今日のために俺は綿密な計画を立てた。
なんたって、年に一度のお祭り、だからな
まぁ、ここを読むのは大半が人間だろうから(んあ?全員?けっ)説明してやる。
俺様は人間じゃねぇ。人間の言葉で言ったら吸血鬼だ。
あぁ?ここはヒカアキの世界だぁ??何言ってやがる。ここは俺様の世界だ!…一日かぎりだがな。
ハロウィンは俺たち(っても俺に仲間なんていやしねぇが)にとってはお祭りなんだ。
なんたって、年に一回の封印がとけて食事にありつける特別な日だからな。
あ?なんで今日かって?んなの知るか。ちょいと間違いが起きて吸血鬼が出ても人間にハロウィンの企画だと誤魔化せるからじゃね〜か??よくは知らねぇ。俺様は学校なんか行かなかったからなっ。あ?俺の話なんかどうでもいいからヒカアキを出せだって?
んだよ、そのヒカアキってのはよ。文句があるなら出てけってんだ。
まぁ、話が進まないのもつまんねぇし、続けるけどよ。とにかく吸血鬼(封印組み)にとっては最高の日だってことだ。
それでもって、3日間に及ぶ下調べの結果、今年の俺の餌は「搭矢アキラ」って言う人間に決定したわけだ。あ?殺すのかって?んなわけねぇだろ。おまえ普通に考えろよ。いっきなりミイラ化した死体が出たってニュースが流れてみろ、俺の仕業だってすぐにバレるじゃねぇか。後10000年は封印組みから抜け出せなくなるだろ。
吸血鬼を含む「魔物」と呼ばれるものたちにだってルールはあるんだ。
それを破ろうものなら…まぁざっと見て1000年から10000年は封印組みだ。10000年なんていくら魔物でも死ぬってんだよ!(まぁ時々種類によっては生きられるのもいるけどな…。俺には無理だ)
とにかくそんなこんなで、ルールはこれ以上は破れない。俺なんかもうすぐ解放だからな。
餌って言ってもちょこーっと血を貰うだけだ。ほんのちょこーーっとだぜ?貧血かな?ってくらいのもんだ。
昔はよかったぜ〜。人一人分の血を飲んだって罰せられなかったんだからよ〜。変われば変わるもんだ。あ?封印組みって何か?ああ…まぁ、人間で言う刑務所?だったか?行きってこったな。
ルールを破ればそりゃその分自分に返ってくるってわけ。それは人間の世界も同じだろ。っと、こうしてる場合じゃなかった。
あと五分でハロウィンだ。
やっと体を動かせる。体が鈍ってねぇといいけどな。
さぁ、ハロウィンパーティーの始まりだ。
まぁとりあえず無難な女に変身しとくか。(言っておくが吸血鬼は変身が出来るんだ)
それで、今日一日眠っててもらわなきゃいけないやつのところへ向かう。
俺の餌の恋人、「進藤ヒカル」とか言うやつだ。
何故眠っててもらわなきゃいけねぇかって?そりゃ俺がその「進藤ヒカル」ってヤツになりすまして「搭矢アキラ」に会いに行くからに決まってるだろ。同じ人物がいたらおかしいことになっちまうから眠っててもらうのさ。さてと…どうやってその進藤とか言うやつになるかだな…
…酒でも飲んでてくれたらいいのにな…寝てるのでもいいんだが…
進藤の住んでいるマンションの部屋の前に立って、俺は唸った。
何故かって言うと…進藤の部屋から人の気配がする。物音も…
先に言っておくが、俺は人間よりはるかに耳がいい。
進藤は起きているようだ。でも一人。
これはちょうどいいのか悪いのか…考えてる暇はあんまりなかった。
俺には一日しかねぇ。今日でどれだけ食事が出来るか、それが一番大事なことだからな。
しかたない。
ピンポーン
かなり危険だけどこれしかない。
「誰?搭矢?」
ドア越しに聞こえる声は小さく、きっと人間では聞き取れなかったと思う。
さてと…どうするか……
