青空の想い




私の声
とどいてる?

ヒカル

楽しか――――








ヒカル、私は

ヒカルと別れたくないのに




「・・・・・・」
・・・・ここは??
気がつくと私は長い列に並んでいた。
・・・・ヒカルは?
あたりを見渡してみるけれどヒカルはいない。ここはヒカルの部屋じゃない。
ああ、私は死んだのだ
死んだというのはヘンかもしれない。ヒカルと一緒にいる時も死んでいたのだから。
なぜこんなことを思うのでしょう?
・・・・、ここはどこでしょう?私は消えたと思ったのですが・・・
長い列がゆっくりと進む。私は列から出ようとした。
「おいっ、どこに行くんだ?」
突然、私の前に並んでいた男性が声をかけてきて、私の腕を掴んだ。
「え…?」
私は驚いた、腕を掴まれたことに。物に触れるという行為を長い間していなかった為、体が凍りついた。
固まって動かない私に男は続けた。
「ちゃんと並んでろよ。登録しないといけないんだから」
「・・・登録・・・?」
男は私を列に戻すと少し笑って言う。
「そう、登録。分からない?あんた死んだんだよ?」
「ええ、それは・・・・分かりますが…」
「ゆっくり考えてみな?この列に並んでいる理由」
そう言われて私は考える。そういえば私はここに並んでいなければいけない。理由は分からないけれど・・・。
「分かった?」
「ええ、ありがとうございます」
「いやいや、どういたしまして」
こうして私はおとなしく列に並ぶことにした。

