん…暖かい…」
オレはほとんど意識が飛びかけていた。
「確かに…気持ちいいな」
うん
そう心の中で答えてオレは意識を手放した。

「…んー…」
オレが目を覚ますととなりには搭矢が眠っていた。
オレは驚いてまじまじと見てしまった。
搭矢が床で、しかもオレの腕枕で寝てる…。
搭矢はちょっとオレの方に向いてて、すうすうと小さな寝息をたてていた。
無防備な搭矢にちょっとだけイタズラ心が疼いた。
オレは搭矢の前髪をちょっとだけすくってみた。搭矢の髪は流れるようにさらさらとオレの手から落ちていく。
その手を搭矢の頬まで持っていってそっと包み込んで、顔を近づけた。
ちゅっとおでこにキスを落とす。
搭矢はまったく気づく様子もなく静かに眠っている。
オレは今度は目尻にキスをした。搭矢はそれでも起きない。
オレは調子に乗って、頬、鼻、唇とたくさんキスを落とした。
面白いし…楽しいけど。
「搭矢…起きて?」
やっぱり搭矢の反応がないとツマンナイ。
今まで起きる様子もなかったのに、搭矢に声をかけたら搭矢は身じろぎをして目を開けた。
「…進藤」
「オハヨ」
搭矢はがばっと起き上がった。
「ボク…寝てた?」
「うん。かなり普通に寝てた。しかも熟睡」
オレが起き上がろうと手をついたら…と言うかつこうとしたんだけど…
それが右手で、ようするに搭矢の頭の下敷きになっていた腕で支えようとしたら、失敗した。
右腕は痺れていた。
「…力はいんない…」
そう呟くと搭矢が不思議そうな顔をして、それからすぐ意味を理解したみたいだ。顔つきが怖い。
「だから聞いただろう。痛くないかって」
「痛くはないの。ただ…痺れた?」
搭矢はふうとため息をつくと碁盤を引っ張ってきた。
「左手で打てるだろ」
え;
「にぎれ」
「う…はい」
オレはとりあえず左手で碁石をにぎった。
オレが先番。
「「お願いします」」
とりあえず右手に力が入んないからオレは左手で打つことにした
んだけどぉ…;
やっぱ持ちにくい…な。
オレは碁石を落とさないように慎重に打っていた。
でも、って言うか案の定、オレは碁石を落とした。
一番石が多い、一番今攻めあっているところに。
「げ」
思ったら搭矢からやっぱり言われた。
「進藤っ!真面目に打てっ!」
「打ってるって!オレ左手でなんか打ったことねーんだもん!」
「打ったことがなくても打てるだろう!普通は!」
「打てねーよ!オレ右手でだって苦労したんだから!」
「そういえばそうだったな!キミの打ち方は酷かった!」
「だーっ!いーだろ!」
「でももう慣れただろう!石を落とすなんて!」
「だから無理だっての!」
「キミはそうと不器用なんだな!」
「どーせ不器用です〜」
オレ達のケンカが終わる頃にはオレの右手の痺れはとれていた。

 

 

 

春だから…のんびりしたのが書きたかったんです。
ヒカルは左手で打てるのかなぁ?右でも苦労してたからな〜
普通は左でも打てると思うけど…石を落とすくらいはしそうかなと(右でも落とすんで、自分は;)