がちゃ
ドアが開いてあの人間が出てきた。
俺は即そいつを部屋に押し入れて自分も部屋に入る。さっさと鍵をかけちまえば俺の勝ちだ。
カチッ
「なっ、お、おまえ誰っ?!」
「やだぁ、進藤くん忘れちゃったの?」
「は?」
混乱しているコイツににっこりと微笑みかけると、油断してぽかんとしているコイツを押し倒して俺はにんまりと笑った。
「だ、れだ、おまえ」
「んー?吸血鬼かなぁ?」
出来るだけ女らしくかわい〜く言って笑ってやる。
進藤は混乱からか俺をじっと見ているだけだ。逃げようともしない。
暫くしていきなり進藤が力を入れて逃げ出そうとした。俺はそれをなんなく制して少し微笑みかけてやった。
「おまえ、女…?」
進藤は俺の力から女じゃないと判断しているらしい。なかなか観察力がいいみたいだな。
俺は進藤を組み敷いて腕を拘束していた。
コイツはめいいっぱい力を入れて俺から逃れようとしているけれど、俺の力に叶うはずがない。
「面倒だからじっとしててね」
俺は進藤の両腕を片手であっさりと動きを止めて、空いた手で顔を固定する。
「すぐ済むから」
進藤は恐怖よりも混乱の色を見せていた。
うんうん、俺好みの顔。
そっと顔を近づけて、今日始めての食事にありつく。
「っ?!んっ?!」
進藤のキスの味は混乱がよく染みてる。
うん。なかなかいい味。
「ん〜〜〜っっ?!」
チッ、結構冷静だな。もうイヤだって感情が染みてきた。
俺は一気にキスを喰うとさっさと進藤を解放してやった。
「ちぇっ、初めはうまかったのに。それに俺一気は好きじゃねぇんだよなぁ」
それはただの独り言だ。
進藤は眠っているから。
キスを喰う時に眠らせる。これ吸血鬼のじょーしき。
さてと、こっからがあんまり好きじゃねぇ作業なんだよなぁ
もう一度コイツにキスしなきゃなんねぇんだから。
俺は眠っているコイツにゆっくりとキスをする。今度は意識がない分、楽に作業が出来るけど
けど、…味がねぇんだよ。
上手さもまずさもあったもんじゃねぇ。これほどツマラナイ作業はない。
でもこれをやらないと後々ごちそうにありつけなくなるからやるしかないのだ。
コイツの記憶がないと、搭矢とうまく話が合わないからな。
キスで記憶を貰う、これも吸血鬼のじょーしき。
これに時間を取られるからこんな真夜中から活動しなきゃなんねぇんだよ。
にしても…
こいつらの記憶長いな…。それになかなか面白い。
ついでに恋人前も取っとくか。
おっし。ぷはっ
「…やべ、喰いすぎた…」
味がないのに腹に入るってのが一番やなとこだな。
さっさと進藤ヒカルに変身する。
「ん〜、やっぱ男の体の方がしっくりくるな〜」
俺は進藤をよっこらせとベッドに寝かせると、とりあえずそのへんにあったタオルで手足を縛って口も塞いでおく。
それからクローゼットを開けてみる。ラッキー♪
進藤をそこへ押し込むとぱたんと閉めて、これでよし。いつもやる俺の作業の一つ。
後は…
風呂場にいって鏡で自分の姿をチェック。
昔一度だけほくろがなくて正体がバレたことがあった。それからはチェックを怠らないように気をつけている。
鏡を覗き込んで笑ってみたりする。
よしよし、変な所はない。ばっちり。
「あー、とーや」
声も大丈夫みたいだな。
「へへ〜、完璧完璧」
後は記憶チェックして、こいつの仕草や言葉使いをマスターすればOKってワケだ。
これにも結構時間がかかるんだ。まったく面倒ったらありゃしないぜ。
「あーっ、もうっ!」
こいつらなんだ!ガキの頃からだからチェックに時間はかかるし。
何よりこれだけの付き合いだ。バレる可能性が高いじゃねぇか!
