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検討の声色が変わってくると、お客さん達は苦笑しながらいそいそと退散していき、自分達の対局に入る。
それはこの2人がケンカをしている時は関わらない方がいいということを知っているから。
当の本人達と言うと…「こんなところに置いてどうする!先にこちらに手をつけなければここが荒されるだろう!」
「そこに入ってきたらこうしてだな、こう!そしたらそんな損じゃねーだろ!」
「10目は損しているだろう!だから何故、そこに置くんだ!」
「だから、ここでこうして、こうなった時に!」
「その時はここがあるだろう!」
「あ」
「あ、じゃない!それくらいわかれ!」
「ぐ、…人間少しくらいは間違いがあるんだぞ!」
「少し?!キミはさっきもヨミ間違えただろう!」
「あーっ、もう!」
がたんっ
ヒカルが立ち上がる。
それを見ていた市河さんはため息をついた。
どうしてこうケンカばかりするのかしら。
ヒカルのカバンを取り出し、ヒカルの帰る準備をしながら市河さんは考えた。
久しぶりに打てることになったのに一局で終わりなんて、アキラくんがっかりするわね。
ヒカルもアキラもここのところ忙しく予定が合わなかったため、ずっと打っていなかったのだ。
アキラくんも楽しみにしていたのに。どうして進藤くんといるとケンカになるのかしら?
それにしてもヒカルの「帰るっ」と言うセリフが聞こえないことを不信に思った市河さんが2人の方を見た。
ヒカルは立ったまま、アキラは座ったまま、お互いに睨みあっているようだ。
「…打つぞ。座れ」
アキラが碁石を片付け始める。
ヒカルはしぶしぶという感じで座る。
それを見た市河さんはほっと胸を撫で下ろし、ヒカルのカバンを片付ける。
なんだかんだ言っても碁打ちね。ケンカをしても打ちたいなんて。
また真剣な顔をして打ち始めた2人を見て市河さんは笑った。
「帰るっ」
いつもならそういうトコなんだけど、今日はその言葉を飲み込んだ。
だって、コイツに会うのも打つのも、久しぶりだったから。
もう少し長い時間一緒にいたいと思ったから。
でも、立ち上がった足は座ることを拒否するし、口は「帰る」と言う言葉を飲み込むしで、オレは搭矢を睨むくらいしか出来なかった。
搭矢が「座れ」と言った時は本当はほっとした。
嬉しい、なんて表には絶対出さずに、どかっと乱暴に座った。
それでもオレの足は座ると言う事を拒否はしなかった。搭矢のおかげで。
搭矢が言えば聞くなんて、オレってば結構素直だったんだ。
向かい合った思い人を盗み見る。
コイツの前に座って打つのがどれだけオレにとって嬉しいことか、搭矢はわかってんのかな。
オレはずっとここに来るために、ずっと打ってきたんだから。
それに、オレはおまえが好きなんだから。
やっぱ好きな奴に会えるんだったら嬉しい。たとえライバルでケンカ友達みたいな関係だったとしても。
「座れ」なんて、命令口調で言った言葉に応じてくれて、ボクはほっとした。
まだ時間はたっぷりあるのに、進藤がいなくなったらその時間を持て余してしまう。
進藤は不機嫌そうにイスに座ったけれど、打ち始めたらそんなことは些細なことになる。
いつも検討のケンカは対局をすることで忘れてしまう。
まぁ、その後また検討をするからケンカにはなるんだけど。
それでもよかった。ケンカをしっぱなしじゃなく、また打ち合えるのだから。
一度別れたらそのケンカは終了なのだから、ボクにとっては気持ちのいいくらいのものだ。
もしもまた会った時に睨み合うだけで、打つのも難しいくらいであるならボクにとっては苦痛以外のなにものでもない。
進藤とはケンカはするし、時々憎たらしいとも思うことがあるけれど、
やはり、好きな人と気まずくなるのは耐えられない。もちろん対局出来なくなるのも耐えられない。