「名前は?」
列の先は受付らしきもので、大きな机の向こうにいる男がこちらを怪しんで問う。
「藤原佐為ですが…」
男は眉を寄せて私を睨み、手元にあった紙の山をひっかき回した。
その中の1枚を引っぱり出して、うーんと唸り私の方に向き直る。
「こりゃ、面倒だな。あんたなんでさっさとこっちに来なかったんだ、まったく!」
男は迷惑そうに言う。
「そう言われましても…」
「そうだな。でも言わずにはいられないんだよ。まったく!ああ、面倒だ!!」
男はそう言うと、パソコン(でしたっけ?)になにやらいろいろ操作して、紙になにかを書き込み、最後に私に小さな紙をくれた。
「あの…」
「はい、次!」
私が何かを聞く暇もなく列から次の人が私を押し退ける。
・・・・・・・。
しかたなく私は貰った紙を見る。どうやらこの場所の案内地図らしい。現在地と『彼方青い世界』という場所が書いてあるだけだった。
…どうしましょう。
私が紙を見ながら突っ立っていると、突然声をかけられた。
「なあ、あんたさぁ、」
紙から顔を上げると私の前に男の子が立っていた。ヒカルより、少し…年下でしょうか?
「珍しいなぁ、ここに来てどれくらい?名前は??」
男の子はニコニコ笑って私に問う。
「私は…藤原佐為。ここには来たばかりですが・・・」
「え?来たばっかり??だってあんた昔の人だろ?」
男の子は不思議そうに私を見る。
「ええ。でもここに来たのはついさっきです」
「へー…、そんなこともあるんだ?」
そんなことと言われても、何がなんだか分からない私には答えようもなかった。
「…さあ、どうなんでしょう?」
「あれ?んじゃここに来るまで下で何やってたんだ?」
「…下??」
「あ、えーと、ここはさ、死んだ奴が来るとこなんだ。分かる?」
「そうなんですか?」
と、いうことは、この子も死んでいて、さっき私に触れた人も死んでいる。もちろん私も。
死んだ者同士だと触れられるのかもしれない。だからさっき触れることが出来たのでしょうか。
「うん。えー・・と」
男の子は私を指差して唸る。ああ、
「佐為です。藤原佐為」
「佐為は自分が死んだこと、分かってるよな?」
「ええ」
「んでここは、まあ、『死者の世界』だろ。下ってのはー、『生者の国』だよ。分かる?」
「ああ、分かりました!ええっと下では私は囲碁を打っていました。」
「・・・・イゴ・・・・????」
「白と黒の石を使って、陣地を競い合うゲームですよ」
「ああ!分かった!!NHKでやってるやつ!あれってじーちゃんがするんだろ?」
えぬえちけー・・・って何でしょう?
「えっと、ちょっと待てよ?どうやってすんの?幽霊なのに・・・」
「…生きている人に、代わりに打ってもらっていました」
男の子は驚いたように目を丸くさせて私を見た。
「へえ、人にとりついてたんだ。んじゃあ、そいつは何?幽霊が見えるの?」
「ええ。他の人に私は見えませんでしたけど」
「うん。普通は見えないんだ。霊能力者って言ってる人にも見えないし、声も聞こえない。
 それが普通だよ。なんで見えたんだろうな、そいつは」
「分かりません」
男の子はふーんと頷く。私が男の子を見ていると、男の子と目が合った。
にこっ
男の子は無邪気な笑顔を返す。それはある人を思い出させて
「…あなたの名前は?」
「え、あ、そっか、言ってなかったな。俺は真居 要。よろしくな!」
そう言って右手を差し出す。
「よろしくお願いします」
私も右手を出す。握手。人に触れるという行為はやっぱり違和感があって。でも嬉しいものだった。
「要はいくつですか?」
「俺?死んだときは13だったよ。」
13歳。やっぱりヒカルより年下でした。
「死んでからはー、11年たったかな。」
11年。そういえば・・・
「ここでは何をするんですか?」
「あー・・・、うん…」
『死者の国』死んだ人が来る所。でも、来て、何をするんでしょう?
受付で貰った紙には何をするということは書いてなかった。辺りを見回しても何もない。あるのは木と白いベンチと・・・
夕日。
「何をってのは、気持ちの整理、かな?」
「気持ちの整理・・・?」
「うん。それができたら『彼方の青い世界』に行くんだ。」
彼方の青い世界、紙に書いてあった場所。気持ちの整理ができたらそこに行く。それじゃあ、ここにいる要は・・・
「要は・・・気持ちの整理ができていないんですか?」
「う〜ん、ちょっと違うかな〜?遣り残したこととかを片付けるんだ。あと、ここにいる人って大体探してるんだ。生きてた時の親友とか、家族とか・・・恋人とかね。俺は、飼っていた猫を探してるんだ」
「猫?」
「うん、人懐っこい猫でさ、メスの。魅亜っていうんだ。絶対にいるはずなんだ、ここに。俺に懐いてたし。でも、なかなか見つからなくてさ」
「そうですか・・・」
「うん、でも時間は限りなくあるし、気長に待つよ」
カギリナイジカン?あるのでしょうか?そんなもの。
「本当にあるのですか?限りない時間なんて。」
要はきょとんと私を見る。
「あるよ?だってもう死んだんだもん」
私もそう思っていた。でも、無かった。死んでいる私には。
要を見ていた顔を上げる。夕日が眩しくて目を細めた。
あれ・・・・・?
「あの夕日・・・」
今にも沈みそうな綺麗な夕日。しかし、ここに来たときも、さっきも、今も、同じに見える。
「ああ、あれ、沈まないんだぜ。面白いだろ?」
沈まない夕日はとても綺麗で、
「綺麗。…この世の物とは思えませんねぇ。」
と言うと、要が「うん、あの世のもんだもん」と笑いながら答えた。
「そうでしたね」と言う私を見上げて要は「そうだよっ」返し、2人で笑った。
夕日をみると相変わらず綺麗で、昔、夕日を見て理由なく切なくなったことを思い出した。
「生きている時に夕日を見て切なくなるのは、この場所に来ることを知っているからなんでしょうか…」
そう言うと、要は私を見て、それから夕日を見上げて「そうかもな」と小さく答えた。
「なあなあ、」
要は明るい調子で私を見上げて
「佐為の話もっと聞かせてよ!下にいた時の」
と私にせがんだ。
「ええ、いいですよ。私の話でよければ」
「じゃ、座ろっ!こっち!」
要は私の手を掴むとベンチに向かって歩き始めた。
私は要はヒカルに少し似ている、と思った。

