「…為?佐為」
誰かの声が聞こえる。懐かしいような、安心できるような
(ヒカル?)
「佐為ってば!幽霊は寝ないだろっ、目ぇあけろってー」
目をあけると要が立っていた。
「要」
・・・・今
「何やってんの?」
・・・・・今、・・・・
「・・・・・ぼーっとしてたみたいです。」
あはは、と私が笑うと要は「なんじゃそりゃ」と一緒に笑いました。
「もしかして俺と別れてからずっとここにいた?」
「ええ、まあ。」
「・・・・・彼方の青い世界、行かねーの?」
分かった。私が行きたくない理由。
―――――ヒカル
私はヒカルに会いたい。
私にもいたのだ。会いたい人が
「ええ、私にも会いたい人がいますから」
「え?誰?」
「・・・ヒカルです」
「ヒカル、って言うと二番目の奴だろ?生きてるじゃん、そいつ」
「待つからいいんです」
「ふーん」
なんだかすっきりして気持ちがよかった。そうだ、私は
ヒカルに会いたい
きちんとお別れも出来なかった。
ヒカルは・・・今、何をしているんでしょう
「藤原佐為なんていない?」
「なんだそのカオはちゃんと調べてやったんだぞ。平安時代、天皇に囲碁指南してた貴族だろ。先生の先生にも電話して確認してやったくらいだ」
「佐為は…でも、いますっ」
「ああ?なんだそりゃ、何を根拠に言っとる」
「まァ 確かにいなかったと断定するのはマチガイだな。正確に言えばいたかどうかわからないってところか。文献や資料に残ってないっていうだけだからな。ハッハッ」
(いたかどうかわからない)
いたよ 佐為は!
オレだけは知ってる
「ヒカル!」
「どうしたの?社会の松井先生と何話してたの?」
・・・佐為
「別にィ」
「ね、私、金子さんに置き石ひとつ減ったのよ」
「フーン」
「また ヒマな時打ってよ」
佐為
「……もう 打たねェ」
「なによイジワル。前は教えてくれたじゃない」
「……………プロの試合の方はがんばってるの?」
なあ、佐為
「もう 打たねェって言っただろ」
だから、帰ってこい
「何言ってんの!?ちっとも人の話聞いてないのね!知らない!」
森下先生の研究会ももう行かねェ。河合さんのいる碁会所にももう行かねェ
塔矢。佐為に向いているオマエの目をオレに向けさせようと思った
そんなことできるわけねェのにな
オレに佐為は越えられねェ
佐為 なんで 消えたんだろう
「・・・・佐為っ・・・・」
ばっ
私は後ろを振り返った。
「うおっ、何?佐為」
「…いえ、なんでも・・」
今、ヒカルの声が…
ヒカルに呼ばれたような気がした。
・・・気のせいですね、きっと。
「要、魅亜ちゃんを探しに行きましょう!私も一緒に探します!」
私は立ち上がると要ににっこりと微笑んで歩き出した。
「え、あ、うん。さんきゅ、・・・へへ」
要は照れたように笑いながら私に駆け寄る。
「佐為、ありがと」
「いえ、どうせ暇ですから」
「あのさ、俺、ちょっとさ」
「??」
「寂しかった…んだ。」
要は私を見ず、真っ直ぐ前を見ていた。
「俺が生きてたらもう二十歳すぎてて大人のはずで、それなのに俺、寂しかったんだ」
「俺さ、小さい頃、すんげー寂しがりやでさ。あー、寂しがりは今もだけどな。前はもっと凄くて、一人になんのすんげー嫌で母さんが出かけようとすると泣きわめいたりしたりしてさー。母さんはいてたから俺はおいていかれんだ。子供でも仕方がないってのは分かるから我慢して我慢して、で、どうしても無理ってなりそうになるとさ、魅亜が・・・来てくれたんだ。いつも好き勝手やっててわがままなのに、俺が寂しい時はなんでか一緒にいて、俺の言うこと分かってるみたいに行動するんだ」
要は懐かしそうに話す。
「佐為を、初めて見た時に…魅亜に、似てるなって、思ったんだ。雰囲気っていうか・・・オーラ?なんか、説明しにくいけど・・・」
私が、魅亜ちゃんに似ている・・・?