大丈夫だとは思う。だけど今までこんだけの付き合いのヤツらにぶつかったことがなかっただけに…
今までは楽だったんだよな。カップルなりたてのヤツらばかり狙ってたから…。
多少ボロが出ても「こんな一面が」くらいで済んだ。
なにより出来たての方が上手いんだ、キスの味は。
人間の食べ物と同じだな。熱い内に喰え。
今回は、まぁ、いつもの味に飽きたから趣旨を変えてみたんだが…
変えすぎたかもしれない。
これで食事にありつけなかったら俺は自分を呪う…;
でもあの搭矢ってヤツのオーラに惹かれるものがあったんだよな…
…上手くいかなかったらいつもより血を頂くか…
今更変えられないし。つかもう昼だし…しかたねぇ!行くか!
「なんたって久しぶりのデートだからなっ」
俺にとってもコイツらにとっても。
ぴんぽーん。
あー、この瞬間がすっげー楽しいんだよなー。わくわくする。どうやって喰おうか。どうやって驚かせようか。
「はい。…進藤」
「よ!」
「遅かったな」
「ごめん!悪かった」
「いいよ。君はいつものことだしね」
搭矢は苦笑した。それから少し笑って「どうぞ」と俺を招き入れた。
うーん、近づくとあのオーラが心地いい。
はー、腹減ってきたかも。
「キミが遅れてきたせいで映画の時間に合わないな」
「うー…ごめん」
「次のにしようか。それまで少し時間があるな…。一局打つか?」
「え?!」
ヤベ、こういう頭使うモンって俺嫌いなんだよ!(いや、進藤の記憶やらで打ち方はわかるんだけどさ)
「今日はいいじゃん。折角のデートだし」
「折角の休みだから打ちたいんだけど」
「んー」
俺は考えるフリをして搭矢をぐいっと引き寄せた。
いっただっきまーす。
「っん」
う?!ん?!!!!!
わぁーーーーーっ;;;;;
ぷはっ
「っ…;う」
「…いきなり何するんだっ」
ばしっ
「っい…ってぇ…」
何だこの味?!
マズイつかウマイつか…ヤヤコシイ味でわけわかんねぇ。
人間のために説明するとキスって言うのは人の食いモンと同じで味があって、吸血鬼にも好みとかがあって。
とにかくコイツのキスの味はマジで変な味!すっぱいのか甘いのか辛いのか苦いのか、う;混乱する。
何か知らんがこの味には耐えられない。
ってことは俺、今日餌にありつけない?!
「搭矢ぁ」
俺はがばぁっと搭矢にしがみ付いた。
「なっ、何だ?!」
「わぁ〜、ひでぇよ〜。そんなのねーだろぉ〜。俺の久しぶりの餌がぁ〜〜〜」
俺はマジで焦った。パニック状態だ。搭矢に詰め寄って涙声で訴えた。
だって…ちょーっと言いづらいが去年、餌にありつけなかったんだ。
何で?何でって…何でって……寝坊したんだよ!悪いか!
今年は気合入れてたのにっ!
なぁ!俺は今年もおあずけか?!そんなのね〜だろぉ〜〜〜〜
マジ泣きそうだよ
「何そんな大げさに…」
大げさじゃないんです。マジです。搭矢〜〜
ふうっと搭矢がため息をついた。
「進藤、今日はどうしたんだ?変だぞ?」
ぎく
「…んなことねぇよ。…久しぶりに会えたから嬉しかっただけ」
でも久しぶりの餌がすごい味で泣きそうなんだ。
「…そうか。うん、ボクも」
そう言って搭矢はそっと俺の頬を撫でると触れるだけのキスをした。
喰う暇もないくらいの短いキスだったけど…
甘かった…ような…
ビックリ眼の俺に搭矢はにっこりと笑った。
あ、この顔…
俺がコイツを餌に決めたのはこの顔に惹かれたからだ。
搭矢のこの顔とオーラが、俺を呼んだ気がした。
って、そんなわけないんだが、とにかく気に入ったんだ。
「進藤?」
「え?あ、何?」
「だから、早いけどもう行こうかと言ってるんだ」
「ああ…。うん、行くか…」
オレの気のない返事に搭矢は眉を寄せた。
「大丈夫か?」
オレは慌てて首を振った。
「うん!大丈夫大丈夫!搭矢行く前に」
オレは搭矢の腕を掴んで少し微笑んだ。
「ちゃんとキスしよ?」
甘えたような声を出しておねだりしてみた。
進藤がよくやる手、らしい。
さぁ、来い。
さっきみたいに甘いのか、それとも変な味か!(出来れば甘くしてくれ)
搭矢は困ったような、苦笑のような笑みを浮かべた。
これは肯定、だよな?搭矢
ゆっくりと唇を重ねる。
……
言葉も出ない。すごい、美味い!