でもボクたちのケンカはそういうものではないから。
だから、ボクは本当を言うとこういう進藤とのケンカは嫌いではない。
そう進藤に言ったら、驚くだろうな。
「ふあぁ…」
進藤が眠たそうにあくびをした。
「…よくあくびなんか出来るな。気が緩んでいる証拠だ」
そう言うと進藤は慌てて言い返す。
「何だよ。出るモンは出るんだ」
進藤は言い返すが自分でもばつが悪いと思ったのか、きつくは言い返して来なかった。
打ち合っていて、進藤が長考に入った時、ボクは迂闊にもあくびをしてしまった。
マズイと思って進藤を見ると、進藤はにまぁっと嬉しそうに笑った。
しまった。見られた。
「おまえも気が緩んでるんじゃねーのぉ?」
「キミのあくびが移った」
「へぇ〜」
進藤は嬉しそうにボクを見る。何だかバカにされている気がする。
「大体キミが長考するからだ!早く打て!」
「へーへー」
進藤はぱちっと打つ。ボクは恥ずかしさからノータイムで打ち返す。
「んな打ち方すると間違えるんじゃねーの?人間誰でも間違えんだぜ?」
進藤は面白そうに笑う。
「…さっさと打て」
「へーへー」
進藤はくすくすと笑って次の手を打った。
暫く打っいくと、進藤がいい手を打ってきたのでボクが少し間だけ考えてから打った。
すると、進藤が打って来ない。確かに考える場面ではあるけれど、何だか様子がおかしいなと思って進藤を見ると、
進藤はイスに座ったまま、寝ていた。
「は…」
ボクはバカみたいに口をあんぐりと開けて一瞬放心してしまった。
「ふ、ふざけるなっ」
今度はボクが音をたてて立ち上がる番だった。
ボクが怒鳴ったにも関わらず、進藤は一向に起きる気配を見せなかった。
「進藤…、キミは…」
ボクは進藤の横まで移動した。
「起きろ!こんなところで寝るなんて信じられない!」
ボクが進藤の肩を揺らす。それでも進藤は起きなかった。
「アキラくんっ、今度は何?」
市河さんが慌ててやってきた。
市河さんは進藤を見て、くすっと笑った。
「疲れてるのかしら?」
「こんなことろで寝るなんて信じられない。しかも対局中だったのに」
その時進藤の体がぐらっと傾いた。
「あ!」
ボクは進藤の腕を掴んで、バランスを取らせた。
「進藤!起きろ!床に叩きつけられるぞ」
「…ん……」
進藤は身じろぎをして声を少し漏らしただけで起きなかった。
「起きないわね。そっちのソファに寝かせてあげましょうか?ここじゃ危ないし。アキラくん、進藤くんを運べる?」
ボクは苦笑して「なんとか」と答えた。
市河さんは「じゃあひざ掛けを持ってくるわ」と市河さんは奥にある部屋に消えていった。
「…人騒がせ」
ボクは進藤を見てそう言うと、進藤の腕を肩に回して立ち上がらせた。
重い…
自分で歩くという意思のない人を運ぶのがこんなに大変だったとは。
ボクは進藤をずりずりと引きずりながら、ソファまで運ぶ。
「若先生、大丈夫ですか?」
北島さんが心配そうに話しかけてくれたけれど、ボクには返事をする余裕もない。とりあえず微笑みかける。
「それにしても進藤は…」
後ろから北島さんの声が聞こえたが、それを聞く余裕もなかった。
それにしてもこれだけうるさくて、しかも決して丁寧といえない運び方をしているのに、
何故起きないのか。ある意味すごい。
やっとソファに辿り着いて、ボクは進藤と倒れこむようにどかっと座り込んだ。
これだけで、疲れた。
ボクは進藤の腕を肩から下ろした。
それから立ち上がろうとしたら、ずずずと進藤が倒れてきてボクの肩に頭を預けてきた。
「ちょ、進藤…」
そう言っても相手は寝ているので何の意味もない。
「………」
まぁ、いいか。
どうせ進藤がいないと打てないし。
ボクはどうせだから進藤に肩を貸すことにした。
こんな機会はもう二度とないかもしれないし。
肩にかかる体重が心地よかった。
