ホワイトデーにイベントだなんてけったいやわぁ

社はそうぼやいてた。
オレはどっちでもいい。どっちでも搭矢と一緒だし。

そやけどそっち行くのは楽しみやわ。搭矢にリベンジしたるで

社は結構前向きだ。努力家だし。
オレも社ともう一回対局したいし。搭矢もきっと喜ぶ。

 

 

ホワイトデー。
棋院主催のおおきなイベントが催された。

北斗杯がもう4回も行われていた。
初めは一度きりだと決まっていたらしいけど、なかなか好評だったからまたやることになって。
それから恒例の行事になりつつある。
若い、子供の棋士の国際戦だから段々と世間も注目を集め、今年はとうとうイベントまで。
第一回の北斗杯から3回、北斗杯制限の18まで俺と搭矢は一度も予選で落ちなかった。
社は残念ながら2回目の時、惜しくも落ちた。大阪で家族や学校のこととかいろいろ問題があって大変な時期だったらしい。それは後から聞いた話だけど。
とにかく、北斗杯出場者はもちろんのこと、予選で惜しくも落ちた実力ある若い棋士たち、初めから出場権がなかった18歳以上の棋士も、とりあえず若手と呼べる棋士を集めてホワイトデーのイベントが開催された。
なにやらここ数年バレンタインのチョコが棋院にも届くくらいに若い人達に広まりつつあるらしい。
テレビとか結構出た俺には結構の数のチョコを貰ったしなぁ。
そこで棋院が考えたのはそのチョコのお礼をイベントと言う形で示すということ。
それでファンは喜ぶのかなぁと思ってたけど、初心者〜上級者までの人が楽しめるようにと囲碁が出来ない人でも参加可能なイベントを沢山取り入れたとあって、大盛況。
子供から年頃の女の子、さらに男、当然お年寄りも、本当に沢山参加してくれた。
俺達棋士としては嬉しい限りだけど、ホワイトデーにって言うのは男としてはちょっと渋る奴が多かったらしい。
休みを取ってたやつもひっぱりだされたとか聞いたけど、どうなんだか。

とにかく盛況。
俺達はひっぱりだこ。
北斗杯に出てたやつは特に。
丸一日使ってのイベントでくたくたに疲れた棋士達にホテルまで用意してくれてる。
太っ腹だ。
イベントはたくさんあった。
北斗杯メンバーで北斗杯棋譜の検討、解説。指導碁、囲碁クイズなどなど。
食事会もあって大盛り上がり。

