おねむ

 

 

保育園にはおひるねの時間があるんだけれど、
どうしてもその時間に寝られない子がいる。
ボクもそうだ。
みんなでお布団をしいてみんなで寝るんだけれど、それが出来ない。
眠くならないんだ。
みんなと並んでお布団に入るのはとっても嬉しかったんだけど、
嬉しすぎちゃうのか、となりでヒカルくんが寝息をたてはじめても、ボクは目を開けたままだ。

どうしても寝られない子は、お部屋から出て、お外のおそうじをしなければならない。
ボクはいつも寝られない。いつもおそうじをしなくちゃいけない。
おそうじがイヤなんじゃないけど、みんなと一緒に眠りたいと思う。

今日も、やっぱり眠くならない。
寂しい気持ちでお外に出る。
いつも眠らない子っていうのは、大体決まっている。
時々、たまたま寝られなかった子も混じることもあるけれど、滅多になかった。

「アキラ」
お外に出ると、声をかけられた。
てつおくんだ。
てつおくんも、ボクと同じで毎日寝ないんだ。
「おひるねなんて赤ちゃんがするもんだぜ。俺は来年小学校だからおひるねなんてしねーの」
おそうじの時、てつおくんはそう言っていた。
「今日も失敗か」
ボクはてつおくんにどうしたら眠ることが出来るか、というものを教えてもらっていた。
てつおくんはいろんなことを知っていて、いろんなことを教えてくれた。
眠くない時に眠る方法も教えてくれた。
それを試してみたりもしてきたんだけど、どれを試しても眠くならなかった。
昨日、てつおくんが新しく教えてくれた、
「数字を数える」
って方法を試してみたんだけど、全然眠れなかった。
「うん。だめだった。頑張って数えたんだけど」
「いくつまで数えた?」
「えっと…」
10くらいまでならすらすらと数えることが出来た。
でもその後になると、今(頭の中で)言った数字を忘れそうになったり、次の数字がわからなくなったりして、とっても大変だった。
一生懸命数えて、50までいった。
51、って言った時、もう眠ることが出来ないというのがわかったので、諦めて外に出た。
「51まで数えたよ」
「途中でわからなくなったりしたか?」
ボクは首を横に振った。
「間違えないように頑張った」
そう言うと、てつおくんは小さく「あちゃ〜」と言って、手を頭にもっていった。
「あのな、何も考えないで数を数えるんだよ。集中したら眠くなるわけないだろぉ?」
「…何も考えないで数をかぞえられるの?」
てつおくんは困ったような顔をしてまた新しいネタ持ってくるからとだけ言った。
さい先生が今日はここを掃除しましょう、とボクたちを誘導してくれる。
てつおくんと一緒にお掃除を始めた。

「ボク、どうして眠れないのかな」
おうちで、夜にならすぐに眠れる。
それなのに、保育園では絶対に眠れない。
てつおくんはうーんと唸って考えてくれた。
「俺は寝れなくてもいいと思うけどな」
いいかもしれないけれど、ヒカルくんと寝てみたいんだ…
「アキラは緊張してんじゃないのか?」
「きんちょう…?」
「眠くてもさ、いざ寝よう!って思ったら眠気が吹っ飛んじゃったりしないか?」
「…しない」
そう言うと、てつおくんは「あ、そ」と素っ気無い返事を返した。
「とにかくアキラは無意識に意識してるんだよ。あ?何かよくわかんなくなったな」
てつおくんは頭をぽりぽりと掻くと、ボクに指を指した。
「寝るときは何も考えるな。何も思い出すな。忘れろ。そしたら眠れる」
てつおくんは最後に一呼吸置いて小さく「はず」と付け足した。

「え?眠る方法??」
ボクはヒカルくんに聞いてみた。
よく考えれば、眠っていないてつおくんより、
いつも気持ちよさそうに寝ているヒカルくんの方が、眠る方法がわかるんじゃないかと思ったからだ。
「…アキラくんは眠れないの?」
「…うん」
そう言うと、ヒカルくんは大きな目をさらに大きくして訊ねてきた。
「じゃあお昼寝の時間は何してるの?」
「お外のお掃除とか…」
うえぇっ。ヒカルくんはイヤそうな顔をしてボクを見た。
「そうだったんだ。じゃあ、明日はオレがアキラくんを眠らせてあげるよ」
にっこりそう言うヒカルくんを見て、ボクは嬉しくなった。
きっと何か眠る方法があるんだっ!

