昨日、すごく雨が降った。
ザーザーとうるさいくらいたくさん降った。
外で遊べなくてちょっと残念だった。でも今日はすごくいい天気。
ボクの好きなお日様がキラキラ光ってた。
保育園に行ったら、まだ運動場はぐちょぐちょしていた。
これじゃぁ遊べないだろうなぁと思った。
残念。今日もお外で遊べない。
ぐちょぐちょした運動場を歩いて思った。くつが汚れちゃうから気をつけよう。ヒカルくんが保育園にやってきて、お部屋にいたボクを外に誘った。
「でもそとはぐちょぐちょだよ?」
ボクがそう言うとヒカルくんは笑った。
「ほら」
ヒカルくんが自分の足元を指差した。
「あ、ながぐつ」
「だから大丈夫」
ヒカルくんはそう言ってにっこりと笑った。
「でも、ボクは」
ながぐつじゃないんだよ、と言おうとしたのにヒカルくんは聞いてくれなかった。
ボクの手を引っ張って外に飛び出した。
「うわわっ」
ボクはヒカルくんに引っ張られるから足元に注意しててもすべりそうで怖い。
「ヒカルくんっ」
「なに?」
ヒカルくんは止まって振り返った。
「引っ張らないで。ころんだらどろだらけになっちゃうよ」
「ああ、そっか」
ヒカルくんは走るのを止めてくれた。
「あ!みずたまり!」
ヒカルくんは嬉しそうにみずたまりの方に駆けて行った。
「ヒカルくん、危ないよっ」
ボクはころばないように気をつけて急いだ。
ヒカルくんはみずたまりをじーっと見つめてた。
「どうしたの?」
ヒカルくんはボクをみて、にまぁっと笑った。
「なに?」
「へへへ〜」
ヒカルくんは楽しそうに笑うと、みずたまりの中にえいっと足を突っ込んだ。
「あ、ヒカルくん」
なにするの?って聞こうとしたら、ヒカルくんはまたそれを聞いてくれなかった。
ヒカルくんは楽しそうに一歩ずつ足をみずたまりの中に入れた。
ヒカルくんはながぐつだから大丈夫だけど、ボクは普通のくつだから入れない。
ボクはみずたまりの外に取り残された。
「へへ〜」
ヒカルくんはものすごく楽しそうにじゃぶじゃぶとみずたまりの中を歩く。
「ヒカルくん、危ないよ」
「危なくないよ〜」
ヒカルくんはばしゃばしゃと水を蹴った。
ボクの方にもどろ水が飛んできたから慌ててよけた。
「ヒカルくんっ、水飛ばさないでっ」
「あ、ごめん〜」
ヒカルくんはみずたまりの中で謝った。
止める気はないみたいだ。
もうっ
少したってもヒカルくんはまだみずたまりで遊んでる。
「ヒカルくん、お部屋行こうよ」
「ヤダ〜」
「ボク、お部屋行くよ?」
「え〜」
ヒカルくんは楽しいかもしれないけどボクは見てるだけだもん。
つまらない!