案の定、疲れた俺はホテルに転がり込んだ。
すると社が訪ねてきた。

「一局どうや?」
「いーぜ〜」
疲れてたけど俺は社を招き入れた。
久しぶりの対局だ。
一局は2人との本気でばしばし打っていった。
細かい碁になって、最後俺が2目半勝ち。
「やりっ」
「くそ〜、もう一局や!」
2局目からは本気だけどぽつぽつ社が話し始めた。
「進藤、オマエ彼女とかおらんの?」
「はぁ?何で突然」
「この前電話でイベントのこと別に嫌がってへんかったやろ」
「ああ…、まぁ、いるにはいるけど」
「おんのか?…ホンマに?」
社は俺を疑い深そうじっと見た。
「嘘ついてどうすんだよ。いるって」
「へ〜。どんな子やねん?」
「えー、んー…、いつもはケンカ友達みたいな感じだけど時々妙に嬉しいことやってくれたりとか…」
「顔は?誰に似とる?」
「顔ぉ?…まぁ、整ってるっていうか…、キレイって感じ…か?」
「ほ〜。俺の彼女めっちゃかわいいで〜」
「へ〜。上手くいってんの?」
「いってるいってる。ホンマは今日会いたかってんけど」
「バレンタインのお返しかぁ」
「せや。手作りのチョコクッキー貰ったんやで。オマエ何貰った?」
「俺は普通に市販のチョコ」
「なんや、料理苦手な子か?」
「いや…どうだろ…。俺はくれないと思ってたからかなり嬉しかったけど」
「くれへんて?何でや、ケンカでもしとった?」
「ん〜ん。なんつーか…クールって言うか…そういうのやらない感じがあったから…」
「ふ〜ん」
あいつ、今日のホワイトデー…くれるのかな…?
あげたけど貰ったし。くれないかもしんないけど。
でも俺は用意したんだ〜。
前はあいつに越されたけど、今度はばっちり用意したもんねー
くれなくてもいいんだー、俺が嬉しかったから今度は俺が喜ばせたいって言うか
「やねんけど、オマエは?」
「は?」
社は首を傾げた。
「なんや、聞いてへんだな?」
「わり〜、で、何?」
「バレンタインのお返しやて。何やんねん」
「ああ、すっげー悩んだけど本にした」
「本〜????」
「だってさ〜、バレンタインはチョコって決まってるからいーけどさ〜、ホワイトデーって決まってね〜じゃん?あいつの喜ぶもんとか思いつかなくてさ〜。食べ物とかは執着しないタイプだし」
「本好きなんか?」
「え…」
詰め碁と言おうとして止めた。
誰だとか言われたらごまかせない。
「まぁ、時々読んでるから…」
「ほ〜。進藤の彼女にしてはなんやイメージ違うわ〜」
「俺の彼女のイメージなんてあんのかよ」
「ある。顔は美人系で明るくて活発、で、ちょっとわがままなトコがあるとかな〜」
「おいおい」
「ぶっちゃけあれやな、初々しさとかなさそうな付き合いしてそうや」
「なんでやねん!」
「つっこむんかいな煤v
「大体社の彼女のイメージだってなぁ!ん〜と…」
「今考えるんかいな」
「姉さん女房のわがままに付き合わされて苦労してそうだぞ!」
社はそこでにまぁっと笑った。
「な、なんだよ」
「それがな〜」
社はデレッとして話し出した。
「全然違うで。年は同い年やけどな、めっちゃかわいくておとなしくてな〜。思いやりがあって優しくて、いじらしくて」
「あー、はいはい」
のろけ話かよ
「聞き流すなや〜。冷たいやっちゃ。とにかくめちゃかわいいんやで。見せたりたいわ〜」
「ふ〜ん」
「写真、家にやったらあんねんけど。持ってくればよかったわ」
「写真か〜」
「なんやオマエ撮ってへんのか?」
「撮ってねぇよ。思いつきもしなかった」
「なんや結構クールな付き合いやなぁ。付き合ってどれくらい立つねん」
「えー…、んと、3年くらい?」
「は〜、長いやんけ」
「社はどれくらいなんだよ」
「半年たったかな」
「半年か〜」
「3年で写真も撮らんとはどんな付き合いやねん。もしかしてやるだけやないやろうな」
「おいっ!んなわけねーだろ。ちゃんと大事にしてる…よ」
「何や今の間は」
「…なんつーか、大事にされてるのかもとか一瞬考えた」
「は〜、なんだかんだでラブラブなんか?」
「そうだな。いつも会えないから会えた時は結構…いい感じ…?」
「お互い大変やんな〜。棋士は不定期やし、勉強会やらなんやら抜けられへんし」
「それはお互いわかってるんだけどな。やっぱりもう少し会いたいとか時々思う」
「うんうん」
社が頷いてる所にがちゃっと音がした。
俺の視線の先、社の後ろのドアが開いて搭矢が立っていた。

 

 

 

 

 