次の日のお昼寝の時間、ヒカルくんがにっこりと微笑んで小声で囁いた。
「さい先生にないしょにだよ?」
ボクがこくこくと頷くと、ヒカルくんはにーっと笑ってもう一度、囁いた。
「目つぶって、寝たふりしてね」
「えっ?!」
ボクは驚いて少し大きな声を上げてしまった。
「しーっ、しーっ」
ヒカルくんが口に指を持ってきて慌ててそう囁いた。
ボクが慌てて先生を見てみると、先生はボクらには気がついていないみたいだった。
「大丈夫、その後、ちょっと作戦があるんだ。ちゃんと寝られるからさ」
ヒカルくんは自信たっぷりに言う。
「でも…」
目をつぶっただけで、寝ているみたいに見えるのかなぁ…?
ヒカルくんにそう聞いてみたら、「動かなければ大丈夫だ」と言われた。
「でも、…もし見つかったら、怒られないかな…」
ヒカルくんは一瞬考えたようだが、さい先生を見て、にこっと笑った。
「さい先生は怒らないよ」
…そうだ、さい先生は怒ったりしなかった。
「さぁ、皆さん、お昼寝の時間ですよ。電気消しますよ〜」
ボクはヒカルくんの隣のお布団に入って目を瞑った。
ドキドキする…。これで眠ってるように見えるかなぁ…
緊張して手をぎゅうっと握り締めた。
そこにちょんちょんっと触れる何かがあった。
ボクはびくっと反応してしまって、慌てた。でもそれはヒカルくんだった。
「アキラくん、手ぇつなご」
そっと目を開けるとヒカルくんがにこにこ笑って手を出してた。
ヒカルくんの手にボクの手を伸ばすと、ヒカルくんがぎゅっと握り締めてくれた。
ヒカルくんはにこっと笑うと目を閉じた。
それに習ってボクもゆっくり目を閉じた。
人が動く気配がする。さい先生だ。こっちに近づいてくる。
ドキドキドキドキ…
さい先生がボクの近くで足を止めた。
「…アキラくん…?」 さい先生がボクを呼んだ。
体中が緊張して強張った。何も考えられなくて、目を開けそうになった。
その時、ヒカルくんの手が微かにボクの手をぎゅっと握った。
暖かい手が「大丈夫だよ」って言ってくれたみたいな気がした。
ボクは落ち着いて、目を瞑っていた。
ふっと、さい先生が笑った気がした。そのまま人の気配は遠ざかってドアが開く音、閉まる音がした。
ほっとして、体から力が抜けた。
ゆっくり目を開けて周りを見てみた。皆眠っていて、さい先生もいなかった。
少し、悪いことしちゃったな、と思った。だって嘘をついちゃったんだもん。
ヒカルくんを見ると、まだ目を瞑っている。
もしかして寝ちゃった?!
手を少し引っ張ってみると、ヒカルくんがぱちっと目を開けた。
ヒカルくんはボクと同じように目をきょろきょろさせて周りを見た。
おかしくってボクが少し笑うと、ヒカルくんは首を傾げた。
ヒカルくんが手招きしたので、お布団の中で少しずつヒカルくんの方に移動した。
ヒカルくんも同じようにごそごそとボクに近づいてくる。
ぴたっとボクらが引っ付いた時、ヒカルくんが小声で囁いた。
「アキラくんの上にかけるお布団と枕、引っ張ってきて、オレのお布団のとこに持ってきて」
ヒカルくんはむくっと起き上がって自分の布団をごそごそと整え始めた。
ボクは起き上がってもいいのに、何故か姿勢を低くしてお布団と枕を引っ張った。
それを持っていくと、ヒカルくんはそれを使ってごそごそと何かをしている。
すると、ヒカルくんの向こうで人影が起き上がった。あかりちゃんだ。
「ヒカル…?何してるの?アキラくんも…」
あかりちゃんが眠そうにそう聞いてきた。
ヒカルくんはあかりちゃんに向かって「おまえも枕と布団」と手を差し出した。
「? 何するの?」
「ヒミツ基地♪」
あかりちゃんはその答えでぴんときたようで、素早く自分のお布団と枕を渡す。
「でも、ヒカルできるの?」
「今やってるだろ」
とにかくヒカルくんは5分ほどごそごそと布団を使って何かしていた。
あかりちゃんもそれを手伝う。
ボクは何が出来るのかわからないので手伝えない。
「ちょっと上手く出来なかったけど、これでどうだ」
出来上がったのは、お布団の…山?
「ほら、アキラっ」
ヒカルくんは興奮しながらボクを手招きする。布団をぺらっとめくると、枕を壁にした小さな空間があった。
「入ろ」
ヒカルくんはにっこり笑って言った。
「ほら、あかりも」
ヒカルくんはあかりちゃんと促した。あかりちゃんはそこに縮こまって入った。
中から声が聞こえた。
「枕じゃ狭いよぉ」
「文句言うなよ。だって他にないんだ」
あかりちゃんがごそごそやっているのと違うごそごそという音が聞こえてびくっとしてしまった。
振り返ると、ボクの隣で眠っていたゆうきくんが目を擦ってこっちを見ていた。
「…何してんだ、おまえら」
眠たそうな声でゆうきくんは言った。
ヒカルくんはにこっと笑ってゆうきくんも手招きする。
「ゆうきも来いよ」
ゆうきくんは眠そうにずりずりと這ってきた。今にも眠ってしまいそうだ。
「はい、アキラくん、入って」
ボクは促されて、あかりちゃんがしたようにごそごそと入った。
中は真っ暗だった。
隣にあかりちゃんの気配がある。
「アキラくん?」
「うん」
「懐中電灯あるといいのに」
「そうだね」
あかりちゃんと話していると、ヒカルくんとゆうきくんが入ってきた。
「アキラ、あかり、もっとつめろよ」
「無理だよ。崩れちゃうもん」
「んなの気をつけてつめるんだよ」
「だから無理だってばぁ」
ヒカルくんとあかりちゃんがそんな会話をしてる後ろでゆうきくんがぼそっと呟いた。
「もう崩れかけてるけどな」
ヒカルくんがそれに反応した。
「おいゆうき!壊すなよ。オレのクシンノサクなんだからな」
「壊してねぇよ。勝手に壊れてくんだから」
「ねぇ、静かにしないとさい先生に見つかっちゃうよ」
あかりちゃんの一声で小さな子供のお城の中はしんと静まりかえった。
暫くしんとしたまま時間がたった。ふと、ヒカルくんがふふふっと笑った。
それに、あかりちゃんもゆうきくんも。ボクもなんだかおかしくて笑った。