「ヒカルくん、ボク先にお部屋に行くね」
ボクがみずたまりから離れたらヒカルくんが慌ててみずたまりから出てきた。
「待ってよ、アキラくんっ」
ボクが振り向こうとしたらどんって後ろから押された。
気がついたらボクはころんでいた。
それに何だか重い。
「いてて〜」
ヒカルくんがボクの上に乗ってるんだ。
ヒカルくんがどけてくれるとボクも立ち上がった。
「あ…」
ボクの服はどろだらけだった。
手もどろだらけ。砂遊びの時よりいっぱい汚れてる。
「あ〜」
振り向くとヒカルくんも同じようにどろだらけだった。
ボクはもう一度自分の服を見た。
服も、それからくつも、どろだらけだった。
気に入ってた星のくつがどろんこだった。
「あ〜ぁ、お母さんに怒られちゃうかも…」
ヒカルくんがそう呟いた。
「っ…」
ボクは泣きそうだった。
このくつ気に入ってたのに。
ころばないように気をつけてたのに…
「アキラくん?」
ヒカルくんが俯いてたボクを覗き込んだ。
「っ!あの、アキラくん、ごめんねっ?どこか痛くない?」
ヒカルくんはボクが泣きそうになっているのに気がついたみたいだ。
ボクは泣くのをガマンした。
大丈夫だもん。
ボクはヒカルくんに頷いた。
「アキラくん、大丈夫だよ、あのね、着替えあるもん、ね?」
「うん…」
「ごめんね?怒ってる?」
「ううん。大丈夫だよ…」
そう言うとヒカルくんは安心したみたい。
それからボクの顔を見て言った。
「アキラくん、ほっぺにどろんこついてるよ」
ヒカルくんがボクのほっぺに手を伸ばしてヒカルくんは止めた。
「オレの手もどろだらけだ」
「ボクもだよ」
ボクは手をヒカルくんに見せた。
「あははっ」
「ヒカルくんがこけるからだよぉ」
「ごめん〜」
ヒカルくんはどろだらけも楽しかったみたい。
ヒカルくんは遊具まで走っていった。
「ヒカルくん、また走ると危ないよっ」
ボクはヒカルくんを追いかけた。
ヒカルくんは遊具にぺたんと手を引っ付けていた。
「なにしてるの??」
ボクが聞くと、ヒカルくんはまたにまぁっと笑って、ゆっくりと手を離した。
そこにはヒカルくんの手形がぺったりと引っ付いていた。
「わぁ」
「へへ〜」
ヒカルくんは楽しそうにぺたぺた遊具をさわっていく。
「ヒカルくん、こんなに汚したら怒られるよ?」
「大丈夫だよ〜」
ヒカルくんは片っ端からぺたぺたと手形を残した。
すごく楽しそう。なんだかボクもやってみたくなってくる。
最後には手のどろんこがなくなったみたい。
もう手形がつけられないようになると、ヒカルくんはボクの手をじっと見た。
「アキラくんもやれば?」
「ダメだよ」
「ダメじゃないって!ほら」
ヒカルくんはボクの手を引っ張って、ヒカルくんの手形の横にぺたんとボクの手を押し付けた。
「あっ」
「大丈夫だよ!」
ヒカルくんが手を離してくれたので、そぉっと手を離すとやっぱりボクの手形が残っていた。
「あー…、ヒカルくんっ」
ボクが怒ろうと思ってヒカルくんを振り返るとさい先生がヒカルくんの後ろに立っていた。
先生はしーって仕草をした。
ボクが慌てて黙ると、ヒカルくんは首を傾げた。
「アキラくん?」
「ヒカルくんっ」
先生はヒカルくんを抱き上げた。
「わっ、先生かぁ…びっくりしたぁ」
先生はヒカルくんをおろすして言った。
「何がびっくりしたですか。こっちの方が驚きましたよ」
「??」
ヒカルくんは首を傾げた。
ボクはすぐにわかった。
どろんこの服のことを言ってるんだ。
「二人してそんなどろどろになって…、転んだんですか?」
「あっ」
ヒカルくんは慌ててどろんこを隠そうとしたけど、いっぱい汚れちゃってるからそんなこと出来ない。
「それに…」
先生が遊具を見た。
わ、やっぱり怒られるんだと思った。
汚しちゃったんだもん。
「あのね、先生、オレがアキラくん押しちゃってね、アキラくんは悪くないんだよ」
ヒカルくんが一生懸命そう言ってくれた。
さい先生は笑ってヒカルくんの頭を撫でた。
「さぁ、着替えましょう。風邪を引かない内に」
先生はボクとヒカルくんをお部屋に行くように言う。
「あのっ、先生」
ボクはなんだか気になって先生を見上げた。