オレは夢中で搭矢とのキスを喰った。
すご、美味すぎる…。
甘すぎなくてうまみがあって、ぴりっと辛くて…
ああ、極上!
舌を入れて搭矢の口の中を舐め上げた。
最高……
「っ、ん」
少し目を開けてみると、搭矢の顔が目に入る。
搭矢は男にしては小奇麗で、食事の相手としては申し分ない。
まさに絶品♪
「もっ、しん」
搭矢が俺を押し返す。
しかたないので俺は搭矢を解放した。どうせ餌は逃げはしない。
「ごちそーさま♪」
俺は搭矢のおでこにちゅっとお礼の意思を示すとにっこりと笑った。
搭矢は今度は優しそうに笑うと「行こうか」と俺を促した。
俺はそれに従った。
初めのキスはただの拒否反応だったのかもしれない。
俺(吸血鬼)だとわかっていなくても本能的に拒否するヤツがたまにいる。霊力みたいなのが強いやつに多い。
それに、搭矢は突然のキスっていうのがどうもニガテらしいからな。
ダブルパンチだったってコトか。
俺は心の底から安堵した。あの変な味は二度とごめんだ。
しかし搭矢の味があんなに美味いとは…
今回はたらふく喰うぞ〜〜♪(なんたって2年分だからな)
今日のデートは進藤の見たがってた映画を見に行くと言うことだった。
その後は家でごろごろしようという計画。
色気もなんもないけど、男同士の恋人だとそれくらいがいいのかもしんねぇな。
外じゃどうせいちゃいちゃも出来ない。
むしろ搭矢は人には知られたくないと考えているらしいので家の方が気が楽だろう。
碁も出来るしな…。(俺は勘弁したいが…)
にしても、人間は大変だよなぁ。男だとか女だとか。世間だの、家族だの。
こっちの世界は気が楽だ。男も女も関係ない(むしろ人型じゃねぇヤツもいるし)
世間も少しくらいの悪さなんて目を瞑る(なんたって魔物だからな、するなって方が無理だ)
家族だってなんもない。大抵のヤツが自分の家族を知らないか、忘れてしまっている。初めから家族がいないという種類の魔物もいる(生まれ方が人間とはかなり異なるヤツがいるんだ)
とまぁ、こっちの世界と俺たちの世界を比べてもしかたねぇな。
っと、映画も始まるみたいだし。
進藤の見たがっていたと言う映画は今人気の近未来の話でロボットのうんぬん〜な映画だ。
まぁ俺は興味はない。まぁ面白いとは思うがな。
それよりどうやって次の飯にありつくかが問題だからそれどころじゃねぇ。
…ここでキスしたら…搭矢はどんな味だろう…
俺は自分の考えにほくそえんだ。
俺は隣にいる搭矢を指先でとんとんと叩いた。
搭矢が首を傾げて俺を見る。その仕草といったらかわいいのなんの。自覚してやってんじゃねぇのか?