「やっとひざ掛け見つかったわ。私勘違いして…あ、」
市河さんがソファにひざ掛けを持って来た時には、ヒカルはもちろんのこと、アキラも眠っていた。
まるで寄り添うように、すやすやと2人は眠っていた。
「あらら…。…でも、…ふふふ、かわいいわ」
市河さんはひざ掛けを2人にかけると自分の仕事に戻った。
夢であっても、意識がはっきりしている時がオレには時々ある。
「ああ、夢だな」ってわかるんだ。
そういう時はいつも願う。
佐為か、搭矢が出てきてくれたらいいのに、って。
いつも思うのに、いつも何も起こらないままオレは目を覚ます。
いつも夢だなーって思って、会いたいなーって思って。それだけ。
何も起こってはくれない。
夢なんだからさ、少しくらいいい思いしたっていいじゃないかって思うのに。
オレの夢なのにな。
夢の中でさえも思い通りにはいかないのかよ。
今回も、また会いたいって思って終わりなのかな。
佐為は…一度、会えたのに…。
搭矢には一度も会えたことがない。
もう想うなってことなの?諦めろってこと?
相手が男だから?だから諦めなきゃいけないの?
こんなにも想っているのに、諦めろって?…そんなの無理なのに、な。
「搭矢ぁ…」
「進藤?」
「へっ?!」
オレが振り向くと、搭矢が立っていた。
「な、搭矢…」
「進藤、どうした?…それより、ここはどこだ?」
搭矢はきょろきょろと辺りを見回す。
…出てきてくれたんだ。搭矢…、搭矢に会えた。
オレは搭矢に微笑みかけると答えた。
「ここは夢ん中だよ」
「夢?」
進藤は笑って頷いた。
おかしいな、ボクはいつの間に眠ったんだ?進藤を運んで…
そうか、ソファで寝たのか。
それにしてもいくら進藤の横で眠って、しかも進藤が好きだからといって、
夢で会えるなんて、都合のいい夢だな。
「そうか、夢。それならまぁいいけど」
進藤はにこにこと笑っている。
夢で会えるなんて本当に都合がいいな。
「搭矢、行こう」
進藤が手を普通に差し出してきた。
ボクは驚いて進藤を見る。
すると進藤はボクをきょとん見て、それから自分の手を見てから顔を真っ赤にして慌てて手を引っ込めた。
「あ、べ、別に、繋ぎたいんじゃないからなっ」
進藤はくるりと向き直って歩き出した。
ボクは進藤にわからないようにくすっと笑って、すぐ進藤の後を追った。
「進藤」
「何だよっ」
進藤が振り向く。ボクは進藤に手を差し出した。
進藤はボクを見て驚いていた。
「いいよ、繋ごう」
進藤はおろおろと視線を彷徨わせて最後にボクを見た。
まるで、いいのか?と聞くように。
ボクは笑って頷いて、それから聞いてみた。
「キミが嫌だと言うならしないけど?」
すると進藤はぱっとボクの手を取って歩き出した。
「ヤなわけねーだろっ」「それでボク達はどこに向かっているんだ?」
進藤に聞いてみた。
「別に。ただ歩いてるだけ」
「それだけ…?」
「うん。だって夢だし」
そうか、夢だから別にするべきこともないか。
「それじゃあ、起きて対局の続きを打った方がいいんじゃないか?」
折角今日は久しぶりに会えたんだし。次にいつ会えるかも、わからないし。
「ははっ、搭矢っ、どうやって起きるんだよ?おまえ知ってる?」
「あ…そうか…」
こういう風に夢だと認識して夢を見ることがなかったから不思議だ。
進藤は笑いながら「殴ったら起きるかもなー」なんて言っている。
「じゃあ殴ってみようか?」
ボクが握りこぶしを見せると進藤は首をぶんぶんと振る。
「冗談じゃねーよ。夢でまでおまえに殴られるのは勘弁」
そう笑って言うのでボクも笑いながら返した。
「ボクも夢の中でまでキミを殴るのは遠慮したいね」
ボクらは手を繋いだまま、意味もなく歩き続けた。
目的もなかったけれど、それでも楽しいと思った。
進藤の隣で、進藤の手を握って。それだけで、楽しいと思う。