俺が音の方に振り向くと搭矢が部屋に入ってくる所やった。
「搭矢、遅かったな」
進藤が話しかけると搭矢はふわりと笑った。
「お客さんに知り合いがいてね」
「へ〜」
「搭矢、これ終わったらオマエ一局打ってくれるか?」
「ああ、いいよ」
搭矢は碁盤の前まで来て一言。
「何の話をしてたんだ?」
「あ?聞こえてた?」
進藤が首を傾げると搭矢は盤面から顔を上げた。
「見たらわかる。話しながら打ってただろう?」
「はは、話してた。社ののろけ話聞いててさ〜」
「なんや俺だけちゃうやろ。オマエの話も聞いたで」
「オマエが聞くからだろぉ〜」
「せやった?そや、搭矢は?彼女」
「彼女?」
搭矢は少し首を傾げた。
「……まぁいるには…いるが」
「なんや歯切れの悪い返事やなぁ。おんの?おらんの?」
「いるよ。あ、でもあんまり言いふらすのは」
「わかってるって!その辺は大丈夫やて。で、どんな子や?」
「社ぉ、また聞くのかよ」
「ええやん。興味あんねんて。搭矢の彼女やで?進藤はもう知ってるんか?」
搭矢と進藤は顔を見合わせた。
「まぁ、知ってるよ」
進藤はふにゃっと笑った。
「どんな子やねん」
搭矢を見ると少し考えた風にして一言。
「子供」
「「は??」」
俺と進藤の声がかぶった。
「オマエ子供って。いくつの子やねん」
「年じゃないよ。子供みたいなんだ」
「ああ…」
俺が納得すると進藤が微妙な顔をしていた。
「進藤から見ても子供っぽい子なんか?」
「は?え?…俺は、そんな詳しくねぇし」
進藤はふいと視線を盤面に落とした。
なんやねん。
「子供っぽいって、どんなや?年はいくつ?」
「同じ年。笑ったり怒ったりころころ変わるんだよ」
「は〜、これまたイメージと違うわ」
「またイメージかよ。社のイメージって本当わかんねぇ」
進藤が眉を寄せた。
「せやかて、搭矢やったらやっぱ日本ぽい子っていうか。大和撫子みたいなイメージちゅーか」
「はー、そー」
進藤は気のない返事をして碁石をやる気のなさそうに置いた。
搭矢はくすっと笑うと言った。
「大和撫子とはかけ離れてるかもしれないけどかわいいよ?子犬みたいで」
「子犬かい」
「子犬ってイメージがぴったりなんだ。元気に走りまわってるって言うか」
「ボーイッシュな子か?」
「そうかな」
「顔は?」
「どうだろう。人の好みだと思うけど。僕は好きな顔だよ」
「そらな〜。好きな子が一番よく見えるわ」
「社は彼女がいるんだ?」
「いるで〜。かっわいいの。砂糖菓子みたいな子や」
「へぇ」
「今度こっちに2人で遊びに来たいわ〜。そしたら2人に紹介するわ」
「ああ、そうだね」
ぱちんといい音がしたから進藤の方を見ると少し浮きだって碁石を弄んでいた。
なんやコイツは。
そう思ってたらあれよあれよと形勢が決まって俺がボロ負け。
「進藤〜、オマエすかした態度とって騙したな〜」
「へっへ〜、だって社話なげぇんだもん〜」
「くそ〜。オマエは搭矢の彼女知ってるかもしれへんけど俺は知らんねや。知りたい思うやろ〜」
「へ〜へ〜」
「せや。搭矢はホワイトデー何あげるんや?」
「僕?……内緒」
搭矢は少し微笑んだ。
「なんでやねん、ちょお教えて〜や」
搭矢はまた少し考えて間を置いた。
「…クッキーだよ」
「クッキーかぁ」
「社オマエさっきからなんで聞きまくってんだよ」
「も〜、進藤オマエほんま聞いてへんだな」
「聞いてなかったよ!」
「いばるなや!だから俺の彼女にお返し、俺もクッキーにしてんけど、よかったんかな〜と思って」
「いいんじゃないか?別に」
「そ〜だよ、いいじゃん。俺なら嬉しいしっ」
「進藤が嬉しくてもあかんっちゅーねん。初めて貰ったお返しやからこんな普通でよかったんかとかいろいろ思うことがあってん。でも他に思いつかんし。市販の買ったわ」
「大丈夫だって!そんなことで怒る子じゃね〜んだろ?」
「怒るとかそういう問題じゃないねんて。あんま会えへんし、こういうとこでこう…なぁ」
「それだけ相手のこと考えてるんだからきっと大丈夫だろう?」
搭矢はにっこりと、進藤はそれにうんうんと頷いてくれた。
…うん
「せやな。悩んでもあかんし。ええよな!」
「そ〜そ〜、愛があればなんとかなるって」
進藤が笑った。
「そだ〜。搭矢に渡そうと思って」
進藤は自分のカバンをごそごそとやって何か包みを取り出した。
「はい」
搭矢に渡されたそれは少し重みを感じさせる風な四角い代物だった。
「何?」
「へっへ〜。まぁ後で開けてみてよ」
進藤は得意そうに笑った。
なんやねん。後でって。
搭矢はそれをじっと見て頷いた。
「ああ、わかった。そうだ、僕もこの前のお返し」
お返し?なんのや。
搭矢も同じようにカバンから何か包みを取り出した。
がさがさと音のする代物だった。
「はい」
「わ〜い、さんきゅ〜v」
進藤はそれを嬉しそうに受け取った。
………
なんやねん、今の取引は
何で今すんねん。オマエらいつでも会えるんと違うんかい。
今渡さんでも帰ってからにしたら
「社、打とうか?」
搭矢は進藤と場所を変わりながら聞いてきた。
「あ、おう。…ところで搭矢は彼女と付き合いはじめてどのくらい?」
「え?…3年と1ヶ月強だね」
「………そうか」
進藤の彼女はクールで本で顔は綺麗系…?
搭矢の彼女は子犬みたいな活発系…。
こいつらの付き合い始めた時期が同じくらい…。
……。
自分の突拍子も無い想像を、ピコハンで吹き飛ばすと碁石を持った。

まさかなぁ
自分の想像に自分で笑ってまうわ〜。

しかし…
今日、イベントに持ってきてまで渡さなあかん代物って…
なんやねん!(ツッコミ)

もう知らん!
こんな奴らもう知らん!考えるな!

 

結局、搭矢にも負けた俺は微妙な疑問を残しつつ東京を離れた。

 

 

 


大阪弁がちょっと変かもしれません。ご了承ください〜。
書いてると社ってそんなに鈍ってへんな〜とか思いつつ。
彼らの彼女(彼氏?笑)の自慢話を書いてみたかったんですよ。
楽しかったです。またやってね〜、社〜
社「やるかっ!」