俺は小さく手招きして身を寄せた。
搭矢は何か話があるのかと思ったようで俺に身を寄せて耳を傾けた。
「ちょっとこっち向いて」
出来るだけ小さく囁いた。
搭矢が俺に顔を向けた瞬間、即キスをして思いっきり一気喰いをした。
顔を離すと搭矢は目をまん丸にして俺を凝視していた。
うーん、さっきと違う味だけど、美味い。驚きと混乱の味。俺の好みにぴったりだ。
搭矢のキスは感情がよく染みるらしい。こりゃいろんな味が楽しめそうだ。
搭矢は声を出さずに口の動きだけで俺に文句を言った。
『ばか!』
搭矢はそう言うとふいっとスクリーンに視線を戻した。
ぷ、かわいいな…。
俺は搭矢の手を握り締めた。
搭矢はぱっと顔を俺に向けて眉を思いっきり寄せた。
これ以上怒らせるとただじゃおかない、とでも言っているみたいで俺は心の中で苦笑した。
俺はにっこり笑って少しだけ手に力を込めてみた。
『いいだろ?』
そういう意味を込めて。
搭矢は複雑そうな顔をしたけど、振り払うようなことはしない。隣にバレたら困るだろうし。
その顔に俺は満足して映画を楽しむことにした。
次はどうするか、もう決めたからだ。
映画が終わってじゃあ帰ろうかとなった。
俺は帰る気なんてさらさらない。外でやることがあるからな。
何かと理由をつけて外を歩こうと搭矢を誘う。
搭矢も時間があるからか俺に付き合ってくれる。
町のハロウィンの飾り付けを眺めながら俺は歩いた。
なんとなく、その飾り付けが俺を祝福してくれているような気がして気分がよかった。
「今日はハロウィンだったんだね」
搭矢はその飾り付けを見ながら呟いた。
「知らなかったのか?」
「別にお祝いをするわけじゃないし…」
俺にとったら最高の祝い日なんだけどな。
「まぁ、(人間にとっちゃぁ)そうかもな。じゃあ今年からハロウィンを忘れないように今日はめいいっぱい」
そこで言葉を区切った。
だって、俺は何を言おうってんだ。コイツがハロウィンを忘れようが何しようが俺にはどうでもいいじゃないか。
「めいいっぱい、何だ?」
搭矢は俺を覗き込んだ。
「……」
何も言わない俺に搭矢は首を傾げた。
俺はさっと搭矢の唇を奪った。でも喰いはしない。喰う暇もないくらいの短いキスを、搭矢に。
ただ純粋なキスを。
「っ、」
搭矢は心底驚いた顔をした。
…これを喰わなくてよかったかもしれない。喰ってたら初めの時みたいに変な味だったかもしれねェ。
「進藤、こんなところでっ」
搭矢は小声でめいいっぱい講義をした。
「あー…」
俺は面倒になって(何が面倒なのかもよくわかんねぇんだけど)
人気のない場所に移動して結界を張った。これで誰もこの領域には入れない。
「進藤!今日は何なんだ!映画館でもさっきも!」
「黙れ」
俺は搭矢の肩を押さえつけて睨みつけてやった。本気で俺は怒っていた。
何でか?さぁな。魔物はキレやすいんだ。
五月蝿い搭矢が鬱陶しかったのかもな。自分でもわかんねぇことってあるんだよ。
俺が本気で睨んだせいか、搭矢は顔を強張らせて俺を見つめた。
進藤の顔だからって、俺の殺気は変わらないはずだ。逃げ出さないだけでも褒めるに値する。
「搭矢」
怒りを込めて冷たく呼んでみた。
「…なんだ」
搭矢の声は澄んでいた。恐怖も戸惑いも感じられない。
それでも顔は強張っているし、恐怖を感じているように見える。
それなのに何故こんな声を出せるのか。
その声は俺を宥めた。
「搭矢」
今度は幾分穏やかに言ってみた。もう怒りは収まっていた。
「……なんだ」
さっきと変わらない声に、俺は少し笑みを零した。
「ごめん」
そう言うと搭矢は目を丸くした。
ごめん、
俺は搭矢に謝罪の意を込めてキスを送った。今度も喰わなかった。
キスをしながらふと、このキスはどんな味なんだろう、と考えてしまう自分がいて苦笑した。
気にしながらも喰いはしなかった。
それが俺にとっての謝罪だった。
その謝罪を終えて搭矢を見れば、穏やかな表情の搭矢がいて。
許されたんだとわかった。
「搭矢…好きだ」
「うん」
…違う。搭矢、そうじゃない。簡単に返事なんてすんなよ。
進藤じゃなくて、進藤としてじゃなくて、俺として言ったんだ。
俺は、オマエが、搭矢アキラが好きなんだ、って。
「キスしていいか?」
そう聞くと搭矢はまた目を丸くして、それから笑った。
「キスをしてから聞くことか?」
「だって」
今度は俺の食事のためだからさ。
「いい?」
「いいよ」
搭矢は苦笑しながら了解してくれた。
ゆっくりとキスを喰うとやっぱり美味かった。
でも今度は暖かい味。優しい。心地よい味。
懐かしい味。
こんな味、始めてだ。
満たされる。
腹じゃなくて、…なんて言うのか…、
唇を離す。搭矢を覗き込んだら搭矢は笑ってた。優しく。
心が…、満たされるのか…。
そうか、
キスって、
俺、今までキスは相手の味だと思ってたけど…
もしかして違う?
