永遠
思わぬところであいつに会えたのが嬉しくて声をかけた。
たったそれだけだったのに
次の瞬間に全部真っ暗になった気がした。
忘れていた
失うことの怖さを
ずっと一緒にいられるわけじゃないということを
オレが棋院からの帰り、あいつが横断歩道を渡るところを見かけた。
会えるなんて思ってなかったから嬉しくて声をかけた。
「搭矢ー」
搭矢は振り返った。ここからは聞こえないけど、たぶん「進藤」と言ったと思う。
オレが手を振りながら駆けていこうとしたら、搭矢に向かって猛スピードで突っ込んでくるトラックが見えた。
「なっ?!」
トラックは赤にも関わらずスピードを緩めない。
「搭矢っ!危ないっ!!」
オレの目の前に見えていた搭矢が、次の瞬間トラックと入れ替わった。
オレの中で確実にその時、「時」は止まっていた。
さっき搭矢がいたところにトラックが走っていく。
きっとすごいスピードだったと思うけど、オレにはそうは思えなかった。
どく、どく、どく
オレの世界はトラックの走り抜ける音とオレのうるさい心臓の音しか聞こえなかった。
キミは何に怯えているのか
何故そんなに泣きそうな顔をするのか
キミには笑っていてほしい
ちょっとくらい元気すぎるくらいでいい
泣かないで
最後に見えたのは進藤の泣きそうな顔だった。
なぜそんな顔をするのかと思ったら、ボクにトラックが突っ込んできていたからだった。
ボクだってトラックが見えたときは驚いた。
まだ青のはずなのにって
とっさに体が動いた。
次の瞬間、目の前をトラックが通り過ぎていった。
間一髪だった。
あと10cmでもずれていたらボクはあのトラックにひかれていただろう。
トラックが通り過ぎた後、ざわざわと人が集まっていた。
ボクは慌てて立ち上がろうとした。
その時、進藤がボクに駆け寄ってきて、その場でボクを抱きしめた。
「進藤っ?!」
ボクは慌てた。こんなに沢山の人がいる前で抱きしめられるなんて心臓に悪い。
ボクは進藤を引き剥がそうとした。
その時、気がついた。
進藤の体が震えていることを
「…進藤?」
「…ばかやろぉ」
ぎゅうっと抱きしめられてボクは心配してくれたということに気がついた。
嬉しいんだけど、こんなところで抱きしめるのは勘弁して欲しい。
ちかちかと信号が変わりそうになる。
「進藤、とにかく放してくれ。信号が変わる」
そう言うと進藤はボクを放してくれた。
渡り終えて進藤を見ると、進藤は怯えたような目でボクを見ていた。
今にも泣きそうな顔で。
「搭矢…」
進藤はゆっくりとボクに手を伸ばしてボクの頬に触れた。
存在を確かめるようにそっと頬をなぞるとほっとした顔をしてそれから搾り出すように言った。
「よかった…」
あのボクが事故に合いそうになった日から、進藤の様子がおかしくなった。
どこでもいつでもボクに触れたがる。
会うたびに悲しそうな寂しそうな顔をして、ボクに触れる。
棋院でも碁会所でも、道端でばったり会った時も
存在を確かめるように
お互いの家で抱き合う時も、進藤は変わっていた。
どこか不安そうな顔をして、沢山の言葉をくれる。
好きだとか、愛してるとか、いつもと変わらないような気もしていたんだけど、やっぱり違う。
確実に変わったのが、愛し方。
今まではいろんな風に抱かれてきたけれど、
あれから統一された。
ボクが意識を飛ばすまで、抱き続けられる。
焦らしたり、ボクに何かを要求するでもなく、ただ快感を与えられ続ける。
ただ、怯えたように壊れ物を扱うようにボクに触れる。
ずっと、進藤の声が聞こえる。
「搭矢、大好き。好き、…愛してる…ずっと」
いつも最後に見る進藤の顔はあの時と同じ、泣きそうな顔だった。
「どうして…泣きそうな顔をするんだ…?」
今日も進藤はボクを抱きながら、悲しそうな顔をしていた。
もう何日も進藤の笑顔を見ていない。元気もあまりない。
「搭矢、好き…。大好き…。搭矢、搭矢…」
進藤はボクの質問には答えないでボクを愛撫する。
「あっ…あ、進藤っ…答え…ろ」
「搭矢…搭矢、搭矢…愛してる。搭矢」
進藤は壊れたようにボクの名前を呼ぶ。
愛撫は止まない。答えを聞けない。
「…進藤、どうして…泣くんだ…?」
進藤は泣いていた。ぽろぽろと涙を零しながら、それでもボクを愛撫することを止めない。
「泣かないで…進藤」
ボクは進藤の首に腕を回すとぐいっと引き寄せてキスをした。
それから零れていく涙を舐めとった。
「何が悲しいんだ?進藤、話して?ボクには話せないの?」
小さい子供に言い聞かせるように優しく聞いた。
まだ止まらない進藤の涙がぽたっとボクの頬に落ちてきた。
進藤はずずっと鼻を啜って涙を拭うとゆっくり話し始めた。
「とぅや…オレ…っ、オレと搭矢は…っく、ずっと一緒にいら、れないだろ?」
ボクは何を言い出すのかと思った。
「オレ達、いつか…さ、別れなきゃ、っ、なんない、だろ?」
「どうして?」
どうしてそんなことを言うのかと思った。
ボクは別に別れるなんて言ってないし、そんな気もなかった。
「だっ…て、この前みたいにっ!」
そう言って進藤は一度言葉を切った。ひくっ、ひくっと息を漏らして必死に喋ろうとする。
「事故にあったりするかもしれないっ!搭矢に好きな子が出来るかもしんないしっ!」
「ずっと一緒にいるなんて無理なんだっ!…永遠なんて…ないんだ」
そういい終えた進藤はまた泣き出した。
「う…、だから…だから、明日搭矢がいなくなっても…生きてけるよ、に…うくっ、搭矢を忘れないようにっ…しよと」
ボクがいなくなっても?