進藤はと言うと、前を見つめて嬉しそうに歩いている。
ボクの視線に気がつくと微笑んで首を傾げた。
「何?」
「いや、楽しそうだなと思って」
進藤はにっこりと笑うと握った手に力を込めた。
「だって楽しいもん。搭矢は?ツマンナイ?」
進藤は少し不安そうにボクを見た。ボクは首を横に振って答えた。
「ボクも楽しいよ」
そう言うと進藤は嬉しそうに笑って言った。
「よかったぁ。オレずっとおまえに会いたいと思ってたから」
「ボクに…?」
搭矢はぽかんとオレを見た。
「そ。ずっと思ってた。搭矢に会いたいなって。現実では…こうして手も繋げないから…」
オレがにっこりと笑いかけると搭矢は繋がれた手を見てから、オレを見た。
「…そうだね」
その声が少し寂しそうに聞こえた。
「搭矢」
「何だ?」
オレは搭矢の手をぎゅうっと握り締めた。
それから立ち止まって、手を繋いだまま搭矢の正面に立った。
「進藤…?」
「オレ、搭矢のことが好きだ」
搭矢は目を見開いてオレを見た。
「ずっと、好きだった。おまえが男とか関係なく、おまえが好きだから…その…」
そこまで言うと、搭矢はいきなり顔を赤く染めた。
な…に、赤くなってんだよ!んな反応されたら…オレだって…何か恥ずかしいじゃねーか!!
オレは何かもっと言いたかったけど、搭矢は真っ赤だし、オレも何が何だかわかんなくて頭の中で一人であたふたしていたら搭矢は少し微笑みながらオレに言った。
「夢って…すごいな…」
「へ?」
「ボクが聞きたい言葉が出てくる」
搭矢が聞きたい言葉…?
それって、オレの言葉…?それって、それって…
「搭矢もオレのこと好きなのっ?!」
そう言うと、少し収まっていた搭矢の赤面がぶり返した。
「ね!そうなのか?!」
搭矢はうっと言葉を詰まらせて、首を縦に振る。
「そ…、なら、オレも都合よく搭矢の言葉を聞いてることになるじゃん」
夢か…。でも…
「でも、夢でも…オレは嬉しいよ」
搭矢に笑いかけると搭矢もにっこり笑ってくれた。
オレたちはまたゆっくりと歩き出した。もちろん手を繋いだまま。「今は夢だけどさ、いつか現実でも言うからな」
ちゃんと起きてる時に、もう一度。
「うん」
搭矢は笑って頷いてくれる。
「ああ、でも現実のおまえだったら『新手の嫌がらせか?ふざけるな』とか言って去って行きそうだなぁ…」
そう言うと、搭矢は少しむっとして言い返してきた。
「それはキミの態度が真面目じゃないからだろう」
「真面目だったら…伝わんのかな…」
こうやって笑ってくれるのか?
搭矢の手をぎゅっと握り締める。暖かいのに、これは幻なんだってさ…
「伝わるよ。ボクはキミが好きだから」
夢でも、搭矢だから、こいつが言うと説得力があるというか…
もしもオレの都合のいいように自分で作り出した幻だったとしても。
「ん。絶対言うからな。だからその時冷たくあしらわないでくれよ?」
「そうだな、キミ次第って言っておく」
笑った搭矢は夢だなんて信じられないほど搭矢そのものだった。オレはたとえ夢の中でも両思いになれたことに浮かれていた。
にこにこ笑ってたら搭矢が「気持ち悪い笑い方をするな」って顔を背けられた。
ちらっと搭矢の顔を盗み見ると、搭矢は顔を赤らめて不機嫌な顔をしていた。
それを見たとき噴出しそうになった。
だってすっげーかわいかったんだ。わかりやすい照れ方だ。
でも言葉にはしなかった。わざわざ怒らせることはないと思ったから。
上機嫌で歩いていたら、隣にいた搭矢の体がぐらっと傾いた。
「わわっ?!」
握っていた手をぐいと引っ張られてオレもよろける。
搭矢を見ると、なんとこけていた。片手をついて、膝をついて、でもオレと繋いだ手だけはオレとしっかり握って。
「大丈夫か?搭矢」
「うん、とりあえずは」
搭矢の後ろを見たけど石とかこける原因になるようなものはなかった。
こいつ、何もないのにコケたのか?