お互いの気持ちの味だった?
俺の気持ちが入ったから、今まで以上に美味かった?
そういうことなのか?
「帰ろうか」
搭矢が歩き出したところをぐいっと俺の元に戻して抱きしめた。
無理やり顔を向かせてキスを喰うと、同じように美味かった。
そうか。どうして嫌がってる時や混乱してる時、驚いてる時に美味かったのか。単に俺の好きな味かと思ってたけど…
違う。その感情はマイナスなのだからやはり味は悪いはずなのだ。
それでも美味かったのは、俺が楽しんで相手を苛めてたから、その表情や仕草に満足していたから。
何だか考えてみるとしっくりくるな。
「進藤…今日はしつこいな…」
「うん。…搭矢が好きだから…」
そういうと搭矢は嬉しそうに笑った。
「もうわかったよ。だから帰ろう。こんなところじゃ心臓に悪い」
別に結界を張ったから気にしなくてもいいんだけどな。
「そだな。帰ろっか」
外で喰うって言う目的も達成されたし。
何よりキスの味の原理さえわかってしまえば、搭矢を困らせたり驚かせたりしなくても十分美味いキスを喰えそうだとわかったから。
さっさと帰ろう。
帰って沢山搭矢を味あわせてもらうとしよう♪
「どうしてキミの家なんだ?」
夕飯を食って(俺は食べなくても搭矢のキスがあれば十分なんだけど)、帰る際に「俺の家に」って提案したのだ。ここからだと搭矢の家の方が近いのに何故そんなことを言うのか、搭矢には不思議だったんだろう。
「ちょっとね♪」
計画があるんだよ。
俺の、いや、進藤のアパートに着くと俺は鍵を開けて搭矢を招いた。
「どうぞ」
「…電気つけないのか」
俺が真っ暗な部屋に招いたことを搭矢は訝しんだ。
「ふふ、ちょっとな、とにかく入れって」
搭矢を強引に招きいれて、ドアを閉めると真っ暗で何も見えなかった。
って言っても俺にはちゃんと見えてるんだけどさ。
搭矢はまだ不審そうな顔をしている。
「搭矢、動かないでよ。怪我したから困るから」
「わかってる。さっさと電気」
俺は手を伸ばして搭矢の頬をそっと撫でる。
「っ、進藤?」
搭矢は驚いた顔をして俺の手に自分の手を重ねた。
自分は見えるのに相手は見えないって、結構楽しいな。
「驚いた?」
「当たり前だ。いいから電気をつけろと」
「黙ってよ、搭矢…?」
優しく言うと搭矢はふと口を噤んだ。
そこにすかさずキスを送る。
「んっ…」
暗闇の中でのキスも美味い。
ちょっと戸惑ってて、でも嫌じゃない。
そうだろ?搭矢。
搭矢から離れると電気をつけた。
搭矢はほっとした表情を少し見せた。
ふふ、大丈夫、襲いやしねぇよ。それは…
今、眠ってる不幸な本当の恋人に取っておかなきゃな。いくらなんでも可哀相ってもんだ。
「わ…。何だ…これ」
「ふふふ〜。すげぇだろ」
搭矢は玄関から続くロウソクを見て言った。
「何…?もしかしてハロウィン?」
「そ〜♪あ、蹴り飛ばさないように入ってこいよ〜」
俺はひょいひょいとロウソクを跨いで中に進む。搭矢もそぉっと進む。
へへ、いつもやる俺の最終手段〜。
「よくもこんなに並べたな…」
「へへ」
それ並べたんじゃねぇんだよ。ま、言うなれば魔法?ちょちょいと出してね。
いちいち並べてらんねぇもん。
「部屋もすごいぜ?」
搭矢を招き入れると、搭矢は感嘆の声をあげた。
「すごい……こんなに」
「ふふ。ちょっと待っててよ」
俺はロウソク一つ一つに火を灯していった。