要は私の話を目をキラキラさせて聞いてくれました。1000年前のこと――、碁のこと――、私が死んだ時のこと――、碁盤について虎次郎に出会ったこと――、虎次郎との別れ――、そして ヒカルに出会ったことを――・・・。
「佐為ってばオモシロイ――ってか、スゴイ人生送ってるなあ。」
そう言って要はふわりと優しそうに微笑む。
「・・そうでしょうか?」
「俺なんかさー、普通に学校とか行って、勉強して、遊んで、事故死。つまんねーっ!!」
くす
つまらないなんて、嘘でしょう?きっと楽しくて、友達がたくさんいて、魅亜ちゃんと遊んで、幸せだったんでしょう。
そうじゃなきゃ、そんな風に笑えないですよ。ただ、少し早くこちらに来てしまったんですね。
もっと、もっとたくさん楽しいことが待っていたんでしょうに。仕方が無いことではありますが・・・悲しいですね。
「じゃさ、じゃさ、佐為ってそのー、トラジ‥ロウ?だっけ?に会えんじゃねーの?」
『虎次郎』―――いるんでしょうか?・・・ここに来ていることは確かですが。
会いたい、虎次郎。あなたに話したいことがいっぱいです。
でも―――
「・・・・いない」
「え?」
分かる。一緒にいた私だから、分かる。
虎次郎は行ってしまった。―――彼方の青い世界へ
『すまない、佐為。私はまた先に行く』
(え・・・?)
虎次郎の声が聞こえたような気がした。
(虎次郎?)
(・・・・虎次郎、いいんですよ。私なら大丈夫)
「・・・虎次郎は行ってしまったみたいです」
「・・・・・そっか。残念だなー、会ってみたかったのにー」
そう言って要はん〜っと伸びをすると立ち上がった。
「話、してくれてありがと。楽しかった」
「いえ、こちらこそ聞いてくれて嬉しかったです」
その時、ふっと私の前に影が落ちてきた。顔をあげると女性が立ってこちらを見ていた。
「一昭さん」
「え?」
女性は私を見て「一昭」と呼んだ。
「ずっと探してたのよ?見つかってよかったわ。さぁ、行きましょう」
その女性は私の手を掴むとすごい力で引っ張ってきた。
私は抵抗を試みたけれど女性とは思えないほどの力で引っ張られる。
「あ、あのっ」
「ちょっと待てよ!」
私が困っていると要が女性の前に立ちはだかった。
「そいつはあんたが探してる人とは違うんだ!離してよ」
「あなた誰?一昭さん、知り合い?」
「あのっ、私」
「邪魔しないで頂戴。私達は先を急ぐの」
「そいつは佐為!一昭じゃねーの!だから離せよ!」
「・・・・・・・」
女性は黙り込んでしまった。とたんに掴まれていた手に力が込められた。
「痛っ!」
つい声をあげてしまった。
あれ?痛い?どうして?死んでいるから痛くないはずでは・・・?
掴まれている手を見ると私の手がどす黒くなっていて、さらに透けていた。
「っ!?」
「行きましょう?一昭さん」
女性はまた私を引っ張っていこうとした。
私の手がじんじんと痛む。
「離してくださいっ」
私がそう言うと女性は私の方に振り返り、手に力を込めて聞いてきた。
「なぁに?一昭さん」
なんだか怖かった。掴まれた手も痛くて、私は必死に手を離そうとした。
私の手はさっきよりも黒くなり透けたままで、それは不気味だった。
「よく聞けよっ!」
要が女性に怒鳴りつけた。
「佐為を連れて行ったら、本物の一昭さんが一人になっちまうだろ!いいのか!あんたの大切な人がここでずっとあんたを探し続けてるのにあんたは先に行っちまうのか?!」
女性はじっと要を見て、それからすっと私の手を離すと何も言わずにどこかへ行ってしまった。
「佐為、大丈夫かっ?!」
「ええ、あの人は・・・」
私はさっき掴まれていた手をさすりながら女性の消えた方を見た。
「たまにいるんだ。死んだことを受け入れられない奴とか、大切な人を探してる間におかしくなっちゃう奴」
「・・・そうですか」
痛みがひかなくて手を見てみると、まだ微かに黒く透けていて、ぎょっとした。
それに気がついた要が慌てて私の手を取った。
「まだ痛む?」
「ええ、少し」
要は優しく手をさすってくれた。すると、すうっと痛みがひいていく。
「どう?楽になった?」
手を見ると、黒くもなく、透けてもいなかった。
「ええ、大丈夫です。ありがとう」
「よかった、感染してないんだな。あの人もあっさりひいてくれたし」
「感染?」
「えー・・・とだな、俺たち幽霊には超能力みたいのがあんだけど、その力がこう、暴走って言うか、さっきみたいに手が黒くなって透けたりな。あれが酷くなると幽霊の存在が消えちゃうんだ。簡単に言うと悪霊みたいになんの。でも悪霊じゃないんだ、ただ、不幸で少し弱い人だっただけなんだ」
要はなんだか悲しそうに話している。
「で、感染って言うのはその気持ちとか力がうつっちゃうんだ、ようするに悪霊になっちゃうわけ。病気みたいなもんだよ。ただし簡単には直らないけどね」