搭矢は立ち上がって、膝をぱんぱんと払ってオレと握っていない方の手をじっと見た。
「どうした?」
搭矢の手を覗き込むと、搭矢の手のひらが少し擦り剥いていた。
「あー。痛い?」
「少し」
「あ、そうだ」
オレは確かポケットに入っているはずの絆創膏を取り出した。
あってよかった。
オレは絆創膏の包みを開けてすぐに貼れるように準備して搭矢に向き合った。
「はい。手出して」
「いいよ、大したことないし」
「でももう開けちゃったし」
そう言うと搭矢はしぶしぶ手を差し出した。
オレがぺたっと絆創膏を貼ると搭矢はそれをじっと見て呟いた。
「…かっこ悪い」
「は?…ぶっ、あははっ、な、おま…っく、ははは」
思わず笑ったら搭矢はむすっとして聞いてきた。
「何が面白いことがあるんだ」
オレは笑いながら首を横に振った。
コイツがカッコのこと気にするとか何かおかしい。
言ったら失礼だろうけど。てか殴られるかな。
オレは絆創膏の包みをポケットに戻して搭矢の手を引いた。
搭矢はオレを少し睨んでたけど、オレは無視を決め込んだ。
夢だとこんな一面を見れるから楽しい。
ボクは擦りむいた手のひらを見つめた。
握った時に違和感があるけれど、なんとなく嬉しかった。
進藤が心配してくれたことが。
笑われたのは心外だが。
「まだ手痛いのか?」
手のひらを見ていたら進藤が心配そうに聞いてきた。
「いや、大丈夫だ」
ボクが笑ってみせると進藤も笑い返してくれた。
また歩いていると、周りの景色が少し揺らいだ気がした。
進藤は立ち止まって、手をぎゅうっと握り締めてきた。
「進藤?」
進藤はボクの手を離すとボクの前に立ってボクを見た。
「また会いたいな」
「え?」
進藤はボクの肩を掴んで一歩前に出て、ボクの耳元に顔を寄せて囁いた。
「これだけ許して」
進藤はボクの頬に羽のようなキスをするとにっこりと笑った。
気がつくと目の前に進藤の顔があった。
「進藤…」
「オハヨ」
「……ああ」
夢だったんだ。ボクは起きたんだな。
ボクはさっきの出来事を思い出して頭が沸騰しそうになった。
進藤がぼおっとしているボクを心配そうに見ていたから、慌ててボクは冷静を装って微笑み返す。すると進藤は1拍置いてからふわりと笑った。
その時、手のひらにぴりっと痛みが走った。
手を見ようとしてひざ掛けがボクらにかけられていることに気がつく。
「市河さんがかけてくれたんだ」
「そうみたいだな」
ボクはそこから手を出してみる。その手を見てボクは声も出なかった。
ボクの手のひらには絆創膏が張ってあったのだから。
眠る前はそんなものつけていなかった。
慌てて進藤を見ると、進藤はボクの手を凝視して固まっていた。
まさか…
ボクがありえないことを考えていると進藤が慌ててポケットを探りだす。
進藤がポケットから取り出したのは絆創膏の包み。
中身は…ポケットからは出てこなかった。
ボクらは顔を見合わせた。
「…そ」
進藤が声を漏らす
「んな、夢みたいなこと…」
どうやら進藤もボクと同じことを考えたらしい。
でもそんなこと起こるはずがない。
「なぁ、搭矢…何、どういうこと?」
「え、ボクに聞かれても…」
「だ、だって、これ、え?」
進藤は絆創膏の包みを差し出して頭を傾げた。
「ボクに聞くなと言ってるだろう。こっちだって、手に…」
絆創膏があるんだ、と言おうとして、進藤が思い出したように聞いてきた。
