ここはある公園です。
そこに一人の若い男性が座っていました。まだ学生のように見えます。
平日の昼近くだと言うのにおかしいですが、その男性は満足そうな顔でベンチに座っていました。そこに、保育園から帰ってきたヒカルが遊びにやってきました。
ヒカルは一人でブランコに乗ったり、滑り台で遊んでいました。そして砂場に向かうヒカルの視界の中に、その男性が映りました。
男性の方もヒカルに気がついたようで、にこっと微笑みかけました。
人懐っこいヒカルです。その笑顔を見ると、興味が沸き、その男性に近づきます。ヒカルはその男性の近づくと、その人を見上げました。
男性はじっと見つめるその男の子に興味を持ったようで、更ににこっと微笑みました。「この近くに住んでんのか?」
「うん」
「そーか、ええなぁ。よくこの公園で遊ぶんか?」
「うん!」
「名前なんて言うんや?」
「ヒカル!」
「いくつ?」
「よんさい!」
「元気やなぁ。お兄ちゃんと遊ぼぉか?」
「うんっ」砂場で遊ぶと言ったヒカルに、その男性はにこにこと微笑みながら付き合った。
「砂遊びなんてめちゃ久しぶりやわぁ」
「オレ保育園でよくやるよ!おっきーお山作るのっ」
「そーか。ええなぁ」
「おにーちゃんは学校?」
「んー、学校や」
「今日はお休みなの?」
「まぁな。休んだとも言うんやけど」
「??」
「こっちで用事があってな。囲碁って知ってるか?知らんわな、まだちっこいのに」ヒカルは囲碁と聞いてすぐにアキラを思い出しました。
アキラがよく口にする「囲碁」です。忘れるわけがありません。「知ってる!オレ知ってる!」
「え?!知ってるんか?へぇ、じーちゃんが打ってるんか?」
「違う。アキラくん!」
「友達か?」
「そう!保育園で一緒に遊ぶの!」
「保育園?!園児が打つんか?!そんなヤツもおんのかぁ…」
「うん、あのね、ぷろになりたいんだって」ヒカルはアキラがどれだけ囲碁を好きかよくわかっていました。
それが大変で、でもとても素敵なことだと言う事もわかっていました。
だから少し自慢げに話しました。「プロぉ?!その歳で言うかっ?!あ!待てよ?!そいつ、搭矢アキラちゃうか?」
「? アキラくんを知ってるの?」
「わっ!マジかい!搭矢アキラ!そうかぁ…」
「ねぇ!アキラくんと友達なのっ?!」ヒカルは自分の知らないところでアキラの友達があるなんて思わなくて、
自分が知らないことが悲しくて、その男性に詰め寄りました。「ちゃうちゃう!搭矢名人の息子さんやろ?だから知っとってん!」
「とーや…メージン??」
「ああ、そこまでわからんか。そのアキラくんのお父さんを知ってるだけや」
「アキラくんのお父さんとお友達?」
「…まぁそんなとこや。俺はな、アキラくんのゆっとった碁のプロや」
「碁のぷろ…」
「そうや、で、アキラくんのお父さんもプロや。一緒やから知ってる。それだけや」
「ぷろ?」
「そぉや。アキラくんの目指してるプロやで?」
「…すごいっ!」ヒカルは飛び上がってその男性を見上げました。
その眼差しには好奇心と尊敬の気持ちが込められているように見えました。「すごいかぁ。あんがとさん」
男性はにっこりとヒカルに笑いかけました。
「いいなっ。囲碁のぷろぉ。アキラくんもなるんだよぉ」
「(そらなるわなぁ、搭矢十段の息子やしな…)」
「すごく難しいけど、頑張るんだって〜」
「そうか」
「おにーちゃんも頑張ってね」
「おう」話が終える頃には砂は大きな山になっていました。