それから電気を消してみた。
ロウソクの明かりが俺たちを照らした。
「綺麗だな…」
「だろぉ?」
俺は搭矢が関心してくれたことに満足した。
「…来年のハロウィンはさ…」
「うん?」
「おまえがこうしてロウソクを灯してくれる?」
「…いいけど…何故だ?」
俺は笑って答えた。
「俺がオマエに会うための道しるべ」
「??」
搭矢にはわからないだろうけど。
ハロウィンのかぼちゃの灯は、ジャックと言う死ねない人間の霊のあの世とこの世を行き来するための大切な道しるべだったんだってさ。
俺の世界はあの世じゃねぇけど。
灯があればまた搭矢に会える気がするからさ。
「キスしていいか?」
「今日はやけにキスしたがるね」
「ふふ、今日だけだから、いいだろ?」
「いつもは聞かないくせに」
「そうだったっけ?」
俺はふふっと笑って搭矢にキスをした。
やっぱり美味い。
でもそろそろお別れなんだよな。
この味ともお別れ、か。
ふと、美味かったキスが苦味を帯びた。
しょっぱいような苦味。
ああ、
本当に、キスってのは俺の感情も入ってたんだ。
搭矢
「搭矢…」
「うん?」
「好きだ」
「うん。ボクも」
俺に言ってるんじゃないってわかってる。
でもいいだろ?俺には今日しかない。
進藤、オマエは今からいくらでもコイツに会えるじゃねぇか。
今日だけ、俺に譲ってくれ。
「搭矢、こっち来て」
俺は寝室に搭矢を招いた。
何だかドキドキする…。
そういや…誰かを本気で好きになるって…初めてだ。
「こっちにも用意してあるんだ」
「へぇ」
搭矢は興味深々といった感じで部屋を覗き込む。
「わ、これって本物?」
搭矢はかぼちゃを見て言った。
「ちげぇよ。作り物」
本物も出せるには出せるけど、さすがにそれはやりすぎだろ?
「すごいな。これ買ったのか?」
「まぁな」
ホントはタダだけど?
「ふぅん…」
搭矢はかぼちゃや他の飾りを眺めて関心したようにため息を漏らした。
「とーうや」
甘えた声を出して搭矢をベッドに引きずりこんだ。
「ぅわっ」
搭矢を下敷きにして俺は搭矢を見下ろした。
「へへ」
「もう少し丁寧に出来ないのか?折角の飾りつけにぶつかったら」
「いーの。飾りつけなんか」
キスをしてみた。
喰わないでただのキス。
それも何だか、腹は満たされないけどわくわくと楽しい。
進藤がいつもやっているように搭矢の服を脱がせていく。
ガラじゃねぇけど…緊張する…。
搭矢の肌に手を這わせてみる。
進藤はこれを楽しいと感じてるみたいだけど俺にはよくわかんねぇ。
ただ触れて満足はしている。
記憶を辿って進藤と同じコトをしてみる。
首筋に舌を這わせて少し噛んだり、胸を舐め上げたり。
それを見て触れただけで俺は爆発しそうなくらい嬉しくて。
段々もっと触りたくなる。もっとという要求が強くなる。
何が欲しいのかわからないのに。
これって欲情してるって言うのか…?
それは問わなくても進藤の体が示していた。
(…人間はわかりやすくていいよな…)
思うままに搭矢を触りまくる。
キスも沢山して、喰ったり、喰わなかったり。どちらでも満たされた。
「今日は…」
搭矢が息を吐きながら声を出す。
「いつもと少し違うな」
「俺?」
「ああ」
搭矢は目ざとい。拒否反応を示した辺り、搭矢は案外霊感的な力があるのかもしれない。
「…そうかな…」
でも、見た目は進藤そのものだろ?