なんだかよくわからないけれど、私は危なかったらしい。
「わかんない?」
「ええ、まぁ、少し」
要はにこっと笑うと近くにあった木を指差した。
「見てて」
要の言うとおり、その木を見ていると、葉が一枚ひらりと舞い落ちた。
と、思うと、その葉がふわっと浮いてふわふわと私の近くに飛んできた。
最後に私の手のひらにふわっと落ちて動かなくなった。
「どう?オレの力だよ?」
「えっ?!これ?要がやったんですか?」
「うん」
要は得意げに笑う。
「すごいっ!どうやったんですかっ?!」
「へっへ〜vま、集中すれば誰だって出来るんだけどな。佐為だって出来るよ?」
「私が?」
「もちろん。最初は難しいかもしれないけど、慣れれば簡単だよ」
私は手のひらに乗っている葉を見た。
これを私が宙に浮かせたり動かしたり出来るとは到底思えなかった。
「集中して、動けって思えばいいんだよ」
要がそう言ってくれるので、少し挑戦してみた。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・やっぱり無理みたいですね」
私が苦笑すると、要は『力』で私の手から葉を浮かせると言った。
「んー、そんなに難しくないんだけどなぁ」
あ、これって。
『石もつかめねーオレとはすげー差だぜ』
『うーん、そんなにムズカシクないんですけどねえ。石をつかむなんて』
あの時の私たちみたい。
くすっ
「え?何?何笑ってんの?」
「いえ。少し可笑しくて」
「え?何で?」
「ふふっ。なんでもありません」
「変な奴〜。ま、まだ力を使うのは無理かもな〜、さっき来たばっかって言ってたし」
要は葉をふわふわと宙に浮かせながら言う。
要は暫くそうして葉を浮かせていたけれど、飽きたのかそれをやめてベンチに腰を下ろした。
「どうして」
「ん?」
「どうして、そんなに必死に誰かを探すんですか?」
要は11年も探し続けて、さっきの女性は『悪霊』と呼ばれるまで『一昭さん』を探していた。
どうしてそんなに会いたいのか。
「だって・・・会いたいんだ。それだけだよ」
「なぜ11年も?だってもう、『彼方の青の世界』へ行ってしまっているかもしれないのに」
言ってから気がついた。それは要自身がよくわかっていることだということを。
考えたくないことだったに違いないことを言ってしまった。
「そうだね。それでも、やめられない」
「すみません、要。あの」
「あのさ」
要は私をまっすぐ見つめてくる。瞳の中で要の想いが揺れているように見えた。
「今までずっと会いたくて会えなかった人に、会えるなら会いたいって、思うんじゃないかな。一緒に生きてきた大好きな人と最後の最後まで、一緒にいたいって思うんだと思うよ。少なくとも俺はそうだから」
「でもさ、俺も時々佐為みたいに思う時あるよ。『な〜んでこんなとこにいんだろぉ』って。魅亜はもう行っちゃたんじゃないかな〜ってさ。結構自分勝手な猫だったし。でも、もし俺を探してたらって思うと行けないんだよ。どうしても」
「佐為は、どうしてそんなこと、聞くの?」
「すみません、嫌なことを・・・聞いてしまって」
「ん、いいんだけどさ」
どうしてこんなことを聞いてしまったんでしょう。
要はきっと嫌なことを聞かれたに違いないのに、怒らない。
「佐為?んな暗い顔すんなよ〜。俺気にしてないから」
「ほら、きっとあの人の気持ちがちょっと残ってて心が不安定になってんだよ。気にするなって!」
「あ!」
「え?」
「ごめんっ、今、魅亜に似た猫が。ちょっと行ってくる!じゃな佐為!」
そう言って要は走っていってしまいました。
一人になった私はどうしたらいいのか分からなかった。
――彼方の青い世界
「・・・・・・・・・・。」
まだ、そこには行きたくない
そう思った。でもどうしたらいいのか、どうしたいのか、分からない。
夕日がきらきらと輝いている。がんばれ、と励ましているように見えた。
夕日が沈まないのは、もしかしたら、死んだ人達を見守って励ます為かもしれない。
ゆっくりと考えてみよう。自分のことを
気持ちの整理――要はそう言っていた。遣り残したこと、会いたい人・・・・
私は何がしたいのでしょう?
碁?―――――やりたい。だけど何か違う気がする。
どうして?あんなにヒカルに強請っていた碁なのに、今は、
もちろんやりたいけれど。
すっきりしない。本当にしたいことはこれじゃない気がする。
虎次郎、会いたいけれど。なにか違う・・・
何が違う?
どう違う?
分からなくて、もどかしくて。
眠る必要なんてないけれど(というより眠れないんですけどね)、目をつぶった。

 

 

 

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