ヒカルとその男性はふうっと息をつき、汗を拭いました。「よっしゃ!遊んだなっ。じゃ、次は腹ごしらえや。ヒカルくん、手ぇ洗いに行こか」
「うん」二人は公園にある水道で手を洗うと、男性が座っていたベンチに戻りました。
ベンチに座ると、男性はカバンから何かを取り出します。「母さんがまんじゅう作ってくれたんや。食べるやろ?」
「食べるっ」ヒカルは手を上げて大きな声で答えました。
「んじゃ、なんぼ食べる?ぎょーさんあるから遠慮せんでええで」
「…にぼっ!」ヒカルの答えを聞いた男性は一瞬何と言われたかわかりませんでした。
でもすぐに意味がわかり、噴出しそうになるのを必死に堪えました。「(そうか、なんぼやからにぼね。わからんでもないわっ。やぁ、子供は純粋でええなぁ。ボケがかわいらしいわ)」
そうです。ヒカルは何個ではなくなんぼと聞かれたので、個で答えるものではなく、ぼで答えるものだと思ってしまったのです。
東京で育ったヒカルに関西弁は少し伝わりにくかったようです。「何で笑うの…?」
笑いを堪えていたのですが、やはり顔に出てしまっていたようです。
ヒカルは少し不機嫌そうな顔をしました。
どうやら少し機嫌を損ねたようです。「笑っとらんって!かわいいなぁって思っただけや」
「……かわいくないもん」どうやら男の子には「かわいい」は禁句だったようです。
ますます機嫌を損ねてしまいました。「ああ、悪かった。ほら、まんじゅう食べて機嫌直してぇや」
男性はヒカルの膝におまんじゅうを入っていたタッパの蓋に乗せて渡しました。
ヒカルはと言うと、それを目の前にしたとたんにぱあっと嬉しそうにして、不機嫌なんてなんのその。「いただきますっ」
「どーぞ」ヒカルはおいしそうにおまんじゅうを頬張ります。
それを見た男性はほっと一息つくと、自分も食べ始めます。
はむはむと二人で食べている様子は幸せそうでした。「ごちそーさまぁ」
「はい、お粗末サン」二人が食べ終わった時、カラスがかぁっと鳴いてどこかに飛んでいきました。
そういえばもう太陽が傾き始めていました。「ヒカルくん、そろそろ帰らなあかんのちゃうか?」
「あ!ほんとだ!」
「じゃあ、バイバイやな」
「おにいちゃん、また遊ぼうねっ」ヒカルは笑って手を振りながら公園を後にしました。
なんやえらい簡単に言うなぁ
男性はヒカルの真っ直ぐな言い方に苦笑しました。
もう会えへんのにな。子供って言うんはおもろいなぁ
男性はヒカルの言った「にぼ」を思い出して一人笑いました
帰ったら父さんに言うてみよか。きっと大うけやわ
男性はカバンを持つと、ゆっくりと公園を後にしました。そやな、搭矢アキラがプロになって、それまで自分が囲碁界におれば、
もしかしたら、ヒカルくんに会えるかもしれんなぁ苗字も聞かなかったその男の子とその友達の囲碁界一の棋士の息子が自分と繋がる日を思って
自分の方もなかなかの夢見ぃやな、とまた苦笑した。
「にぼ」で爆笑したのは私です。
すっごくかわいくないですかっ?にぼ。笑ってしまいます。
うんうん。関西弁に慣れていないとそう答えるのねぇ
そういう風に考えちゃう子供がかわいいです。私は又聞きなんですけどね
今回は「なんぼ?」と聞いてもらう為だけに社に東京まで来て頂きました。(いや、一応対局で)
社だけ一足先にプロになっちゃってますが…;(変な気分だわ)
ついでに家族は囲碁反対派でなく賛成派と勝手に変えてみたり。その方がおまんじゅうが…
そしてお題の中で「なんぼ」(つか社)を出すことが非常に難しそうだったので番外編という形になりました。
アキラも出てないしね…