「ああ……。進藤じゃないみたいだ…」
「………」
俺の動きが止まって、搭矢は首を傾げた。
「もし……進藤じゃなかったら…?」
「え?」
「進藤じゃない、俺に抱かれるのは……嫌か?」
もうその時、俺は進藤じゃなかった。
姿かたちは進藤だけど、明らかに俺だった。
だって、俺は俺として搭矢と向き合ってみたかった。バレても構うもんかと思った。
ただ、搭矢が好きだから。好きになっちまったから。
「嫌じゃないよ…?」
搭矢は穏やかに言った。
その言葉の意味を、俺は理解できなかった。
「……なんで?進藤ヒカルじゃないんだよ?」
「ああ」
「オマエの好きな奴じゃないのに、いいのか?」
「ボクはキミが好きだ」
…
オマエの言ってる好きなやつって、誰だよ…。
「搭矢……好きだ」
「ああ」
ボクも、好きだよ
そう小さく囁かれて、もうどうでもよくなった。
今、ここにいるのは進藤じゃなくて俺で。
搭矢は進藤に言ってるのかもしれないけど、でも聞いてるのは俺で。
それでいいと思った。
俺は思う存分搭矢の体を触って、搭矢も気持ちよかったみたいだ。
嬉しくて嬉しくて、どうにかなりそうだった。かたん
小さな物音が俺の耳に入って俺はようやく現実に戻った。
音は小さく、搭矢の耳には入っていないだろうが、俺の耳にはしっかりと聞こえた。
その音は進藤を押し込めたクローゼットから聞こえた。
進藤が起きたのかと思ったが、進藤のうめき声らしきものは聞こえない。
ただ進藤が浅い眠りの中、足でも動かしたのだろう。
もう、時間か…
全裸の搭矢を舐め回すように見下ろして最後の食事に長いキスを喰って、
短く、喰わないキスを送った。
さよならの意を込めて
「搭矢、好きだよ。ありがとう」
ありがとうの意味がわからなかったのか搭矢は首を傾げた。
俺はにっこりと笑って搭矢の首筋に顔を埋めた。
首に歯を立ててそのまま血を貰う。
「っ?!あっ!」
搭矢は一瞬抵抗を見せたが、俺の力ですぐに眠った。
搭矢の血は、美味かった。
でも
キスが一番美味かった。
こんな感想を述べるのは初めてだ。
いつもは血の方が断然美味いのに。
血はいつもより少なめにしておいた。搭矢はどっちかっていうと体の強い方ではないみたいだし。
今回はキスで満足していたしな。
気絶した搭矢に、もう一度だけ、とキスをしてみた。
どうせ味なんてないと喰わなかったけど、やっぱり喰ってみたくなって少し喰うと、
ほんのりと甘い味がした。
それは残り香のように一瞬で消えてなくなった。
「……ごちそうさま」最後の残り作業。
進藤をクローゼットから引っ張り出すと案の定ほとんど俺の力は効いてはいなかった。
起きるのも時間の問題だな。
俺はさっさと事務的に進藤にキスをして今日の出来事の記憶を渡す。
ただ、一部は、俺にくれよな。
俺と搭矢だけの記憶にしててくれ。
ごめんな。進藤、サンキュ
作業が終わると眠っている搭矢の横に進藤を寝かせた。
「お二人さん、今日は俺に付き合ってくれてありがとな」
俺は変身を解くと、自分の姿に戻る。
「搭矢、またな」
また会えたらいいな。
「じゃ、お幸せに、な」
俺はベランダから飛び立った。もう会うこともないはずの人間だけど。
もしも来年、搭矢がロウソクの灯を灯してくれていたら…今度は進藤としてではなくて
ただの人間として搭矢に会いに行ってみよう。
もちろん、その時は会うだけさ。
キスを喰おうなんて、考えねェ。
だってあの味は、俺が搭矢を思う気持ちと
搭矢が進藤を思う気持ちから出来たもんだから。
もう二度と味わえない。
それでもいい。
あんなにいい味を作りだせる気持ちなら、きっと幸せになれるだろう。
そうだよな?搭矢
楽しいハロウィンパーティーをありがとよ
特に言うことがないんですが…
こんな話はヤダって方、すみませんでした…
かなり…趣味が入っていたかもしれません(かもじゃないだろ)
自分的には…書いてて楽しかった(はは)
あ、最後に!ボカしたんでわかりにくかったかもなんですが、
アキラと主人公は最後までしてませんから!(そんな宣言いらん?あ、そ?)
触っただけですから〜(いや、やっぱアキラが他のヤツとするのは許せんと言うか…)