それからヒカルくんが作ってくれた「お布団のヒミツ基地」で暫くおしゃべりをしていた。
もちろん、小声でひそひそと。
ボクが寝られるようにヒミツ基地を作ったことや、あかりちゃんのいとこのお兄ちゃんがこれを作ってくれた時のこと。
ヒカルくんとあかりちゃんはこれでぐっすりと眠ったこと。ボクが寝ていない時のことも話した。
真っ暗だし、足も伸ばせないし、縮こまってなくちゃいけないけど、それでも楽しかった。
隣にあるぬくもりに安心出来て、話している間に何だか眠くなった。
「あれ?ゆうき??」
ヒカルくんがゆうきくんに話しかけてもゆうきくんは返事をしなかった。
眠ってしまったみたいだ。元々眠そうにしていたもんね。
「じゃあ私達も寝ようよ。うるさくしたらゆうきくん、眠れないもの」
「そうだな、オレも眠いや。アキラくんは?眠れそう?」
「…うん」
「おやすみなさい」
あかりちゃんがそう言った。
ボクも眠ろうと目を瞑った。そうしたら急に眠気がなくなってしまった。
おかしいな、さっきは眠いと思ったのに。
目を開けても真っ暗だから、目を開けておくことにした。
暫くして、あかりちゃんの寝息らしきものが聞こえた。
そういえば、ヒカルくんは…?
「…ヒ」
呼ぼうとしてやめた。眠ってたら起こしちゃうから。
「アキラくん?まだ寝てなかったんだ?」
それでも返事は帰ってきた。眠ってなかったのはボクだけじゃなかったみだいだ。
「ヒカルくんは?」
「アキラくんが寝たら寝るよ」
「……」
「やっぱり寝れない?」
「…さっきは眠かったんだけど…」
「手ぇ、つなごっか」
暗闇でヒカルくんの手がボクの手を探し出した。
気配を追って、ボクはヒカルくんの手触れる。
ヒカルくんはさっきみたいにぎゅうっとボクの手を握った。
暫くそうしてたら、段々眠くなってきた。
ふぁっとボクがあくびをすると、その気配がヒカルくんに伝わったみたいで、ヒカルくんがくすっと笑った。
「おやすみ」
ヒカルくんがそう言ったので、ボクも返した。
「おやすみ…」