「なんですか?」
先生はいつもと同じように笑ってた。
ボクが先生の所に走って行って呼んだ時と一緒。
どうして怒らないんだろう。
「怒らないの…?」
先生が驚いた顔をして、それから笑った。
「それは後にしましょう。着替えが先ですからね」
僕らが着替えているとさい先生はハンカチをぬらしてきた。
「アキラくん、ほっぺたにどろが少しついてますよ。じっとしてて下さいね」
先生はそっとボクのほっぺたをハンカチで拭いてくれた。
何だか恥ずかしい。
お部屋に置いてあった洋服に着替えると、先生はにっこりと笑った。
「さてと、こっちも綺麗にしておきましょう」
先生はぞうきんを持ってきてボクのくつをきれいに拭いてくれた。
「先生…、ありがとうございます」
「どうしたしまして。ヒカルくんのも上の方だけ拭いておきますね」
着替えの遅かったヒカルくんは着替えながら「ありがとー」と大きな声で言った。
「さぁ、じゃあお待ちかねのお仕置きタイムと行きましょうか?」
先生は笑った。
「えっ」
ヒカルくんは慌てて駆け寄ってくる。
ボクは先生を見た。
にっこり笑ってる。怒られるみたいじゃないみたいだ。
先生は笑って僕らの頭を撫でて言った。
「2人とも、運動場がどろどろの時は外に出てはいけません。ころんでしまいますからね。もう今日でわかったでしょう?それから、遊具はみんなのものですから勝手に汚したりしてはいけません」
ボクとヒカルくんは頷いた。
「でもね、先生、あのね、あのね、アキラくんはお部屋にいたんだよ。オレが行こって言ったんだよ。それにころんだのもオレでね、アキラくんにぶつかっちゃったの。あとね、遊具にぺたぺたしたのはオレだし」
ヒカルくんは一生懸命説明してくれようとした。
先生はにこにこ笑って頷いた。
「わかりました。じゃあ2人とももう気をつけることが出来ますね?」
「「はい」」
先生は立ち上がった。
「じゃあちょっとあのヒカルくんの手形、見に行ってみましょうか」
先生はヒカルくんがしたみたいににまっと笑った。
「えっ、いいのっ?」
ヒカルくんは嬉しそうに飛び上がった。
ヒカルくんは先生の返事を聞くまえにながぐつをはいてボクを手招きした。
「早く行こっ」
ボクが先生を見ると、先生は笑って「行きませんか?」と聞いてくれた。
「――行くっ!」
手形のついた遊具の前まで転ばないように先生と手を繋いで歩いた。
先生の右をボクが、左をヒカルくんが。
何だかこれも恥ずかしい。
お父さんとはよく手を繋ぐのに…。
ヒカルくんと繋いでもそんなこと思わないのになぁ…
遊具の前までくるとヒカルくんの手形が乾いてかさかさになってた。
「こう見るとすごいですねぇ…。こう、写真に収めたくなりますね」
先生はくすくすと笑った。
「ホント?」
ヒカルくんは嬉しそうに先生を見上げた。
「そうですね、子供の芸術ってこういうものなんでしょうねぇ」
「写真とる???」
ヒカルくんは期待して言った。
「あのね、これ。これがね」
ヒカルくんはひとつの手形を指差した。
「これがアキラくんのなんだよ。オレがむりやりぺたんってしちゃったやつ」
「これ?」
ボクは聞いた。
自分の手形がどれだかわからなかった。だってヒカルくんの手形がいっぱいあるんだもん。
「これだよ!」
ヒカルくんは自信満々に答えてくれた。
「だからね、せんせい、とるならねぇ、オレとアキラくんの手形がね、真ん中にくるようにね、ここを中心にしてとってね」
ヒカルくんはとってほしい場所を先生に必死に説明した。
先生はとても嬉しそうに、でもおかしそうに笑った。
「ええ、そうですね。そうしましょう」
先生はくすくすと笑って、笑うことを止められないみたい。
「ええ、きっと楽しい写真になりますよ。さて、戻りましょう」
僕らは来たときと同じように手を繋いでお部屋に戻った。先生があの手形を写真にとったかはボクは知らない。
こけるところぶ。どっちが標準語なのか…
私は前者をよく使うんですが…。ここではころぶにした(はず)
子供は汚すのが仕事かもしれない(笑)
アキラがヒカルに巻き込まれるのはどこの世界でも同じなんじゃないだろうか(もう運命だね)