「要は……ヒカルに似ていますよ」
「え?俺…が、ヒカルに?」
「…ええ」
懐かしい。そう言ったらいいのだろうか。初めて会ったのに、そう感じる。
それは似ているから?会いたいヒトに…
「…そっか、俺が、ヒカルに…」
「嫌でした?」
「ううん、嬉しいよ」
要は真っ直ぐ、私を見つめて笑った。
「佐為がいてくれて嬉しい。…ずっと、一緒にいてくれる?」
「え?」
ズットイッショ二
「………それは無理ですよ、要」
「何で?」
要はすごく悲しそうな顔をした。
ごめんね、要。
「永遠なんて、『ずっと』なんて、ないからです」
ヒカルとずっと一緒にいられなかった。
――――永遠なんてない――――
「・・・ごめん、佐為。泣かないで…」
「え…?」
要が精一杯背伸びして、私の頬に触れた。頬から離れた要の手は確かに濡れていた。自分で頬に触れるとやっぱり濡れる。要を見ると、困ったように微笑む。要は少しぼやけていて、自分が泣いているんだとわかった。
「ごめんな、ヒカルのこと思い出させた?」
「……いえ、大丈夫です。私こそいきなり泣き出したりしてすみません」
私は涙を拭うと笑って見せた。要が安心できるように。
要はそれを見ると、安心したように微笑んだ。
「佐為、ヒカルに会いたいよな?」
なぜ突然要はそんなことを言うんでしょう?
「もちろん会いたいですが…。なぜ、そんなこと聞くんですか?」
「ヒカルは佐為が見えるんだよな…?」
「ええ」
要はすごく苦しそうに見えた。
「要?具合でも悪いんですか?顔が青いですよ?」
要は目を閉じて、深呼吸をすると私を見上げた。もう、要の顔色は悪くはなかった。
「会いにいく?ヒカルに」
会いにいく?ヒカルに
要の言葉が頭の中でこだました。
私は要の言葉の意味を理解するのにかなりの時間を使った。
「……どういうこと…ですか?」
かなり動揺していた私の声はかなり裏返っていた。
「下にいけるんだ。ヒカルのとこに。佐為は、行きたい?」
行ける?
ヒカルに会いに?
「要っ!どうするんですか?どうすれば会えるんですかっ?」
私は夢中で要に詰め寄った。要は寂しそうな、悲しそうな顔をしていたけれど、余裕のない私は気にかけるどころじゃなかった。
「落ち着いて、佐為。連れて行ってやるから」
「本当ですか?」
「うん。でも、約束して欲しいことがあるんだ」
「なんですか?」
「ここに帰ってきて、ちゃんと彼方の青い世界へ行くこと。あと、俺も下へ一緒に行って帰るときも一緒。それを守ってくれるなら連れてってやる」
「ええ、わかりました。守ります!」
そう言うと要は悲しそうに微笑んだ。
私が「あ‥」と言うと、要は「何?」と返してきて、悲しそうな笑みを消していた。
要はなぜ悲しそうに微笑んだのでしょう?
「んじゃ、行こっか」
そう言って歩き出した要を見て、ふと何かがひっかかった。
「要!」
「ん?」
要は振り返って私を見た。何か、何かあったはず…
あ
「魅亜ちゃん…」
忘れていた。要の会いたいヒト。魅亜ちゃんを探している要を巻き込むわけにはいかない。
「ああ、いいよ。魅亜なら待っててくれる」
「でもっ…」
「大丈夫だよ、さ、早く行こう。ぐずぐずしてるとヒカルが大人になっちゃうぜ?」
そうだ。ここでは夜がないから私がここに来てからどれくらいたったかわからない。
私は要に駆け寄った。要はにっこり笑って歩き出した。私は要の後につづく。
ヒカル
ヒカルに会える!
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