この前のことでそこまで考えていたのか?
「進藤…」
「嫌だよぉ…搭矢ぁ。搭矢、どこにも行かないで。愛してるから、消えてしまわないで。搭矢、大好きだ。搭矢、搭矢」
「行かないよ、どこにも」
進藤はふるふると首を振るとボクにキスをして言った。
「ダメだよ…。んなこと言わないで。………永遠なんて、ないんだから」
進藤は諦めた目をしていた。涙は止まっていた。
永遠なんてない
どうしてそう思うのか?
どうして信じないのか?進藤らしくない
昔、何かあったのだろうか?
永遠―――――
「進藤、永遠はないかもしれない」
そう言ったら進藤は明らかに悲しそうな顔をした。
進藤は
信じたいのに、信じられないのかもしれない。
永遠を。
あると思うのに、いつか叶わなかったことがあったのかもしれない。
「ないのなら…ボク達で創ろう?」
進藤は目を見開いてボクを見た。進藤の綺麗な瞳が涙で揺れていた。
「永遠がないなら、今から創ろう。ボクらで」
進藤はきょとんと目を丸くさせた。それがかわいくてボクはふふっと笑った。
「ずっと一緒にいたいんだろう?ボクもキミとずっといたいよ。だから、ずっと一緒にいよう?ずっとだ。死ぬまで。それが出来たら永遠になるだろう?ボクらで、永遠を創るのでは…ダメか?」
「…永遠を、創る?」
進藤は信じられないという顔をしてボクに聞いてくる。
「ああ。ずっと一緒にいたら永遠だ。ボクらで創ろう。ないのなら創ればいいんだ」
「…ずっと、一緒にいてくれるのか?」
「ああ」
そう言うと進藤は嬉しそうに笑った。
久しぶりに進藤の笑顔を見た。
ああ、やっぱり進藤は笑っているほうがいい
進藤はボクの首に顔を埋めた。
ゆっくりと始まる愛撫にボクは目を閉じた。
今までは怯えたようにボクに触れていたのに、それがなくなっている。
元に戻ったのとも違う気がする。
そっと目を開けてみると、優しく笑う進藤と目があった。
綺麗な瞳だと思った。
「進藤、信じて。ずっと一緒にいるから…」
「搭矢、大好き、大好き、大好き…」
「ボクも…あっ」
進藤がボクの胸の突起を舐めた。口に含まれて舌で転がされる。
「んっ…」
進藤はゆっくりとボクの身体に手を這わせて、最後に僕自身に触れた。
「あっ…」
ゆっくり焦らすように触れてくる進藤に、なぜか安心した。
もう進藤は怯えていない。
怯えたように触れてくる進藤と抱き合うとボクもなんだか不安になった。
今は、きっと進藤も安心してるんだ。だからボクも…
肌で触れ合うと、気持ちまでわかってしまうのかもしれないな…
「ああっ」
進藤の指がボクの中に入ってきて、思わず声が漏れた。
そこでもゆっくりゆっくり愛撫する。そおっと触れるだけ。
とても進藤が愛しいと思った。それからとても欲しいと、
「しんど…、あ…、はや、く」
進藤は「ん」と笑うと、ボクの中にゆっくり入ってきた。
「あ…っぁ…」
入ってきてすぐには動かない進藤を抱き寄せた。
「ねぇ…搭矢」
「…何、だ?」
「死ぬまでじゃ嫌だ」
進藤はひどく真剣な顔でボクを見つめた。
「死んで、幽霊になっても、生まれ変わっても、ずっと一緒にいてくれる?永遠を創ってくれる?」
死んでも
幽霊になっても
生まれ変わっても―――
ずっと
それが永遠
それがキミの望み
「ああ、死んでも…ずっと…。生まれ変わっても…」
進藤が激しく動き出したから、ボクはその先を言わせてもらえなかった。
死んでも…ずっと…。生まれ変わっても…キミが望むなら…キミのそばにずっといるよ
ずっと、一緒に永遠を創ると誓うよ
ボクらが同時に達してボクの意識がなくなる瞬間、
進藤が幸せそうに笑ったのが見えた。キミが好きだから、ずっと一緒にいたい
永遠を創ろうって言ってくれたおまえを
一緒にいたいって言ってくれたおまえを
綺麗に笑ったおまえを
きっとおまえが永遠だ
おまえが言うなら永遠もあるだろう
創ることもできると思う
「ありがとう、搭矢」
オレは気を失った搭矢の耳元で囁いた。
ずっと信じられなかったけど、信じてみようと思う。
あの時は消えてしまった「永遠」だったけれど、今度は。
消しはしない。
守ってみせるから。『永遠を創ろう』
ずっと一緒にいたいから
上戸彩の「kizuna」を聞いていて思いついてものです。
何であの歌でこれが出来たのか自分でわからない;