手ごたえのある対局で気持ちよくお昼に入った。
何も特別なことなどないのに妙に楽しい気分だった。
何だか体がうずうずする感じ。
囲碁ばっかで体なまってんのかなー??
最近は運動する機会なんてなくて全然運動なんてしてない。
少しだけ外に出てみようと思って歩き出すとふと三年前の夏を思い出した。
まだ佐為がいたころの、プロ試験の頃。
緊張するオレにいろいろアドバイスなんかしてくれて、お昼に体操したことがあったけ。
あいつが腕ふれとか声出せとかうるさく言ってさ、でも結構あれって気晴らしになったりしたっけ。
想像にふけっていたオレを現実に引き戻したのは外の暑い空気だった。
「あちぃ〜」
空を見上げるとぎんぎんと太陽が照り付けている。
ぱたぱたと手を振って扇いでもなんの効果もない。
「おっし」
あの時立った場所に立ち、一瞬だけ振り返ってみた。
大切な人を思い出して微笑んで、大きく息を吸い込んだ。
「いっち、にー、さん、しーっ」
声を出してあの時と同じように体操を始める。
やっぱり体がなまってたのかもしれない。体を動かしたら気持ちよくなってきた。
「進藤?」
後ろからよく知った声が聞こえた。
「搭矢」
振り向いたら搭矢はオレのことを怪訝そうに見つめていた。
「搭矢も一緒にやろーぜ」
「は?」
オレの言っていることの意味を理解できていなさそうに顔を傾げる搭矢を見て笑いが込み上げる。
オレは搭矢を強引にオレの隣に立たせた。
「はい、腕を大きく上げて!」
「し」
「はいっ」
オレは困惑した搭矢にお構いなしに腕を上げて体操をする。
横を見るとさらに困惑した様子の搭矢がオレを見てた。
「しん」
「やってみろよ。結構気持ちよくなるぜ?ほら!」
強引に促すとそろそろと腕を動かす。
「ほら、もっと元気よくっ!」
搭矢に笑いかけると搭矢も少し笑ってくれた。
なんだか…、オレが佐為で搭矢が昔のオレみたい。
「おいっち、にー、さん、しーっ」
後ろの方ででぷぷっと笑い声がして振り向くと和谷が立っていた。
「…何やってんだよ、おまえら」
和谷は笑いをこらえた様子で言った。
「何って」
隣で小さく息を呑む音が聞こえた。搭矢だ。
見ると顔を真っ赤にして手を横に出したまま和谷を見つめてた。
あんまり驚いて動けなくなったかな?
「和谷もやらねぇ?」
「はぁ?」
「気持ちいーんだって!」
オレがまた掛け声をかけると和谷は笑いながらもオレの隣に立って体操し始める。
「な、気持ちいいだろ?」
和谷に声をかけると笑って返された。
「おまえってやっぱ変っ」
「なんでだよっ!」
そう答えただけなのに和谷は笑いまくった。…失礼なヤツ
搭矢に話を振ろうとしたら、きちんと体操する搭矢アキラがあって、笑えた。
オレの視線に気がついた搭矢が何だ?と問う。
「おまえも変だよ」
「は?失礼だな、キミは」
「おい、進藤、もっておまえ入ってんじゃねーか」
「あ」
「ばっか」
和谷はさらに笑って涙まで拭っていた。
「ボクが変だって言うなら、ここにいる3人はみんな変だよ」
「んえ?」
「こんなところで体操する人なんて見たことない」
「あははっ、そりゃ言えてるわ!」
和谷は手を叩いてウケていた。こいつ笑いすぎ…。
「そーか??してるヤツいるかもしれねぇじゃん」
「あ!」
和谷が大きな声を出すからオレと搭矢は和谷に注目した。
「俺知ってる!ここで体操してたヤツ!」
「ほぉら、いるんじゃん」
「…そんな人いるのか?誰だ?プロ?」
「おまえ!」
和谷が俺を指差して言った。
「は?オレ?」
「プロ試験の時、ここで」
「…あ」
和谷、知ってたんだ…
オレが、まだ佐為と一緒だったころの
何だか妙に嬉しかった。
佐為は消えたてしまったけれど、碁の中に、オレの中に、オレに関わって佐為に関わったヤツの中に、ちゃんと残ってる。
今、オレが佐為と和谷や搭矢とを繋げてるみたいだ
佐為はオレが思った以上にたくさんのものを残してくれてたんだ
オレは体操するのをやめて座り込んだ。
それを見た搭矢がオレを咎める。
「な、気持ちよかったろ?」
オレが二人と見上げると、二人は目を丸くしてお互いに見つめ合ってる。
「?」
和谷がオレに視線を落としてオレの頭に手をぽんぽんと乗せた。
「やっぱ変なヤツ」
「変で結構」
溢れそうな涙を不審に思うのは当然だけど、変じゃないよ。
嬉しいんだから。
ばっと勢いよく立ち上がると棋院に入るため歩き出す。
今日も碁を打つ。進むために。
和谷も搭矢も、歩き出す。
「今日は面白いもん見れたなぁ」
後ろで和谷が笑った。
「何?」
オレが振り向いて聞くと確かにそれは面白かった。
「踊る搭矢アキラ」
「っ?!」
搭矢の顔が即真っ赤になって和谷を睨んだ。
「踊ったんじゃない!体操だ!」
いやいや、そこなのかよ…
「それから真っ赤になる搭矢アキラかなっ」
「〜〜っ?!」
搭矢は何も言わずにすたすたと早足でオレ達を置いていった。
「何かあいつおもしれぇなー」
和谷がははっと笑う。
「へへ」
オレも笑う。
そうだよ、搭矢が付き合ってくれたのも、何かの縁だよなぁ
不思議だな…
オレは搭矢を追うため走り出す。
和谷もオレの後に続いて、搭矢に追いつく。
「搭矢ぁ」
「キミたちみたいな変な人とは付き合いたくない」
「そんなこと言うなよぉ」
「搭矢、そんなに気にした?俺の言ったこと」
「別に…(怒)」
「怒るなよ〜」
「怒ってない!」
「怒ってるだろ…」
「大体進藤があんなところでっ」
「あー、はいはい」
「ははっ」

佐為、オレ楽しくやってるよ。

 

 

実は去年に書いたものだって事は、ヒミツ(暴露)