「手、まだ痛いのか?」
「いや、痛くはないんだけど」
「そうか。…じゃなくって、やっぱし、あれって…夢じゃねーの?」
「な、そんなことあるわけないだろう!」
「じゃあ、なんで絆創膏は使われてて、しかもオレたち同じ夢見てんだよ!」
「し、知らないよ!それより本当に同じ夢を見ていたのか?勘違いじゃないのか?」
「じゃ、確かめる?」
「え?」
「何したか言いあって確認とろっか?」
「……」
ボクは夢の中の出来事を思い出して、固まってしまった。
何を言えと言うのか。
ボクが固まっていると進藤は「あ」と声を漏らして、そのまま顔を赤く染めた。
「や、やっぱ確認はいいや。絆創膏だけで十分…」
進藤はあたふたしながら言った。
進藤は黙ってボクをじっと見つめた。
「…あれ、マジ?」
「……あれって何だ」
「あれはあれだよ…」
「わからないな」
「…おまえわざと?」
「…何が?」
「おまえがオレに言ってくれたこと、嘘じゃねーよな?」
「………」
ボクが黙っていると進藤はずいっとボクに近づき、答ろ、というように目で促してきた。
「…キミこそどうなんだ」
そう言うと、進藤は少し考え込んで、にっこりと笑った。
「ないしょ?」
何だ、内緒って。キミがそういう気ならボクだって。
「じゃあ、ボクも内緒にさせてもらうよ」
「あー、まねっこ〜」
進藤は不服そうに頬を膨らませた。
「うるさいな。もういいだろう、さっさと続きを打つぞ」
ボクが立ち上がろうとすると、進藤がボクの手をぐいっと引っ張った。
おかげでボクは立ち上がることが出来なかった。
「何だ?」
「え…っと、まだ時間あるだろ?」
「…? あるにはあるけど。それが何だ?」
進藤は掴んだ手にぎゅうっと力を込めた。おかしいけれど、それがまだ夢の中にいるような錯覚を起こさせる。
進藤は視線を落として言った。
「まだいいだろ?」
何がだ、と問おうとしたら、進藤が手を離し、ほとんど落ちかけていたひざ掛けを持ち上げてボクの肩にかけて、それから自分の肩にもかけた。起きた時と同じ状態になる。
すると、進藤の手がそっとボクの手の上に重なった。
進藤は、まだ手を繋いでいたいということなんだろうか。
ボクが進藤を見つめていたら、にっこりと微笑まれた。
「………」
何か言いたかった。でも言葉にするのは難しくて、ボクは思い切って行動に出てみた。
重ねられた進藤の手を握り締めた。
ボクは進藤の視線が来ないうちに、進藤がいない方に顔を逸らした。
見なくてもわかった。進藤が驚いた様子でボクを見て、それから嬉しそうに笑った。
そして、進藤は前を向く。最後にそっとボクの肩に体重をかけてきた。
あの夢を見る前の時のように。
「サンキュ」
進藤が小さく囁いて、手を握り返してくれた。
もう少し、ゆめうつつでいたいのはボクも同じだったんだ。
柴崎ケイ様が踏んで下さいましたv
リク内容は『夢』って言うのが前提で、
「意地っ張りな2人が夢の中で素直になってー実は夢は共有してた」てな感じのリクでしたv
>「夢じゃなかったのか!」と動揺する様子
>なかなか素直になれない意地っ張りなヒカル&アキラが見たい
特にこの2つがすっごく萌えvだったので、私も燃えてました。
しかしながら上手く書けずに、最後の部分は3回ほど書き直しをしてました;
難しいけれどやっぱりリクって楽しいな〜と実感させてもらえましたvvv
ケイ様、リクありがとうございました。