 

 

 

 

「ええっ?!あいつ寝たの?!」
「ええ」
てつおくんはあまりに驚いたのか、口をあんぐりと開けて私を見上げた。
その仕草がかわいくて、私が微笑んだら、てつおくんは慌てて口を閉じた。
「ふぅん。よく眠れたな」
「ええ、私も驚きました」
私はアキラくんがてつおくんに眠る方法を聞いているのを聞いていたので、アキラくんがお昼寝の時間に眠りたがっているのを知っていた。
てつおくんは少し笑った。
「まぁいいけど。あいつが寝れたなら」
そう言って、掃除場所に向かう。
少し寂しそうにも見えたけれど、きっとアキラくんが眠れたことの方が嬉しいんでしょう。
てつおくんは優しいですね。

お昼寝の時間が終わる頃、私が部屋に戻ると、一瞬違和感があった。
部屋を見回そうとしてぎょっとした。
アキラくんやヒカルくんの眠っていた辺りに布団の山があったから。
そこから足が2本出ている。
…もしかして…
そっと近づいて、そぉっと布団を捲ってみた。
そこにはヒカルくん、アキラくん、ゆうきくん、あかりちゃんの4人が眠っていた。
「…まぁぁ…」
何をやってたんでしょう、この4人は。
私は苦笑した。
ヒカルくんとアキラくんは手を繋いで眠っていた。
ゆうきくんは正座をした状態を崩したような体勢でうつ伏せに寝ていた。首が痛くなりそうな姿勢だ。
私がそっとゆうきくんの体勢を変えた。起きる気配もなく、楽な体勢にしてあげることが出来た。
やれやれ、何を思ってこんなものを作ったんでしょうねぇ
アキラくんが、眠れなかったのかな。それでこんなこと?
私は4人を見つめた。
4人はすやすやと本当に気持ちよさそうに眠っていた。
「今日だけ、特別ですからね」
明日は駄目ですよ?

私の忠告を夢見心地で聞いていたのか、それとも起きた後の忠告が効いたのか、
次の日からはヒカルくんたちはあの山を作りはしなかった。
でも4人は手を繋いで眠っていた。
それから段々、「手を繋いで眠る」ことがブームになって、部屋中、手を繋いで眠る子たちで溢れかえった。
少し寝相が悪い子なんかは手が離れてしまうけれど、アキラくんはずっと手を繋いだままだった。
きっと、手を繋いだ方が、安心出来るんですね。
眠れてよかったですね、アキラくん

 

 

後編はさい先生視点です。…わかり、ますよね?
友人の話では眠れない人は掃除だと聞きました。いろいろあるんだなぁ。掃除なんてヤだよ…;;
私は眠れなかったとかいう経験がないのでよくわかりませんが、(幼稚園だったし。もう忘れてるし)
きっかけがあれば眠れるようになりませんか?ならないかなぁ…??
そこんとこはツッこまないで下さい。もう気にしないことにしました。キリがないわ(根性なし)

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さい先生にこってり(?)絞られた後の4人

「怒られちゃったね」
「でもアキラくん、眠れたんだぜ?すごい収穫だろ。な、アキラくん」
「うん。ヒカルくんありがとう。あかりちゃんもゆうきくんも」
「ヒカルがヒミツ基地作ったからよね」
「俺、一番に寝てたんだ…。覚えてねぇ」
「ゆうき、速攻で寝てたよな」
「眠いトコをおまえに起こされてあそこに入ったから、おまえのせいだな」
「何でオレのせいなんだよー」
「はい、みなさん、お部屋に戻って下さいよ?ここは廊下ですからね?」
「「「「はーい」」」」

で、手繋ぎブームがやってくる、と。
次のお題が半分入ってしまって困った;;
ブームを使う、か…